PHASE-195【紛糾! 男と女】
「で、どんな癒やし方を考えてるの?」
チッ、ここでシャルナが口を挟んでくるとは……。
というか、なんでいるんだよ!
そもそもお前は幹部どころか、ギルドのメンバーでもないぞ!
しれっといるな。
テーブルに用意されたスコーンをリスのように小刻みに食べながらの質問。
喋るのか食べるのかどっちかにしなさい! と、俺がおかんなら注意しているぞ。
女であるシャルナからの質問となれば、俺はシャルナにだけ体を向けて話さなければならない。
実質、俺対シャルナの構図にしないとな。
「ねえねえ、なんなの癒やしって?」
「私も気になります」
チィ! ここでコクリコも参戦か。一対二になってしまったな。
しかたない。
「――――俺が考えているのは、綺麗なお姉さんが、労働者を癒やしてくれるお店だ!」
「おお、いいじゃないか」
流石はゲッコーさんだ。これで二対二に持ち込めたんじゃないか。
「具体的にはどんな癒やしなの?」
核心をついてくるか。シャルナ!
よし! ここは――、
「綺麗な女性が薄地の服装で、労働者たちにお酒を飲ませて楽しませたりするんだよ」
落ち着き払って丁寧な声音で素直に説明。
相手にも落ち着きのある応対をしてもらいたいからだ。
「なんで薄地なのさ! 不純だよ!」
「そうですよ!」
くそ! こっちは丁寧な語りだったのに、声を荒げやがって! やはり敵意を見せてくるか。
女二人は立ち上がって俺に牙を剥いてくる。
「いいか、王都には娯楽がないんだ。男達はそういうのが好きなの。これは仕方のないことなの。そもそもこれだけ大きな規模である王都に、そんなお店がない事がおかしいんだ。ねえ、ワックさん」
「え!? 僕に振るんですか」
振りますよ。人の良さそうな穏やかな顔をしておりますが、実際は好きでしょ。そういうの。
「ええっと……。以前は王都にもあったんですよね。歓楽街が」
「おお!」
それを聞いて更に俺のやる気も出てきた! おピンク街を再開させないといけないな。
「何を興奮してるのさ! まさか!? 売春宿とか経営しようと思ってんの!」
「ソンナコトハ、思ッテナイヨ」
「抑揚がない! そして、私の目を見て返事!」
シャルナってば、すっごい剣幕で碧眼を煌めかせて、柳眉を逆立てての激怒の姿。
「最低ですよ。それでも勇者ですか!」
手にしたワンドを輝かせるのはやめろ!
「お酒で楽しませる事だけだから、それ以上の事はないから」
「ないのか?」
「あった方がいいでしょうか? ゲッコーさん」
即座にゲッコーさんに質問。
これにより、俺をターゲットとしていた女性陣はゲッコーさんを睨む。
苦々しい表情で俺を見てくるゲッコーさん。当て馬にしたなとばかりに睨んでくるよ。
「……軍では娼婦なんかを雇ったりしてだな。地域住民に対しての暴行を避ける為の対応策であって、娼婦たちも普段より高い金を得られるから――――」
「そんな事は許されないよ!」
バンッ! と、テーブルを叩くシャルナの迫力に、ゲッコーさんも言葉を中断してたじたじだ。
皿に盛ってあったスコーンがころりとテーブルに転がる。
「ワックはどう思ってるの」
「ええ……」
ここでゲッコーさんからワックさんへと照準を定めるシャルナ。
流石はハンター職。弓矢で獲物を捕捉したかのような鋭い眼光だ。
先ほどの返答がまだ出ていないからだろう。歓楽街はあったと言っただけだからな。ワックさん本人の感想はまだ述べられていない。
ハンターが次の獲物に移ったことに、ほっとするゲッコーさん。
「僕としてはあってもいいとは思っている。もちろんそれを行うには、行う人達の意見を尊重する事が大事だけどね。こういうのでよくあるのは、身寄りのない子や、借金の形に売り飛ばされた子が働かされているけど、そんな子供たちは保護はしても、娼館なんかには行かせないよ」
流石はワックさん。ちびっ子の手本になるべき人と似ている名だけある。
未成年は保護。これは当然だ。
そもそも俺は綺麗なお姉さんと言っている。法には従うスタイルだ。
「あの、そもそも娼館ではなく、お客の隣に座ってお酒を注いであげるとかでいいんで。クリーンな店作りをしたいと思っております。やましいのじゃないから。女性陣もそこは理解しよう。疲れた人々を癒やすためのものさ」
「トールの発言に異議あり!」
逆転なんてさせないぞシャルナ!!!!
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