PHASE-1117【ここは私に任せて――って言いたいだけだよね】

「ゲッコーさん。いま何処に?」


『お前たちより先にお邪魔している』

 ということは既に集落の中か。素晴らしい! 流石は潜入のプロですよ。


「それでシャルナ達は?」


『もちろん一緒だ。合流できそうか?』


「いや~この状況だと直ぐってのは難しいんじゃないですかね~」


『とか言う割には器用に攻撃を躱して反撃で倒しているじゃないか。しかもこっちと話ながら。直ぐは難しくても合流は出来そうだな。出来ないと言わないだけ強くなっているじゃないか』


「お褒めの言葉ありがとうございます。潜入班としてそのままゲッコーさんが集落内で行動してくれてもいいんですよ」


『それがな――意外と広いんだよ。人手が欲しい』

 これだけのダークエルフさん達が生活を営んでいるんだからな。そこそこの広さがあるのも当然だよね。

 

 とりあえず声東撃西は成功したとみていいだろう。

 このまま俺達が大立ち回りをすれば、ゲッコーさん達は集落内でもっと自由に活動できる。


「もう少し三人で頑張ってもらえませんかね。かならず後で合流するんで」


『分かった。めぼしい部分を探しておこう』


「お願いします」

 ――通信終了。


「何をさっきからブツブツと言っている!」

 と、先ほどから攻撃を仕掛けてくるダークエルフさんはお怒り。

 仲間が倒され、自分の攻撃を躱され、しかも自分をまったく相手にせずに独白しているように見えたからか、怒りに震える体には殺気を纏わせていた。


「ごめんなさいね」

 悪いと思ったので迫るショートソードを鞘でいなして体勢を崩し、左籠手に弱烈火を顕現させてから、崩れた姿勢のまま防ごうと前面に出してきた木製のバックラーごと殴り飛ばしてあげた。


「コイツ等……」

 おっと。ここで距離を開けてくるね。

 少人数でありながら圧倒しているからか、ダークエルフさん達はこちらに呑まれてしまっている。


 さてさて――。


 これだけ大暴れして派手に動いているのにネクレス氏は動く事がないね。

 ――というかいないな。

 覗き見していた時は確かにいたし、指示も飛ばしてたんだけどな。

 あの人が前衛のリーダー的な存在と判断してたんだけどね。

 この騒ぎを起こしている俺たちに真っ先に初撃を見舞ってくると思ったんだけどな。


 ――……もしかしてゲッコーさんの潜入がバレてる?

 ――いや、それはないか。あれだけ余裕のある通信をしてたんだ。間違いなくゲッコーさん達は見つかっていない。


 となると考えられるのは集落の中に戻り、不測の事態に備えて守りに入ったと考えるべきか。

 切り札であるエリスを奪われまいとする為にそこの守りにつくか。

 それとも人質としてこちらに向けてくるのか。

 後者だとこっちが一気に不利になるね。

 ゲッコーさんがそれよりも速く対応してくれればいいんだろうけど。広いと言っていたからな。探すのも一苦労だろう。


 となれば、


「俺達も急ぐしかないな」


「ファイヤーボール」


「おう!?」

 目の前で火球が爆ぜれば、ダークエルフさんが怖じける。

 ついでに俺も驚きの声を出してしまう。


「ここは私に任せて先に行くのですトール!」

 なにその格好いい発言。


「ここは私に任せて先に行くのです!」

 なんで二回言うかね……。

 コイツ、間違いなくテンションが上がりすぎて悪酔いしてんな。

 ブレーキ役もいないし、現状、無双しているから自分の強さに完全に酔っているな……。


「さあ、トール!」

 恍惚とした笑顔だよ……。

 ほくほくで肌もつやつやしてるもの……。

 まったく……。利器が向けられている命のかかった戦いの中に身を投じている者の笑みじゃねえな。

 でもその笑みが力強くも感じられるけどね。

 ああやって強気で自分に酔いしれることが出来るのも、リンが的確に障壁魔法でコクリコを守ってくれているからなんだけど。

 当の本人はその辺も自分の力で対応していると思ってんだろうな……。

 守り手を見れば、微笑みながら肩を竦ませていた。

 コクリコに呆れてはいるようだけど、その微笑みは頼りになるというもの。


 よし――、


「リンとギムロンはここでコクリコと一緒に踏ん張ってくれるか?」


「任せろい!」


「踏ん張るほどの苦戦はないけれども、構わないわよ」

 有り難い返事だよ。

 ただでさえ相手の波状攻撃が激しいってのに、二つ返事で引き受けてくれるんだからな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る