PHASE-1012【開始の合図は何とも無骨】

「くそぅ。戦う前からこんなにもダメージを被るとは……」


「うぶな小僧だ」


「大人のお姉さん。そっち方面で茶化すのはよくないよ」

 言えば笑みだけが返ってきた。

 今までとは違った笑みだった。

 なんというか――、素直な笑みだった。

 

 ――――凄く美人だった――。


「どうした。始めないのか?」


「お、おうよ。リン!」


「はいはい。助平な公爵様」

 やめろ! コクリコの発言を活用するな。

 とはいえ、言うだけで俺のお願いを理解してくれるのは素晴らしいけどね。


「スケルトンピルグリム」

 言えば、魔法陣がギャラリー全体の前方に顕現し、そこから白いローブを纏ったマジック系のスケルトンが大量に現れる。

 スケルトンキャスターとはまた違った趣。

 白いローブという出で立ちが、攻撃タイプではなく回復タイプだというのを伝えてくる。

 アンデッドだけど回復系なんだとツッコむことはするまい。

 リン自身がアンデッドで回復も使えるからな。

 おかげで俺はマジョリカとの戦いで死なずにすんだし。

 改めてリンとシャルナには感謝。

 

 で、驚かない俺とは違って、周囲はパニック。

 目の前で構えるマジョリカも驚きの表情で周囲を見渡していた。


「……こういった面子も召喚できるのだな」


「もっと強いのも召喚できるぞ。一極集中させれば千を超える数を召喚できるそうだ。リンのことだから、もしかしたらそれ以上の数も出せそうな気がするけどな」

 飄々とした美人アンデッドはクセが強いからな。

 本当の実力ってのを未だ俺達には見せてくれていないと思われる。

 俺の発言を耳にしても、マジョリカは疑心を抱くことはなかった。

 部下の大魔法ライジングサン詠唱破棄スペルキャンセルによる大魔法グラトニーで、容易く消滅させたのを目の当たりにしているからな。


 当の本人であるシェザールは、召喚されたアンデッド召喚の数をしっかりと見ようとしたのか、髪をかき分けての凝視。

 表情は驚きと興奮からなるもので、その表情のままにリンへと視線を注ぐ。

 最早、敬慕の念を抱いた視線である。

 本当に、リンが古の英雄と知れば弟子入りを懇願しそうだ。


「じゃあ頼む」

 手を上げて言えば、スケルトンピルグリムと呼ばれた白いローブを纏ったアンデッド達が一斉にプロテクションを展開。

 瞬く間に魔法障壁が俺達を取り囲む。


「さながら闘技場だな」

 壮観だった。

 傭兵団の要塞のようなプロテクションも凄かったけど、こっちには及ばない。


「好きなだけ魔法を使ってもいいぞ」


「後悔するなよ。小僧」


「俺の本気を見せてやるよ」

 居合いの構えに対して、こっちは得意の上段で構える。

 俺とマジョリカが揃ってガリオンを瞥見。


「戦え」

 瞥見を合図にガリオンが開口して一言。

 始め――じゃなくて、戦えってのが如何にもって感じだよ。


「フリーズダート」

 先手はマジョリカ。

 初手はお手軽な牽制魔法ってところか。

 とはいえ、当たり所が悪ければ死ぬけどな。

 現在、火龍装備はプールポワン風の鎧だけで籠手はつけていない。

 なのでイグニースによる炎の盾は当然だせない。

 しっかりと躱しながら接近を選択。


「バーストフレア」

 させないと、今度は上位魔法。

 剣術、魔法と申し分ない強者だよ。


「マスリリース」

 残火ではないが木刀からでも出せるってのはいいね。

 威力は残火時に比べれば落ちるが、バーストフレアの迎撃は可能。


「はっ!」

 俺がマスリリースを出した直後にアクセルを使用し、マジョリカが俺の背後から現れれば、気迫と共にお得意の抜刀術。

 だが今回のはしっかりと見て取れる。

 カーンっと木琴を思わせる音が一度なり、それを皮切りにマジョリカの連撃がはじまる。

 

 しっかりと防いでいけばいくほど、激しさとは裏腹に小気味の良い音が一帯に響き渡る。

 音に触発されたようで、ギャラリーの歓声も一段階あがった。


「そらよ!」

 しっかりと捌いて体勢を崩すけども、


「ファイヤーボール」

 牽制の魔法を至近で俺へと放ちつつ、バックステップで距離を取って姿勢を整える。

 対して俺はウォーターカーテンでしっかりと相殺し、逃がさないという気概と共に距離を縮める。


「正面から堂々と来るものだ」


「勝てるからな」


「ぬかせ!」

 再びアクセルで俺の視界から消えるけども、


「今回は手早く終わらせて、圧倒的な力の差を見せつけてやる」

 口に出せば出すほどクソダサ発言も甚だしいが、有言実行とばかりに、ガリオンの時にも使用させてもらった――、


「ブーステッド」

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