PHASE-1431【豺覇】

 ――……とは言ったものの……。


「こういう事も出来るんだな……」


「別段、攻撃しても良かったっていうのも頷けるね……」


「だな……。構えている間に攻撃されても大丈夫ってことか」

 目の前の光景に呆気にとられてしまう俺とミルモン。

 ――眼前では、ガルム氏が纏っていた青いオーラアーマーが隆起しながら肥大化していく。

 厚みを増していくオーラに攻撃を加えたところで、攻撃自体が中心の存在には入らない……。

 

 ――オーラアーマーの膨張が収まれば、そこから形を整えていく。

 整った姿は、ガルム氏の上半身を象ったようなオーラだった。

 トロールやオーガほどの大きさまでになったオーラ。


「まるでハイパー化だな。違うところは暴走してないってところか……」


「これを使うのは久しぶりだ。これからはショゴスとその配下たちと戦うことになる。俺もこれを多用して戦わないといけない事になるだろう。なので感覚を思い出す為にも、勇者にはまだまだこの試し合いに付き合ってもらう」


「ショゴス達との戦いでは期待させてもらいますよ。そして、今から見せてもらう力にも期待させてもらいます」

 あえて上からな言い様をしてはみたが、上擦った声だったから、強者然とした発言にはほど遠かった……。


「で、それがガルム氏の取って置きってことですよね? なら名前なんかもあるんですか?」

 継いでの質問。

 天破槍嵐てんぱそうらん地壊雨槍じかいうそうって技名をつけるくらいだからな。

 奥義的な立ち位置である目の前の能力にも技名はつけていて当然だろう。


「我、ガルム・ヴァレーが使用する奥義の名は――豺覇さいはという」


「サイファー」


「サイハだよ。兄ちゃん」


「お、そうか」

 サイハ――ね。


「この力を使用する以上、観衆にはもう少し距離を取ってもらいたい」


「だ、そうだぞ。クラックリック」

 審判として俺達の攻撃範囲外ギリギリのラインで留まっているクラックリックに伝えれば、直ぐさま指示。

 観衆の中にいるギルドメンバーが指示に従って素早く移動させていく。


「領袖が優秀だと、下の者も優秀になる」


「凡庸な俺を優秀な存在達が支えてくれているから、俺が優秀に見えているだけですよ」


「少しは自分自身を誇れと言っている。それだけの力を持っているのだからな。そう思うだろう使い魔」


「全くだね」

 おう、ここでミルモンを味方につけるように誘導するか。

 俺を材料にすれば、ミルモンもガルム氏の発言に賛同するってところだな。

 

 さて――、


「こうやって話をするのもこちらに猶予を与えてくれているといったところでしょうね」


「豺覇の使用まで待ってくれていた礼だ」

 ありがたいね。


「ミルモン。俺から離れた方がいいと思うぞ」


「お断りだよ」

 即答。

 ここからはガルム氏も手加減できないってところだろうからな。

 だからミルモンの離脱までを待ってくれているのだろうけども、当のミルモンは離れるという選択はしない。


「オイラがいたら邪魔かな……」


「それはない」

 居続ければ俺の足枷になるのだろうかと不安な声になるので、俺も即答で否定。


「負傷する覚悟はしておいてくれよ」


「覚悟はしとくけど大丈夫。兄ちゃんなら余裕だから」

 勝ち気な笑みを向けてくれる。

 ベルが見たら心を射抜かれていたこと間違いなしの愛らしいものだった。


「てことで、このままでいいですよ」


「分かった。では使い魔も勇者と共に我が力を至近にて堪能してくれ」


「堪能する前に兄ちゃんが倒すさ!」


「この力を使用する時、俺は鬼神と称される」


「そりゃ凄い。でも――」


「でも――なにかな?」


「鬼神やら闘神と称していい存在とは以前に戦ったことがありましてね。その存在と比べると鬼神ってのは誇張ですね」


「――なるほどな。確かに彼女と比べれば誇大になってしまうな」

 ベルの事を言っているというのを直ぐさま理解してくれて助かるよ。


「誇張だとしても、力は本物だ」


「それは理解しています」


「では――アクセル」


「まっ!?」

 嘘だろ!

 背後――じゃない!


「横!」

 ガルム氏の右腕が上がれば、ファースンからなるガルム氏を象ったオーラアーマーも連動して右腕を上げる。


「冗談じゃない! アクセル!」

 即座に俺もアクセルを発動。

 先ほどまで立っていた場所から放射状に広がる振動。

 上空から急降下で仕掛けて来たとき以上の衝撃は、濛々と上がる土埃の量の違いからも分かるが、観衆の悲鳴の大きさでも分かるというもの。


「腕を振り下ろしただけであの威力」

 トロールどころかオーガ――オーガロードのハルダームの一撃が可愛く見えるってもんだ。

 ハルダームにヤヤラッタを間違いなく凌駕する力なのは、今の一撃で理解した。


 それ以上に、


「ふん!」

 振り下ろしてから反転し、俺へと向かってくる動き。


「さっきと変わらねえのかよ!」

 力に傾倒すれば、その分、速度が落ちるってのがお約束でしょうがよ……。


「なんで速いまま動き回れるんだよ!」

 インチキがすぎる!


「答えは簡単だ。これはピリアであり、実体ではないからな」


「ですよね!」

 だからって、


「ハァッ!」


「おう!?」

 攻撃自体には質量があるからね! ウエイトにも反映してもらいたいよ!!

 ガルム氏の掌底に連動して、豺覇と呼ばれるオーラアーマーも掌底を繰り出す。

 それをギリギリで回避するも、俺の横を通過していく掌底が生み出した衝撃は凄まじく、吹き飛ばされて地面を転がされてしまう。

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