PHASE-26【ギスギス】

「躊躇するとは情けない」

 反面ベルは冷たく俺を見下すように言ってくる。


「でもさ、俺、命を奪うとか――」

 経験が無いと、続けようとしたところで、胸ぐらを掴まれてしまう。

 強く引かれてガクンと首が動く。むち打ちになるかと思った……。


「ふざけるな! 私たちにだけ命を奪う役をやらせ、お前は高みの見物か!」


「そ、そうじゃなくて」

 く、苦しい……。凄い剣幕と炯眼だ。

 目を合わせることも出来ない。

 だからこそ余計に苛立ったのか、歯を軋らせる音が耳朶に届く。


「だ!?」

 倒された。地面に尻餅をつく。岩肌だから凄く痛い。


「なにすんだよ」


「黙れ腑抜け!」


「命のやり取りに意を唱えて、躊躇したら腑抜けなのかよ!」

 殺すことが正しいのかよ。感性あわねえよ。


「こんな男が私たちを呼び寄せたとは! さっさと元の世界に帰してもらいたいな」


「そんで命の奪い合いか? 殺せることがそんなに偉いのかよ」


「なんだと!!」

 ベルの周囲から大気がひりつき始める。

 俺だけでなく、近くにいる女性たちも怯える。


「いい加減にするんだ。こんな寒空の下で、女性たちをこんな姿のまま、いつまでも放っておくつもりか?」

 ゲッコーさんが間に入る。

 ベルはフンと鼻先であしらうと、俺に背中を見せる。


「彼の世界で、彼が住む国は平和なんだ。こういう事から縁遠いんだよ」

 フォローをしてくれるゲッコーさん。


「だとしても、心構えの問題です。自分で行動と実行が出来ない者と行動すれば――」


「――皆が死ぬ。それは理解している。だが、もう少し待ってやれ。こういう状況下だから、待つのも歯がゆいだろうが、待ってやれ」

 なだめてくれている。

 最後の一言は凄く迫力があった。その声を受けて、ベルは俺を瞥見。

 でもそれだけだ。後は目も合わせてくれない。

 やれやれとばかりにゲッコーさんは笑んで、煙草を吸い始めた――――。


「いけそうか?」

 紫煙を口から吐き出しつつ、問うてくる。


「たぶん。というよりゲッコーさんは出せませんか?」


「ああ、無理だな」

 どうやら装備武器とかアイテムまでしか出せないみたいだな。

 二人で会話をしつつ、女性陣の移動方法を考える。

 流石に裸足で全裸に近い状態で、ここから王都まで歩きなのは酷だ。

 五十人ほどいる女性たちを一気に運べる案を出し合っていた。

 ゲーム内のトラックをと考えて、ゲッコーさんに頼んだけど、出せないとの返答。

 それを聞いてむしろ安心ではある。ゲッコーさんの作品には、核兵器搭載の二足歩行兵器もあるからな。

 あれだけは絶対の禁じ手だ。それを俺がコントロール出来るのはいい事かもしれない。

 もちろんゲッコーさんの事は信じているけども。そう、ゲッコーさんは……。


「俺にも見せてくれよ。奇跡の力を」

 何も無いところから銃器を出していることも、十分に奇跡だとは思うけども。

 言われてプレイギアを出し、


「輸送トラック」

 言えば、6×6輪駆動の幌付きのトラックが現れる。

 出せるんだな。人だけじゃなく、こういった物も。となると、ゲッコーさんの作品に出る二足歩行兵器は、絶対に召喚はしないようにしよう。

 じゃないと、俺が魔王を凌駕する大魔王になってしまう。


「M 939 5tトラックか」

 念のためにもう一台召喚する。


「十分だ」

 と、ご満悦だ。

 ただ二台召喚したのはいいけども、俺は運転はできない。

 無免許で法律違反とかはここでは関係ないけども。単純に運転経験が無い。


「……ベル、運転できるか?」

 さっきの事でちょっとギスギスしてしまったから話しかけづらいけども、勇気を出して話しかけてみた。


「――――見せてもらえたらな」

 ちょっとの間が凄く長く感じたぞ……。

 でも運転は出来るようだな。

 モチーフがWW1なんだし、軍将校なんだから、運転くらいは出来るよな。

 ――――見せてもらえたならと言っていたが、使用はほぼ変わらないようで、問題なく運転してくれる。

 ただ……。

 ゲッコーさん気をつかってくれたのかな……?

 正直よけいなお世話と言いたいよ。

 ベルが運転するトラックで、ベルの隣には俺……。

 はあ~……。なんて森閑だ……。トラックの駆動音と、揺れる音がよく聞こえるぜ……。

 異様に喉が渇く。大体、俺は女の子と会話とか普段はしないんだけど。

 それなのに、こんなスタイル抜群の美人の隣とか、ハードルが高いとかってレベルじゃねえぞ!

 トラックに併走する白馬に乗った方が、俺の精神世界アストラルサイドも穏やかってもんだ。

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