PHASE-159【とりあえず着てみようか】

「人材が増える傾向があるのはよいですな~。しかし、これは部屋数が足りなくなりますね~。いまだ物々交換ですが、資源に余裕のある方は、宿屋の部屋を長期に借りる事を勧めましょう」

 それで、周囲の景気も良くなるとの考えだ。


「新米さんたちには馬小屋を提供すればいいですよ。冒険者の基本です」


「なるほど。藁の臥所で寒さもしのげますからな。いずれはここから脱するという向上心も芽生えていいかもしれません。流石は主です」

 いえ、ベタベタなファンタジー小説や、漫画でよく目にする光景です。

 

 上機嫌な先生に後は任せつつ、俺も先ほどの希望と野心を抱く少年を手本として、


「ベルよ」

 改めて名を呼ぶ。


「なんだ?」


「子爵が凄くいい装備を有していてね。譲ってもらったんだ。赤面で号泣だったけど」


「それほど惜しい装備だったんだな」


「でだ。俺はそれをベルに託そうと思っている」


「私に――――か?」

 おっと、いきなり声のトーンが低くなりましたよ。

 

 俺のいままでの遠回しな言い様に、警戒心が高まっております。

 ここはお怒りになる前に堂々と出してやろう。


「これだ! 名前を羽衣のビスチェといって、着た者の素早さを上げる魔法の恩恵があるそうだ。更にはチャームの効果もアップ! スケスケだからな! これに見とれて隙の出来たところを攻撃すれば――――、相手は死ぬ!」


「阿呆が」


「だー!?」

 OK! 分かってたんだ。外側広筋に蹴りが来る事は。


 流石にスケスケは嫌だもんな。


「続いてはこちら」

 素早く背中に隠していた次なる一手を紹介。


「きわどい水着といってだな。着た者に素早さを上げる魔法の恩恵がある。更にはチャームの効果もアップ! 隠せる面積が全くといって無いけども。最早、紐だけども。これに見とれて隙の出来たところを攻撃すれば――――、相手は死ぬ!」


「効果が先ほどの代物と一緒ではないか! そして、阿呆が」


「にぇっと!?」

 OK! 分かってたんだ。上腕二頭筋を殴られる事は。

 勢いに任せて、【上腕二頭筋裂傷】なんて叫びながら、地面を転がるのが大正解なんだろう。


「もういいか」


「あいやまたれい!」

 気合いと共に起き上がるが、痛みで自然と涙が出て来る。

 でもベルといる時は、毎度の事だ。痛みに涙なんて気にしてはいられない。


「まだあるのか。馬鹿みたいな物が」


「馬鹿みたいと言うな! 我が心の友であるダンブル子爵が集めていた一品なんだぞ」


「誰だそれは!」

 何だと! 俺の心の友であるダンブル子爵を知らないとは!


 まあ、俺もついさっきまでは知らなかったけども。

 

 こんなにも素敵な装備、アイテムをコレクションしていた時点で、心の底から尊敬してるっての!

 爵位持ちで一番仲のいい人物に認定だっての!


 ここで、とっておきをご覧に入れよう。


「最後の品! ラディカルビキニアーマー! これを装備した者は、魔法の恩恵により、攻撃力と前の二つほどじゃないが素早さを得られ、更には対魔法防御も付与される。欠点はほぼ素肌なので、物理攻撃に弱いというものだが、これまたチャームの効果もあるので、敵は見とれて攻撃してこないから、一方的にフルボッコ出来るぞ! で、やっぱり相手は死ぬ!!」


「ふるぼっこ?」


「殴りたい放題ってことだよ」


「そうか――――。だが、それを着なくても、私はお前をフルボッコに出来るぞ」

 エメラルドグリーンの瞳に、なぜそんなにも、雷光の如き輝きを宿らせているのかな?


「この破廉恥が!」


「がらみてぃ!?」

 とんでもねえ右ストレートが左頬に直撃。


 目の前がチカチカするし、頬はジンジン、口からは鉄の味……。

 

 ベルのヤツ、本気で殴りやがった!

 漢の浪漫が分からんとは!


「もう終わりか? 無様だな」

 這い蹲らされるのも毎度のこと。

 見下されるのも毎度のことさ……。


「ふん!」


「くのくに……」

 鼻息荒く、とどめとばかりに、ヒールの高いブーツで俺を踏みつけやがって……。

 

 弱々しく苦痛の声を上げれば、それを聞いて満足したのか、去っていく……。

 俺はお前の事を思って、プレゼントしたかっただけなのに……。

 エロ装備で眼福を得たかっただけなのに……。


 おのれ、いずれはこの三種の神器を――――、


「主、失敗したようで」


「当然だろう」

 成り行きを遠くで見ていた、先生とゲッコーさん。


「では、これはギルドの為に、こういうのを着れる女性冒険者の報酬にしますので」


「しょ、しょんにゃ……」

 口が痛くてうまく話せない。

 

 我の……、遠坂 亨の三種の神器が。マイ・フェイバリッツ……。

 無慈悲にも、俺が召喚した人達によって持ち去られていった……。

 

 無常……。この二文字が俺の脳内を支配した事は言うまでもないだろう……。

 

 俺の耳朶に、希望と野心を抱いた発言を届けた少年よ。見るがいい! 未だ、地べたに這い蹲ったこの俺こそが、この世界を救う勇者なんだぜ…………。

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