PHASE-593【御代わりはいらないよ……】

「この男、強いぞ……」

 ――――はぁ~。なんて高揚感に支配される台詞を言ってくれるリッチなのだろう。

 強くて当然の主人公が耳にしたとしても心は躍らないだろうが、俺が耳にすればとても甘露な台詞だよ。


「シャンとしろ」


「はいっ!」

 俺に向けて強い発言をしてくれたリッチが、俺の前でベルによりバッサリと斬獲される。

 慌てふためいた残りのリッチは、凛とした声で注意を受けた俺が、しっかりと残火を振るって荼毘に付す。


「――よし!」

 全リッチの掃討に成功。

 中核を為す存在達を倒せば、後は指示待ち社員のようなスケルトン系だけだ。

 途端に動きが単調になったスケルトン達を倒していく。

 ソルジャー、アーチャー、キャスターは、ゲームの雑魚CPUみたいにパターン化された動きをするようになり、矢と魔法を俺たちに向けてくるだけ。

 混戦状態の中、スケルトンソルジャーの方へと移動するだけで、俺たちが刀剣を振るう事をしなくても、スケルトンキャスターの魔法でソルジャー達を勝手に倒してくれる。

 

 最高指導者であり、この陣営においての脳であるアルトラリッチが指示を出せばリッチ以上の指揮が出来るのだろうが……。

 瞥見すれば――、余裕の笑みを絶やさず足を組んで鎮座したまま。

 動こうという意思が伝わってこない。

 

 隣で浮いているポルターガイストのオムニガルも、同様にただ傍観しているだけ。

 配下がやられても問題なし。ってのは、アンデッドだからいくらでも代替え出来るというアンデッドらしい冷徹な思考のためなのだろうか?

 あれだけ強大な攻撃を見せつけていて、動かないってのが不気味だ。


「これで最後!」

 と、俺が仕留めたかったが、狙ったかのようにコクリコのファイヤーボールがスケルトンソルジャーの頭部を吹っ飛ばす。

 得意げに笑っているので、少しは焦燥感から脱したようだ――と思いたい。

 自分の現在の実力に焦るよりも、戦いに集中してもらえる方がこっちとしても助かる。


「お見事」

 ゆったりとした拍手を数回送ってくるアルトラリッチ。


「さあどうする? 姫の呪解を約束してくれるなら、ここで手打ちにしてやるぜ」

 ここで男前なら、女に刃は向けたくないとか言うんだろうけど。


「強者のような言い様と立ち振る舞いね」

 いや、どちらかと言うと、足組んでふんぞり返った居住まいのあんたの姿がそれだろう。


「手打ちならよし。拒むというなら、私なら一足でそこまで行けるぞ」


「あら怖い。実際、貴女の剣は怖すぎる。私でも防げないでしょうね」


「では実際にそれを実行してみようか? それともトールに従うか?」


「答えは――」

 途中で言葉を止めてのフィンガースナップ。

 パチーンと小気味の良い音が、力の間で反響する。


「この野郎!」


「野郎じゃないわよ。女です! 失礼ね!」


「うるせえ!」

 ベルもそうだろうが、俺だって一足飛びで、柱のてっぺんまで行けるくらいの跳躍力は有しているぞ。

 ベルよりも速く、俺がアルトラリッチと同じ目線まで移動する。


「わお!」

 と、わざとらしくアルトラリッチの横で、オムニガルが両手を広げて驚きのリアクション。

 倒すわけにもいかないので、峰打ちで狙いを定めた所で、


「ふう!?」

 ガキンッ! と、俺とアルトラリッチの間に入り込んできた人影から、唐突な一撃を受ける。

 何とも重い一撃だったが、籠手でしっかりと防ぎきる。

 人影だったものをしっかりと眼界に捉えれば、まばゆい白銀の輝きだ。

 

 アルトラリッチへの攻撃を中断し、着地して直ぐさま正面へと顔を向ければ、そのタイミングに合わせるかのようにガシャリといった重々しい金属音が耳朶に届く。

 着地し、俺の前に立つ存在は、剣身が二メートルはあるだろうグレートソードに、目の部分にスリットの入ったグレートヘルム。

 チェインメイルの上には銀色のブレストアーマーに、同色のレッグアーマー。

 真っ先に思ったのがリビングアーマーだったが、グレートソードを持つ手甲の指部分からは、白骨を覗かせていた。

 グレートヘルムのスリットから見える淡い輝きは、上の階で見たリビングアーマーの紫ではなく緑光。


 つまりは――、


「スケルトン系か」

 装備からしてソルジャークラスの上位。


「次はこのメンバーがお相手よ」

 ――…………ふぃ~……。

 強者としての笑みを崩さないわけだ。

 アルトラリッチの鎮座する柱の下にいる俺は、肩越しに背後を見る。

 

 ――……見たくない光景だったよ……。

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