PHASE-1241【同族に任せるのが一番】

 てなわけで――、


「マイヤ、結果をお願いします!」


「会頭の勝利です」


「あざっした」

 俺への勝利宣言に対してフランクに返す。

 まだまだ俺には余力があるぜ感を周囲へと見せるための強がりだったりもするが、俺の強がりに気付くことのないギャラリーからはドッと声が上がってくれたので、勇者で会頭という立場の面目は保てた。


「おのれ、またしても負けた……。私が受けるはずの歓声が……」


「もっと上手く扱えるようになろうな。そしたら再戦を受けてやろう。この遠坂 亨、いつ何時、誰の挑戦でも受けるからな」


「くぅ……。圧倒的! 圧倒的、強者感! 私がその位置に立ちたかった! 立ちたかった!!」

 地面に拳を叩いて本気で悔しがってる姿のコクリコも珍しいな。

 意識が高いのはいい事ではあるけどね。

 俺もコクリコに負けないだけの意識を持って成長していかないと。

 一対多の戦いを行って勝利はしたけども、二刀流への手応えはまだまだ遠いからな。


 そんな俺の考えを知らないドッセン・バーグ、ランシェル、コルレオン達は、周囲の歓声に負けないほどの声で称賛を送ってくれる。

 二刀の道はまだまだ遠いが、この面子と戦えてよかった。

 ベテランは言わずものがな。新人さん達の質が高いのも見るだけでなく直接、手合わせをすることで分かったからな。

 質は高くてもまだまだ粗も目立つ。が、それ以上に伸びしろが期待できる。


「お見事でした」


「有り難う」

 審判を務めてくれたマイヤからも称賛を受ける。


「では――」


「ん?」


「次は私が――」


「あ、いいです。ギルドハウスでお願いしたけど、今日はもういいです……」

 ――……ここでマイヤとの連戦ってのは勘弁してもらいたい。

 なんだかんだでしんどいからな。

 マナ不使用の状況下にて、今の俺の地力だとここまでにしときたいのが率直な思いだ。

 反面、マナを使用しないと、俺の持久力ってのはやはりこの程度しかないんだな。ってのが問題点として浮き彫りになる。

 いかに肉体向上のピリア。回復と疲れを癒やすポーションに頼っていたのかが分かったよ。

 正直、余力があるならマイヤから二刀を教わりたかったのは本音だ。

 しかしその本音に体がついていけない情けなさ。

 

 だが収穫もあった。


「コクリコ」


「なんです? 勝者として私になにか言いたいのですか?」

 いつまで拗ねてんだよ……。

 ここまで長く打ちひしがれている姿ってのも珍しいけども。

 勝ち気な性格であるコクリコに連敗は辛かったようだな。


「そんなに悔しいならもっと強くなろうぜ。てことで今後もアドンとサムソンの操作練習に付き合ってやるよ」


「――はぁ?」


「いや、以外と俺にもいい練習方法になると思ったんだよ」

 迫ってくる球体に二本の木刀で切り払いを試みたけども、一切、切り払うことが出来なかった。

 

 複雑な軌道を可能とするアドンとサムソン。

 

 二つのサーバントストーンを相手にすれば、両手を別々に動かすという練習にもってこいだと思う。

 意識して両手を別々に動かすという修練を積み重ねていけば、体がその動きを覚えていき、いずれは意識を二刀に傾けなくても自分の腕のように自在に扱えるようなれると思う。

 

 一緒に鍛練をすれば、コクリコの操作練度を上げていくのにも好都合だと説明すれば、


「分かりました」

 と快諾してくれる。

 やはりコクリコも己を高めようとしているようだ。

 いろんな魔法を習得するために、見えない所で努力をするタイプでもあるからな。

 これに加えて黄色級ブィにも昇格したから責任感も芽生えているんだろう。


 ――フッ――。


「何かおかしいですかね?」


「いや別に」

 戦いを終えて余裕が出てきたことでコクリコの認識票をちゃんと見れば、やはり笑えてくるね。

 本当に名前の部分が光沢のある黒色で塗られているからな。

 側にいるドッセン・バーグの物と比べれば、余計に違いが分かるというものだった。

 少しでも差別化を図りたい少女。その名は――コクリコ・シュレンテッド。


「あ、もちろん時間に余裕がある時でいいから、マイヤにもお願いしたいんだけど。いいかな?」


「お任せください」

 王都で過ごす間は地力アップに注力していこう。


 ――――。


 ランシェルを残して皆と別れ、修練場をわずかに移動。

 俺達の戦いに触発されたのか、裂帛の気迫がこもった声が方々から上がっている光景を目にしつつ、集団を集めてある人物を待つ。

 

 ――光景を目にしていれば、側に立つランシェルが俺の側面でカーテシーによる挨拶をしていた。

 

 俺がそっちを向く前に、


「視察に修練。お忙しいですな。少しは休憩できましたかな?」

 と、先に声をかけられる。


「わざわざのご足労、感謝します」

 ランシェルに遅れて俺も頭を深々と下げて挨拶。

 対象はゴブリンのアルスン翁。


「一人で多数の強者を相手にする動きは素晴らしかったですよ」


「見ていらっしゃったんですね。翁にそう言っていただけると自信に繋がりますよ」

 見ていたなら直ぐに合流できたんだろうけど、俺が一息つくまで待ってくれての参上ってのが翁の心配りなんだろうね。


「それで――この者達ですな」


「はい」


「ギャ?」

 俺と翁の話をちゃんと待ち、俺達の視線が同じ方向に向いたところで、代表して先頭のゴブリンが一人、手を挙げてのフランクな挨拶で返してくる。


「なんとも慕われているようで」


「俺にとっては命の恩人たちなんですよ」


「ほう。ですが見立てだと力は無いように思われますな」


「確かに力はまだまだ頼りないんですけどね」

 ――デミタス戦での経緯を話せば、皺の多い緑の肌が更に皺を深く刻む。


「気構えは良しといったところですな」

 同族の活躍を聞けば、喜びの語調となる翁。

 強敵に対して立ち向かうという気概は気に入ったようだ。


「しかしデミタスと戦い撃退までするとは」


「向こうも翁のことは知っていたようですね」


「直接の会話というのは挨拶程度でしたがね。出自が悲惨だったのは記憶しております。フーヤオ族最後の生き残りにして才女。この老体が知っている時よりも更に力をつけた状態となれば、想像を絶する強さだったでしょうな」


「まったくですよ。あいつとは二度と戦いたくないですね」


「そんな存在を前にし、この者達は勇者殿の為に立ち塞がったんですな」


「ええ」


「逃げ足も秀逸だったようですが」


「そうなんですよ。ですからそこを美点として活かせたポジションをと考えているんですけどね」


「なるほど。この老いぼれにそこを強化してやれということですな」


「老いぼれと言うほど老いていないでしょう。動きとなれば機敏で静寂。まだまだ現役でいてもらいたいですね」


「この世界の状況からすれば、まだまだ休むことは叶いませんな」

 呵々と笑う翁。

 側に立つゴブリン達は、俺達の長く続くやり取りに対し、声を追いかけるように首を振って眺めていたが、大笑する翁に反応するように自分たちも笑ってみせる。


 ほぼほぼこちらの会話内容は理解していないんだろうけども、同族が楽しげに笑っているから、つられて笑っているようだ。

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