PHASE-732【こっちでも奇跡準備……】

 征北騎士団の儀仗隊は麓から山道まで続いており、兵の多さも見せつけてくる。

 これ以外にも一般の兵達もいるって事なんだろうからね。

 それに儀仗用の棚引く真紅の槍旗には、金糸で刺繍がされた明らかに金のかかっている一品。

 これらを揃えるだけでもかなりのものだ。

 儀仗の武具一つにもしっかりと金をかけられるほどに、軍事力も強大であるというのを暗に伝えているんだろう。




「これはこれは大層立派な」

 ブルホーン山に築かれた要塞に到着。

 名の通り、天に向かって伸びる雄牛の角のような岩山の形状をそのまま利用した山道なのだから左右は高い岩に挟まれている。

 岩山を踏破して要塞の向こう側を進むとなると流石に無理がある。

 レビテーションや飛行能力のある亜人や幻獣なんかじゃないと、この要塞をスルーして突破することは難しいだろう。

 山道を封鎖するように築かれた要塞は堅牢な石材、木造と金属からなるハイブリッドな防御壁。


 防御壁の前にはセオリーな空堀。

 空堀の前後には石を積み上げた防塁もある。

 歴史教科書の写真で目にした、元寇防塁が真っ先に頭に浮かんだ。

 防塁はいまだ建設途中なのか、人足たちが作業をしていた。

 現状でも十分なものだと思うんだけど、防塁には更に手を加えている。

 乳白色の粘りけのある泥を防塁に塗り込んでいた。


「ローマン・コンクリートか」


「そのようですね」

 馬車の御者台でゲッコーさんとミッターさんが口を開く。

 北方には活火山があるようだと二人で会話。

 火山灰を利用したコンクリートを使用していると予想している。

 あれがこちらにも流通するようになったら、王都だけでなく要塞トールハンマーなどでの強化、補修がより良い物になるとも話していた。

 

 二人が言っていることは何となくだけど分かる。

 古代ローマの時代に建設されたコロッセオが今も残っているからね。

 古代ローマの人々の叡智が生み出したローマン・コンクリートなるものと類似した代物となれば、是非に欲しいものだ。

 

 空堀にかけられた橋もまたコンクリート製。

 しっかりとした橋を渡り、門を潜る。

 門から繋がる通路の天井にはいくつかの穴が空いている。

 御者台の二人から聞けば、殺人孔というものらしく、あの穴から熱湯や熱した油なんかを流すらしい。

 通路を通る者たちはそこで大やけど、もしくは死に至る。

 殺人孔を効果的にするには通路に閉じ込めるのが一番。

 なので通路を出て背後を見れば、鉄製の落とし格子ポートカリスもしっかりと備わっていた。

 門とポートカリスで閉じ込め、殺人孔から熱湯なんかを流し込むわけだ。


「これは凄いね」

 通路を出ても開けた空間にはならない。

 側面はコンクリート製の壁が聳えていた。


「虎口だな」

 ここでもゲッコーさんが口を開き、ミッターさんが相槌を打つ。

 側面の壁の中は空洞のようで、狭間もあり、中と壁上から弩や弓、更には魔法で侵入者達を四方から攻撃して駆逐するわけだ。

 普通に戦えば、ここではかなりの犠牲が出ると考えていいだろう。

 しかも俺たちが潜ったのは中央の門。

 横に長い要塞の防御壁の出入りは、正門以外に左右の端にも門があるのを確認している。

 きっと同じような作りなんだろう。


 てことで、糧秣廠でもそうだったから肩越しに瞥見すれば、またも副馬そえうまじゃないはずなのに副馬のようになっている三頭。

 前回の経験が活かされているようで、今回はマイヤとランシェルがしっかりと手綱を引いていた。

 普通に攻略すれば高い防御力と門でのトラップに苦しむだろうけど、それを回避する為に、ここでもしっかりとマッチポンプ奇跡の下準備を行ってくれているようだ……。

 

 ありがたいような、奇跡が発動すれば俺のへんてこ踊りルートも確定してしまうから、甚だ迷惑でもあるような……。

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