PHASE-1434【バンカーバスター】

「兄ちゃん! 大丈夫かい!?」


「お、おうよ……」

 ミルモンへと返しつつ、体中に走る痛みに涙目になってしまう……。

 涙目姿を目にしたミルモンは、全くもって大丈夫じゃないと心配の表情。

 本当に大丈夫だからと、優しく頭を撫でてやる。


 ベルやガルム氏のようにはいかないけども、これでも以前からすれば常人離れしているのは確かなんだよな。

 高所から着地とか、普通の人間ならタダじゃすまないからな。ブーステッドと他のピリアによる肉体強化様々だよ。

 それに体に走る痛みは着地によるものよりも、ガルム氏の拳打による影響の方が大きい。

 防いだ一撃でこれなんだからな……。

 直撃すれば一発KOは必至。

 

 追加ルールで回復アイテム使用可能とかにならねえかな……。

 と、恰好の悪い事を考えている中でもガルム氏の攻撃は止まらない。

 俺を追うように急降下から着地を決めれば、即ラッシュ。

 距離を取る回避だけで精一杯だ。

 

 これだと相手のオーラアーマーを消費させるために気弾を使用させるという事が出来ないね。

 使用している本人だからこそ、その欠点だって理解しているのは至極当然か。

 だからこそ使用を控えての、接近戦を仕掛けてくるんだろう。


 ――……う~む。どうやって撃たせてオーラを消費させるか。


 距離を取りつつの戦い方を優先しても、ガルム氏の方がアクセルから次の攻撃へと繋げるのが上手い。

 この部分で上回れるのは、ブーステッド使用時のみ。

 でもそうなるとブーステッド使用過多で先にこっちがダウンしてしまうので、ご利用は計画的に――なんだよな。

 

 対してガルム氏はこの一戦の間、豺覇を展開できると言っていた。

 ブラフでこちらを揺さぶるというのは、あの御仁の性格からしてまずないだろうから、真実だろう。


 ――……ふむん……。


 アクセル使用時の攻撃。能力の持続力ともに俺は負けている……。

 こうなれば発想での勝負なんだけども……、


「ふぃい!?」


「よくもまあ器用に躱す」

 接近から繰り出される攻撃を回避する事に手一杯で、相手に気弾を出させるという事にまで考えを巡らせる事が難しい……。

 

 持久力を考えると、短期決戦を仕掛けたい。


「そら!」


「ふぅ!」

 豪腕が生み出す風圧。

 体の側を通過する風圧だけでも並の存在ならダメージを受けていることだろう。

 ありがたきは火龍装備とピリア。

 感謝しつつも次ぎに迫る掌底は、身を屈めて回避。

 直ぐさましゃがんだ姿勢を活用してバックステップで離れる。


「まったく!」

 トロールのような大きさを誇るオーラアーマー・豺覇。

 鈍重な打撃は一切無く、バンタム級ボクサーのようなスピードある拳打で殴りかかってくる。

 拳の面積も広くて速い連打もこなせる。


「それを回避する俺は凄いよね!」


「いいぞ。そうやって自分自身を誇れる男になれ」

 なる為にも目の前の強者を倒さないとね――!


「!?」

 使用制限のある能力に頼り、面積の広い連打を掻い潜って懐へと入り込む。

 ガルム氏の上半身を象った巨大なオーラアーマー。

 デカいから懐に入り込めば腕を振り回す攻撃ってのは難しいだろう。

 

 ――まあ、


「アクセル」

 巨大オーラが攻撃をしかけてこなくても、ガルム氏自身が見舞ってくる白打は健在だというのも理解している。

 だから懐に入り込むのもフェイント。

 アクセルで一気に背後に回り込んでからの、


「マスリリース!」

 右手の木刀による一打はここでも零距離。

 叩き込むと同時に、


「ぎぃぃぃ……」

 背部に発生する青い爆発。

 強烈な衝撃はファースンからアンリッシュへと変えたのが原因。

 ガリオンのニージュに似たカウンターは、やはりガリオンの比じゃない威力。


「ぬ!」

 まあ、吹き飛んでやらないけども。

 マスリリースを打ち込んだ木刀を地面に突き刺し、この位置に留まるように踏ん張る。

 切っ先を地面に触れさせたり、突き刺すってのは俺の矜持に反するものなんだけど、ガルム氏に対しては、今まで持っていた矜持を捨て去らないとダメージを入れる事は出来ない。

 

 ここでマスリリースを纏った左の木刀を構える。

 得意な上段からの構えではなく、中段位置で構え、腕を引いて切っ先をガルム氏へと向けての刺突の構え。

 

「貫け!」

 アンリッシュを放ったことでオーラが薄くなった箇所に向けて刺突を打ち込む!

 イメージとしては、地下の目標を破壊する兵器であるバンカーバスター。

 木刀をオーラアーマーへとねじ込み、内部のガルム氏にダメージを与えてやるという気合いを込めてマスリリースを放つ。


「かぁ!?」

 耳にしたかった苦痛の声。

 ――が、浅いのは見て分かる。


「や、やってくれる……な……」

 浅くはあったが、この声を耳にし、この攻撃方法で間違いないという可能性を見いだせた。

 初手だとレザーローブを掠った程度だったけども、今回のは確実にガルム氏へと届いたからな。

 しかもオーラは初手の時よりも分厚くて堅牢。そこに痛打を与えたことは自信に繋がる。

 

「らぁっ!」

 絶好の攻め時なので、ブーステッドの発動を継続しながら木刀による二連撃。


「くぅおおっ!?」

 トロールほどの身の丈があるオーラアーマーを纏うガルム氏が、二連撃を受けて後退。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る