PHASE-25【チートが二人いるとこうなる】

「とんでもねえ……」

 発揮されるオーバーキル……。

 出立時に、問題ないとか言ってたけど、本当に問題ないな……。

 一人で容易くじゃないか。たったの一振りだぞ。なんだよこの強さは……。


『ああ……、こっちでも見えた。凄いな、彼女の力は……』

 伝説の兵士の渋い声も強張ったものだ。仕方ないか、現代兵器なんかも使用せずに、剣を一度振るだけで、門一帯が敵諸共に灰燼と帰すんだから。


『おっと、そっちの一撃で震え上がったのか、こっちに来たぞ』


「大丈夫ですか?」


『問題ない、通路を破壊する』

 ディスプレイからカチッと音がすれば、激しい爆発音が大気を震わせる。

 一体どれだけ仕掛けたのかと言いたくなる程の大爆発だ。

 確かに、砦を使用不可能にするとは言っていたが、これほどとは……。

 砦の至る所から、黒炎と火の粉が外へと漏れ出している……。

 ベルに対して驚いていたけど、あんたも大概だよ……。

 ゲッコーさんに迫るオーク達の退路も塞がれてしまったようだ、少数だけが取り残され、やけくそとばかりにゲッコーさんを狙う。

 門に攻めてきたベルに対して、人質を利用しようとしたら、その人質が救い出されていた。

 それを実行したであろう眼前の男を許さないといったところか、剣や斧をゲッコーさんに向けて咆哮。

 一体のオークが、手にした幅広の剣で襲いかかる。

 だが、動き出した途端に、パシュンと、小さく渇いた音が通路に響き、迫っていた一体が絶命する。

 5.56ミリをセミオートで発射。ヘッドショットを鮮やかに決めていけば、瞬く間に撃退である。

 その他の武器は今回は使わずじまいか。

 ―――――ふぅ……。


「遅いぞ」


「いや、だからベルが早いんだよ」

 戦いになればすぐに最前線なんだからな。

 岩肌が熱を帯びている。

 無機質な風景に、炎が至るところで立ち上がり、地獄のような光景だ。


「大した数ではなかったな」

 多分だけど、殆どがC-4による爆発が原因で、瓦礫の下敷きになっていると思う。

 だとしても、本来は一人で対処出来る数ではなかっただろうに……。

 ――……死体なんてありゃしない。

 俺、トロールが活躍しているところを今のところ見ていないんだけど。

 でっかい丸太や大剣を叩き付けるとかってのを見る前に、毎度、消し炭だからな……。

 多分、あいつって、普通に強いポジションだと思うんだけどな~。


「容赦ないぜ」


「容赦などする相手か!」

 怒らなくてもいいだろう。

 牢屋の光景を見てるから無理もないけど、俺に毎度、怒りをぶつけてきてほしくない。


「無事か?」

 アサルトライフルの銃口を地に向けて、俺たちと合流するゲッコーさん。

 後ろには大勢の女性が、かろうじて隠せている程度の、破いたシーツ姿。水着のようだ。

 ここから出られるという喜びの表情もあれば、精神的に疲れ切っている人もいる。というかそっちの方が多い。


「もう安心していいですよ。王都まで無事に送ります」

 何もしていないからな、せめて皆をエスコートするくらいは――――、もちろん下心なんてない。


「いやぁぁぁぁぁぁぁ」

 俺の側で女性が叫ぶ。

 最初は手を差し出そうとした俺が怖かったのかな? と、ヘコみそうになったが、声を発した女性の視線を辿れば、瓦礫からオークが一体、這い出てきた。

 近場に落ちていた瓦礫の一部を手にして、殴りかかろうとしている。

 咄嗟に女性の前に立つことが出来たけども、刀を抜こうとするが、抜けないでいる俺。 

 動けない……。

 恐怖ではない。オークに対して、この世界に来た時に、俺は戦うことが出来たから。

 あの時、使用したのは木材だったから。

 でも、今は違う。

 命を奪うことの出来る利器。だからこそ躊躇してしまう。木材の時にも喉元を狙った突きを躊躇したのを思い出す。

 色々と考えてしまうと、思考は停止するんだな……。

 パシュンと渇いた音が一つ。

 眉間から鮮血を流しながら崩れ落ち、オークが絶命。振り向けば、MASADAを構えるゲッコーさん。


「ありがとうございます」

 救われたことに感謝して、深々と頭を下げた。


「気にするな」

 口周りに生やした、ハリウッディアンからなる髭スタイル。

 ワイルドだが、優しい笑みを見せてくれた。

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