PHASE-821【二枚看板】

「こいつと同レベルかよ……」

 残念な気持ちが口からも零れ出る。

 ギルドメンバーにも申し訳ない気持ちで一杯だ……。


「何が同レベルか! 貴様など格下だ!」


「実力の話じゃねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」


「ぶぅ!?」

 振り下ろすことすら許さないとばかりに、顎先にアッパーを打ち込めば、大きく弓なりに体を反らせて短髪の大男が宙を舞う。


「インクリーズ以外にも地力向上系のピリアとか覚えとけ。でもって――」

 ここでようやく残火を抜いて、手から離れて一緒に宙を舞うウォーハンマーに刃を刻み、バラバラにして修復不能にしてやった。

 ずんっと仰向けで倒れる刃壊のなんちゃらに食指を向けて、


「二度とそんなネーミングの武器名にするんじゃねえぞ! 次にそんな名前にしたらマジでフルボッコだからな! 大体、雷も出せないのに雷を冠するな!」

 語末は思いっきりブーメラン発言だったけども。

 言ったところで白目をむいているから聞こえてはいないだろうな。


「おのれ! よくもジョルスまで」


「こうなれば我ら――」


「うっさい!」

 コイツ等の二つ名を聞くのは面倒くさいし、良い感じで二人仲良く横並びになっていたのでアクセルで一気に距離をつめ、顔面に目がけて思いっきりストレートを見舞ってやれば、これまた二人仲良くゴロゴロと後方へと激しく転がる。

 刃壊のなんちゃらと仲良く仰向けで白目ルート。


「――――うん」

 四人衆がやられたことで怯える残りの傭兵団を横目に、


「よし!」

 湿布のマイネンだけがうつ伏せ白目で可哀想だったので、ゲシリと蹴りを入れて仰向けにしてやる俺は思いやり溢れる勇者。


「さて――と」

 残った連中を睥睨する。

 俺と目が合えばビクリと体を震わせてから後退り。

 いいね。本当に強くなったみたいに錯覚するよ。

 錯覚だけどな。

 こいつらが極端に弱いだけ。

 レッドキャップスの連中と比べれば、本当に弱い。

 比べる対象にすらならないけど。


「どうする? 逃げるなら追わないぞ。でもって傭兵業から身を退いて真面目に働け――って、最後まで話を聞けよ……」

 追わないぞの辺りから完全に俺に背中を見せてるっていうね……。


「腑抜け共が」


「ぎゃ!」


「ぎぃぃ……」

 ――……う~ん。

 やれやれだな。


「仲間だろう」


「仲間だからこそだ。我ら破邪の獅子王牙に弱者はいない。この者達が弱者として後ろ指を指されないために汚名をもみ消してやっただけだ」

 二人組の登場は、仲間の鮮血を踏みしだいてのもの。

 この二人組はしっかりと覚えている。

 さっき壁上でゲゲゲの妖怪と、木枯らし紋次郎に憧れている男の側にいたやつらだ。

 馬鹿息子に蹴りを入れて危機を回避させた時に、その馬鹿息子を支えた奴らだな。

 明らかに危ない気配がビンビンと伝わってくる。


「さて、我ら副団長側付きの二枚看板が今度は相手をしよう」

 なるほど、中二病的なのは一緒か。

 違うのは、異名やマジックカーブに酔ってるだけの奴らとは実力がかけ離れているということか。


「倒れているのは四人衆か。確かに実力はないが、カリオネル様の護衛となって励み、失態はしたが挽回をしようとする気骨は見せたか。ここで逃げだそうとした者達と比べれば、異名を与えられた者達として恥ずかしくない戦いはしたようだな」

 破天荒な傭兵団だけども、ちゃんと評価とかもするんだな。

 で、評価が高ければ異名を与えられるってシステムなのかな?


 その異名がこいつらにとってはステータスであり、それを得ることが出来ればいい思いにありつけるんだろう。

 だから弱くても励もうとするんだな。


 ルール無用のならず者集団のようだが、圧倒的な力の元で曲がりなりにも秩序が存在し、それに従って行動し、異名を得るために励む。

 来るもの拒まずじゃなく、ちゃんとした人選が出来ていれば以外とまともな傭兵団だったのかもな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る