PHASE-1439【多用は困る……】
「こんな大人数ともなれば、かなりの出費になりそうだな」
「いいんですよ。問題ありません」
「なぜにコクリコが返す……」
一段落したところでガルム氏が俺の所へとやってくる。
もちろんリズベッドに翁たち、そして護衛のS級さん達も一緒に参加してくれている。
「トールは守銭奴ですからね。常に蓄えているのです。だからこのくらいの人数なら問題ないですよ」
「守銭奴じゃねえよ。金を使うタイミングが散財するお前より遙かに賢いだけだ」
「宵越しの金は持たない主義なので」
気っぷの良い姐御発言だけども、ただの刹那主義なんだよな。コクリコの場合……。
「公爵ともなればこの程度は余裕か」
「個人的に公費は使いませんよ」
「そうなのか?」
「以前ダンジョンで得たモノで稼いだ金を使います。公費は今後の世界の為に運用してもらいたいので」
「善政の領主だな。愛されていることだろう」
「愛されるという感情を向けられるほど自分の領地で過ごしたことはないですね。出立する時、大勢に見送られたのは嬉しかったですけど」
「勇者にギルド会頭。そして公爵としての統治。体がいくつあっても足りないな」
「そこは問題ないですよ。凡庸な俺と違って優秀な人材が、俺に足りない部分を補ってくれてますからね」
「また過小評価をする」
「違います。適材適所の話をしているんですよ。自分より才能が秀でた存在に任せるのが一番ですからね」
「その才のある者が素直に協力するという事が勇者の才能なんだ。そこを誇るといい」
「まったくだね」
主である俺にはもっと大きな存在でいてほしいと思っているミルモン。こういった流れの時はガルム氏に賛同するね。
「そういった意見も柔軟に取り入れつつ成長させてもらいます」
「急に変われと言われても難しいからな。だが、勇者は誰に誇ってもいいほどに知勇を兼ね備えていると俺は思っている」
「分かってるね~狼男♪」
ご満悦のミルモンは炙った手羽先を両手で持ち、俺の肩からガルム氏の肩へと移れば、主の称賛への褒美とばかりに両手に持ったソレを渡す。
礼を言いつつ上顎と下顎を大きく開けば、パリポリと骨ごと手羽先を食するところは肉食動物のソレだった。
「いい食いっぷりだよ。兄ちゃんからの強烈な攻撃から大分、回復したみたいだね」
と、言うミルモンの口周りは炙り手羽先の脂でテッカテカ。
「おかげさまでな。それにしても絶品だな。この鶏肉が纏うソースは経験のない味だ」
「いや、本当に」
まさかのバーベキューソースですよ。
なんか知らないうちにマヨネーズだけでなく、バーベキューソースまで出回っている。
間違いなくゲッコーさんと行動を共にするS級さん達からの知識による恩恵だろう。
ポーションだけでなく、こういった調味料を求めて商人さん達が殺到するな。
ロイル領主であるハダン伯がまた先生に長々と交渉してくるかもな。
「しかし――まさか徒手空拳と投げで仕留められるとは思わなかった」
「別段、俺も得意って訳じゃないんですけどね。色々と経験しておいて良かったですよ」
「経験を確実に活かせるのもまた才能だな」
「どうも」
素直にガルム氏に返せば、口角をわずかに上げて笑みを向けてくる。
「天空要塞に行く前に強い存在を倒す。幸先が良さそうだね。兄ちゃん♪」
「だな!」
「喜ぶのはいいが、次の相手は今まで相対してきた者達が弱者に思えるくらいの強さを有しているということだけは、肝に銘じておくんだな」
「あ、はい……」
気運をミルモンと高めているところでガルム氏の突き刺すような鋭い声音。
強敵であり尊敬もしたデスベアラー。
そのデスベアラーがまったくもって太刀打ち出来なかったのが
三幹部の力が拮抗しているとするから、ガルム氏が言うように、今まで対峙してきたどの存在よりも難敵となる。
「とんでもない場所に行くんだな」
改めて考えると怖くなってくる。
最終目標が魔王ショゴスの討伐なのだから、通過点に一々と呑まれていてはきりがないけども……、
「緊張してきた」
継いで述べれば、
「緊張する程じゃないでしょう」
と、コクリコ。
炙りベーコンの塊をガブリと豪快に喰らいつつの発言は、余裕の笑みと共に。
ミルモンと仲良く口周りがテッカテカ。
そんなテッカテカは、どれほど
テーブルの上に立ってからの発言に、ラルゴ達だけでなくゴブリンや他のギルドメンバーからも喝采が上がる。
これがたまらなく気持ちいいようで、体を大の字にし、向けられてくる歓声を受け止め悦に入っていた。
まあ、いつもの事だな……。
いつもの事なんだけども――、
「マジで今度の相手は今までと違うって事だけは、理解しておけよ」
「理解しているからこそ、我が名を魔大陸にも轟かせると言っているのです」
「
「蹴散らしてやりますよ!」
頼りになるね。
でも……、
「本当にやばいからな」
くどいが釘を刺させてもらう。
「以前ドヌクトスの城壁では一蹴したんですからね。今回も問題なしですよ」
あれはゲッコーさんとS級さん達による、スティンガーでの板野サーカスが強すぎただけなんだよ。
それにあの時、血気盛んに突撃してきた連中と違って、傍観していた連中は間違いなくやばいんだよ……。
黒い三つ揃いで、カラスフェイスのタンガタ・マヌを相手にしても同じことは言えないだろうよ……。
レベル95の存在。
でもって一緒にいたガーゴイル達も80台だったからな。
あんなのがゴロゴロといるとなれば、マジでやばいんだよな。
「ガルム氏」
「何かな?」
「黒い三つ揃い――スーツ姿のタンガタ・マヌって言えば、誰なのか直ぐに連想できますか?」
「カイディルか。あれは強いぞ。ベスティリス様の右腕だ」
「でしょうね」
レベルからして間違いなくベスティリス――
ちなみに随伴していたガーゴイルも側近だという。
当たり前のように大魔法を多用してくるだろうから、そこは覚悟しておいたほうがいいとのことだった……。
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