PHASE-698【外周強化が著しい】
「やはり会頭でしたか」
こういった珍しい乗り物に乗っているのは俺とパーティーメンバーくらいだからね。
「ご苦労様」
と、労う。
ここで俺の知る人物――タチアナの名が出てきた。
本来は、タチアナがこのパーティーの案内人になる予定だったそうだけど、別のクエストに出ているからと、同じマール街出身の女の子が案内役となって、瘴気を回避しながらここまで来たそうだ。
服装が似ていると思ったけど、女の子ことレミリスもタチアナと同じマール街の神官学校を出たアコライトだということだった。
タチアナの後輩にあたるそうだ。
このメンバーは、王都とマール街を往復してのキャラバン護衛の経験を何度かこなしていることから、先生にこのルートの護衛クエストを任されているという。
その部分の説明の時、ルウは誇らしそうに語ってくれた。
副会頭から頼りにされ、ご指名を受けるということがステータスのようだった。
「それにしても物々しいですね。それに見たことのない魔獣もつれていますね」
「ああ、アレは魔大陸で倒してからペットにした」
「……はぁ!?」
素っ頓狂な声を上げるルウ。
自分たちの知らないところで、俺たちが敵の中心地である大陸へと進出していることに驚愕。
先生は俺たちが魔大陸に行ったことをギルド内に伝えてないようだな。
先ほどの誇らしそうな顔が鳴りを潜めてしまう。
自分達がこなしているクエストが小さいものだと思ったのかもしれない。
会頭としては、こうやって王都とマール街まで瘴気を迂回しながらも護衛をこなしてくれている事が嬉しいんだけどね。
「隊商の数がかなりのものみたいだし、結構な儲けもあるんじゃないの?」
ルウ達の護衛クエストの話題に変えると、
「いえ、今回は王都からの避難となります」
「……はぁ!?」
今度は俺が素っ頓狂な声を上げてしまったよ……。
――――。
これまた随分と立派になったもんだ。
王都の城壁は王城のものを含めると二重という、王都を守るという観点では脆弱なものだと評価せざるを得ないもの。
これは王都は平和の象徴であり、開けた王朝だというのを示すためのもので、長い間、平和な時代が続いていた事への誇りでもあったそうなのだが……。
俺が転生した時には、市井は魔王軍の狩り場になっていたのはちょっと前のこと。
これが十重二十重な城壁によって堅牢に守られていたなら、もっと時間を稼ぐことも可能だったんだろうけどな。
現在それを補うために、王都の外周には王都と田園などを守るための木壁が築かれている。
王都に戻る度にそれは立派なものに変わっていた。
当初は乱杭の木柵から始まった外周も、今では田園に流す水を利用して造られた水堀があり、木壁の外周を流れているまでに発展している。
他にも物見櫓の数も増えているし、木壁を通過して王都に行くための門が、王都の門に負けないくらいの巨大な鉄製に変わっていた。
木壁を支える各柱部分は煉瓦によって囲われおり、強度の向上と火攻めに対して強化が施されていた。
これは突破することも難しいな。
王都東門へと続く木壁の門は固く閉ざされており、俺たちが接近しても開かれることはない。
「ちょっと出て来る」
と、ここでもベルに告げて木壁まで歩きで接近。
「凄いね」
橋の前で立ち止まる。
水堀と門を繋ぐのは立派な石材から出来たアーチ橋だ。
水堀から門までの約20メートルを繋ぐ平坦な路面は、賽の目からなる石材で出来ていた。
旅商人の往来も考えているのか、橋の幅は広く、対向からくる馬車とすれ違うことも可能なほどだ。
これなら大型車両でも十分に通れる。
石材のアーチ橋の堅牢さは見ただけで安心感を与えてくれるもの。トラックやストライカーが通っても問題なしだ。
というか、この橋の建設を先生が指示したならば、俺たちの車両が十分に通過できるように考慮していると思われる。
先生の細やかな気づかいを感じつつ。
「ただいま!」
元気よく発する。
以前だと王都を訪れる商人さん達を横目に顔パスな感じで通ったけども、今回は王都に向かうのは俺たちだけ。
少しでも警備の任に就いている面々を元気づけるために快活良く発したんだけども――、
「誰か!」
ピリついた誰何が返ってきた。
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