PHASE-1438【一発成功】
「そんじゃまあ――」
ガルム氏のオーラアーマーに叩き込んだ時の必死さを思い出しつつ、今度は無手の状態でやってみる。
――拳で殴る。
烈火の使用でこの辺のイメージは難しくない。
体外マナのネイコスから生み出すイグニースの炎を球体にしてから留めて殴る烈火と違い、体内のマナであるピリアを体外へと放出。
放出先である右拳へとピリアを移動させ――留める。
刀剣から放つマスリリースの感覚を拳に変えるだけだ。
体内から体外への放出と、留めるという感覚。
――うむ。両方とも履修済みだな。
「なので、一切の問題なし!」
腰を深く落とし、半透明で薄めに展開されたプロテクションの奥にある石の壁に睨みを利かせてからの――、
「ボドキン!」
マスリリース発動時と同様、黄色い輝きが発生。
障壁を貫き、奥の壁を破壊する! という強い意思を声に憑依させ、思いっきり障壁へと打ち込む。
拳に纏った輝きが障壁へと接触。
拳から放出された光弾が円錐状に姿を変えれば――、
「よっしゃ!」
プロテクションへと打ち込めば、その部分に穴を開け、そのまま後方のストーンウォールにも同サイズの穴を開ける。
石壁の穴部分を中心として放射状にヒビが走り、そこを起点として崩れ落ちる。
全壊とはいかないけども、打ち込んだ時よりも大きな穴が出来上がった。
――……うん……。
「ガ、ガルム氏、本当に大丈夫ですか!?」
今の一撃を目にして、俺が見舞ったものが致命傷レベルの威力だと理解すれば、心配から声が裏返る。
この一撃に加えて
「問題ない」
と、短く返してくれる声には余裕があるけども、不安でもある。
強がっている可能性もあるからな。
やはり回復を――と、リズベッドも申し出るが、ここでも丁寧に断っていた。
「痛みがひかないなら素直に言ってくださいよ」
やせ我慢だけはしてほしくないからな。
――そんな強者との戦いのお陰で、新しいピリアを習得することが出来たことは喜ばしい。
しかも上位ピリア。
攻撃型タイプとなれば、戦法の幅も広がる。
無手の時でも使用可能なのが尚良い。
烈火とボドキンによる白打系。
火龍装備を纏っていない状況で戦闘が発生したとしても、ボドキンを使用できるのはデカいな。
そしてガルム氏という強者との戦いを終わらせたのが
難敵で巨体な存在を投げ飛ばしたのは――ホブゴブリンのバロルド以来だな。
おおよそ一年ぶりに投げ技を決めた。
――。
「いやふぁや。んぐっん! やったようですね!」
「おう。まじで強かった」
場所は変わってギルドハウス一階。
現在は貸し切り状態。
俺がガルム氏という強者に勝利したことを喜んでくれるコクリコからお褒めの言葉をいただく。
前世がリスやハムスターだったのかと思いたくなるくらいに、頬の中に食べものを含んでいたから、最初の方は聞き取りづらかったけども……。
俺の勝利を祝うというよりは、それにかこつけてタダ飯を堪能しようというのが主目標なんだろうな。
反面――、
「自慢の大将だ!」
「全くです!」
「ギャギャ!」
と、今回、百対百の大規模戦闘において勝利したラルゴ達からは心底からの称賛。
そんな彼らを労うため、約束通り食事を奢れば、人数が人数なので大宴会となってしまった。
負けはしたけども、後々、偵察として良い仕事をしてくれるであろうゴブリン達にも参加してもらった。
俺の前で俺を称賛してくれる三人は、肩を組み合って上機嫌で酒を楽しんでいた。
リーバイは飲んでいないようだけども、二人の雰囲気に当てられて酔っているようだった。
肩を組み合う三人の中心にいるのはゴブリン。
身長差があるから足をブラブラとさせつつ、けたたましく笑っている。
乱杭歯で生ハムの塊をかじっては、木製のタンカードになみなみと注がれた酒を飲む。
ゲッコーさんの酒蔵で作られた酒は、人間やドワーフだけでなくゴブリンも大いに楽しめるようで何より。
今回の件に関して一切関係ないコクリコは、それ以上に楽しんでいるけども……。
「大将の勝利にもう一度、乾杯だ」
高らかにタンカードを掲げ、乾杯と発するラルゴに全体が唱和する。
当然ながら人語以外も響いた。
その中にはミストウルフの遠吠えも含まれていた。
「今回は俺じゃなくて皆のためだから。皆が主役だから俺じゃなくお互いを称え合ってくれ」
「流石は大将! 懐が潤ってもいれば、懐も深い!」
言いながらラルゴは一気に酒を呷る。
ここまで上機嫌な姿は初めて見る。
元々が奴隷で、その後は野盗まがいのことをしていた人物。
捕縛された時はとても潔かったから、落ち着きあるタイプで頼れるリーダーだと思っていたが、現在はただの酔っ払ったおっさんである。
まあいいけど。
酔っ払いのおっさんなんて、このギルドハウスだけでなく、南の窟でも見てるからな。
酔っ払いに、その酔っ払いが纏う酒気にもなれたもんだよ。
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