PHASE-1196【立派な弟子で有り難い】
「師匠」
「なんだい?」
「これからは、我々エルフもこの世界の為に立ち上がります」
「それはとても喜ばしい事だね」
「まずロン・ダリアス王の元に、我々の国から選抜した者たち五千を先発隊として参加させます」
エルフが五千か。
この国に来るまでだったら最高の援軍とも考えるのだが……。
いかんせんエルフさん達との戦いを経験してしまったからな……。
もちろん有能さんが多いのも理解はしている。
俺が対峙した面々が驕兵だっただけだということなんだろう。
現にルミナングスさんの部下達や、ダークエルフさん達はしっかりとした強兵だったし。
全体的に見れば有能な人材が多いと思いたい。
――というかそうであれ。
人間と比べて圧倒的に寿命で有利な種族なんだからな。
大魔法をバンバンと使用してもらって、やっぱりエルフって凄い! って衝撃を俺にぶつけてもらいたいよ。
なんたって、瘴気を浄化させて南伐へと赴けるようになれば、その先には三百万以上を有する存在と相対することになるんだからな……。
是非とも頼りになる力を見せてもらいたい。
――……うん……。
とりあえずこの三百万以上って数字は、和やかムードに包まれたこの場では口にしない方がいいだろうな。
王都へと戻った後も、この報告は先生と王様たち少数だけに留めるべきだろう。
時として秘匿は大事だ……。
三百万以上という数を耳にすれば、下手したら恐れから逃げ出す者達も出てくるかもしれない。
大軍勢と対峙して、臆することなく戦うって無理があるもんね……。
俺自身、デミタスからの三百万って発言を耳にして気圧されてしまったし……。
更に
コイツ等もそれなりの兵力を有しているだろうし、現魔王ショゴス直属の護衛軍だっている。
総兵力が四、五百万とかに膨れあがると想定――というか覚悟もしとかないといけないな……。
「どうされました師匠? 表情が強張っているようですが」
「……ああいや。気にしないでくれ」
驚異的な敵兵の数を口に出さない方がいいとは思うけども、五千の精兵を先発として派遣してくれると言ってくれたエリスに対して、ここで黙っているのはいい事なのだろうか……。
黙ったままだと罪悪感ってのが俺の中で大きくなる……。
「エリス」
「はい」
「後でいいから二人で話せないか」
「無論です」
即、快諾の返事はうれしいかぎり。
だが現実を知ればこのような快諾な返事をすることが出来るのかな……。
――……。
「人払いはしております」
「悪いな」
「言いにくいことのようですね」
「察しがいい子供は好きだよ」
「ありがとうございます」
俺よりも遙かに年上であっても、言葉に対して嬉しそうにするのはやはり見た目通りって事なのかな。
「それで――重要なのですよね」
城のバルコニー。俺とエリスの二人だけの空間。
「これから酷な話になるけども――」
「受け入れます」
覚悟を問う前に返された。
なのでその言葉を信じて俺は魔王軍の兵力を伝える。
一幹部が有している兵力が三百万を超えるものだと。
これに加えて他の兵力が合わされば、更にこの数は爆発的に増える事になるだろうとも付け加える。
そしてその三百万の首魁である
デミタスの種族を襲った不幸だけでなく、俺が以前に王都で目の当たりにした略奪行為も一緒に話す。
――……。
わずかな森閑の訪れ。
エリスの表情が見る見ると青ざめる――という事にはならなかった。
「たとえ敵が大多数であり、無法な力を振るおうとも、負けるわけにはいきませんからね」
負ければどのみち全てを奪われ、弄ばれ、滅ぼされる。
どこへ逃げようともいずれは見つかるだろうし、コソコソとして生きていく事に意味はないと言い切る。
小さな体躯のエリスが大きく見えた。
王となったばかりだが、王としての威厳はもう備わっているようだ。
若くして気骨も備わっていたからこそ、見聞を広げるために単身で旅に出るってこともしたんだろうし。
――だが、
「今度は旅先で捕まり、売られそうになる結末では済まされない」
「それも重々、理解しています」
「大軍勢だぞ」
「ですがその大軍勢に対して師匠たちは立ち向かうのでしょう」
「うん。まあ」
デミタスに聞かされるまではそこまでの兵力って分かっていなかったからな。
知ってしまえば臆してしまうのは確か。
「ならば臆することなどありません!」
本当に……。俺なんかと違って強い精神の持ち主だな。エリス。
「こちらには師匠だけでなく、ベル殿やゲッコー殿もおられますからね」
俺がいなくてもその二人だけでどうとでもなると思うけどね。
「とりあえずコクリコの事も入れといてやって」
「失念でした」
「失念しててもいいんだけどな。この場にもしいたら五月蠅かっただろうからさ」
「ハハハ……」
渇いた笑い声は、人間とは違った歳の重ね方からくる苦笑いだった。
――顔に貼り付けた苦笑いから即、表情を真剣なモノへと変えれば――、
「例え相手が大軍勢であろうとも、師匠の元に皆が集い、不可能を可能へと変えてくれるはずです。いえ――変えます。くれるはずと他人任せはいけませんね。僕も必ずその中に入り、共に変えてみせます!」
小さな体からは想像できない力強い発言。
その声音に俺の背中も押されるというものだ。
頼れる弟子を持つことが出来て、師として誇らしいです。
「俺たちが瘴気を浄化させてからが勝負だ。それまでは常に鍛錬に励むんだぞ。それ以上にこの国のために励んでくれ。その間の外の事は俺たちが先頭になって解決させていくから」
「はい! 心強く、頼りになる発言です。流石は脅威に対して先頭に立つ存在――勇者ですね」
まったくだよ。
いつから俺はこんなにも率先垂範な考えになったのだろうか……。
当初は召喚したキャラに任せるってだけの簡単な異世界攻略だと思っていたのに。
蓋を開けてみたら、俺が一番キツいところを解決していくポジションになっているからね……。
――……やはり……、初手で召喚した二人が面倒見のいい軍人だったってのが良くなかったな~……。
面倒見のいい軍人=スパルタ。
この答えに初手で至れなかった事が俺の運の尽きってやつだな。
二人の前では絶対に口には出せないけども……。
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