PHASE-158【ジャイアニズムの名の下に】

 三十畳ぐらいの広い場所には、宝箱をはじめ、槍や剣、その他の利器が飾られている。


 甲冑も丁寧に並べられていて、生産性重視の鋳造物じゃなく、一つ一つが違う作り。

 職人が手間暇をかけて製作したであろうワンオフの特注品だ。

 よく見れば鎧は、部分部分が蛇腹状に出来ている。

 素人目だけども、蛇腹を伸縮させることで、様々な体型にも対応した甲冑になるんだろう。

 それだけでも手の込んだ一品である。


「こいつは運び出すだけでも時間がかかりそうだ」


「ですが、これを報酬とすれば、ギルドの者たちも今以上に励みますよ」

 先生も大喜びだ。


「見てください主。この刀、大業物ですよ」


「お目が高い。それは蠱毒の太刀と名付けられた大業物です。職人が刀を打つ時、側にいるウィザードが様々な毒魔法を唱え、刀身に魔法を注ぎ込んでおります。斬られた対象は、斬られた箇所より肉が腐れて崩れ落ち、苦しみながら絶命します」

 なにそれ怖い!


「どうぞ」

 ナブル将軍が、俺におっかない刀を笑顔で手渡そうとしてきたので、全力で別のところに目を向ける。


「ん?」

 なんだあのタンスは? えらく場違いなような気もするが、何かいいアイテムでも入っているのかな?

 

 気になったので足を進めれば、


「いやいや、これには大した物は入っておりませんよ」

 大の字で立ちふさがっている時点で、大した物だけが入っているよね。

 汗まで流して、なにをそんなに必死になって隠したいのかな。子爵殿?


 俺の背後では、先生が魔法の封じられた鉄扉を持ち帰りたいからと、窓から顔を出して、大声で下にいる兵達に手伝ってほしいと言っている。


 人が増えると知れば、子爵の冷や汗の量が増えてくる。

 

 怪しいと、俺は半眼で凝視。

 流れる汗は、滝のようだ。


「お願いします」

 先ほど同様に、一言そう言えば、ゲッコーさんが気付かれることなく子爵の背後に回り込み、羽交い締め。


 その間に俺は、タンスの引き出しに手を伸ばす。

 下段から開ける空き巣のテクニックで――――。


「やめてぇぇぇぇぇぇぇ」

 しつこいな。

 六花のマントを俺が羽織っている以上、この宝物庫の物は俺の物。俺の物は俺の物。の主義で、好き勝手やらせてもらう。

 

 おっさんの悲痛な叫びを無視しつつ、下段に入っていた物を確認。


「――――? 巻物?」

 が、整理されて収納されていた。


「おお! これはスクロールですね」

 ゲームにもあるな。


「たしか、魔法が封じられているとかってやつですよね」

 俺の側でタンスの中身が気になっていたのか、ナブル将軍が覗き込んでいる。

 質問をすれば、首肯で返してくれた。


「これの使用方法は?」


「簡単です。開いて、描かれてある魔法陣に手を当てれば、それだけで封じられた魔法が使用出来ます」


「凄いですね」


「ですが、とても貴重です。これだけ集めるだけでも相当ですよ」

 コレクターなのか、タンスの主と思われる子爵に目を向ければ、空笑いである。


「どんな魔法が封じられているんですかね?」


「印をしているようですよ」

 スクロールには火のマークや、水滴マークがある。

 これで炎系や水系と判断しているわけだな。


「魔法の使えない者たちには、起死回生の代物。持っていて損はないですね」


「なるほど。てことで、ください」

 ナブル将軍の会話内容は、すでに俺の所有物のような発言だが、一応の許可を取る。


「構いませんとも。それは譲りますからもういいでしょう」

 子爵のこの焦り方からするに、残りの引き出しにも、さぞいい物が入っているのだろうね~。

 

 悪い笑みを浮かべて、次の引き出しに手を伸ばす。


 子爵が血涙を流しそうな勢いで、開けないでと懇願してくるが、引き出しを開ける手は止まらない。


「――――こ、これは!?」





「やあ、ベル」


「どうした? なにやらギルドハウス周辺が賑わっているが、王城から得られた物は良い品だったのか?」


「とってもだよ」


「何とも明るい声だな。良かったではないか」

 ああ、最高に良かったよ。


 先生は早速、ドワーフたちに、魔法の注がれた鉄扉を溶かして、武具製作を指示し、ワンオフの武具は、一時的にギルドハウスの二階の倉庫にしまい込む。

 ギルドハウスの隣に、武具と鍛冶屋を一体化した建物を建築予定で、竣工すれば、武具屋の蔵に収める予定だそうだ。


 功績の著しい者には、最高の装備とスクロールを渡すと発すれば、大歓声が沸き起こり、一帯に響き渡る。

 報酬内容を耳にして、ギルドメンバーは気合い十分だ。


 これで更に皆が励んでくれるし、これを機に、冒険者を目指す! と、希望と野心に満ちた声が、俺の耳朶に届く。

 目を向ければ、コクリコくらいの年齢の男の子が、木の棒を自慢の得物かのように空に向けながら発していた。


 うむ、一生懸命に励んで、冒険者、よければ俺のギルドに入って活躍する存在になってね。

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