PHASE-1197【生きて励めばいいのです】

 とりあえずは――、


「頑張るよ。弟子達がどこに出しても恥ずかしくない師匠であるために」


「師匠はどこに出しても誇れる方です!」

 ムキになって言ってくれるのが嬉しかったりする。

 でも俺は二番弟子のエリスと違って恋人がいないからね。

 その時点で俺はエリスにとんでもないくらいに差をつけられているよね。

 師匠として格好悪いよね……。


「本当に――もっと頑張ろう!」

 と、自分に暗示をかけるように発した。

 

 ――――。


 ――――なんかとんでもなく長かったような気がする……。

 別段、この国に一ヶ月以上もいたわけじゃないんだけどな……。


 基本、国から出るって時は多くの方々に見送られるって光景が当たり前になってきたけども、その当たり前に対して未だ慣れることもなく、恥ずかしさで背中辺りがむず痒い。

 そのせいで久しぶりに騎乗するダイフクへの座り心地も悪く感じる。


「師匠」


「おう一番弟子よ。一番弟子として後ろに並ぶ弟弟子たちと共に励むんだぞ」


「もちろんです。僕は三人の中で一番才能がないですから」


「そう思えるのが美徳だぞサルタナ。エリスもハウルーシも胡座をかかずに己を磨くように。差が広がることがあっても、三人とも見下すなどしないように」


「「「はいっ!」」」

 良い返事である。


「別れの時もしっかりと師匠らしいですね~」


「だって師匠だからな」

 爺様から与えられた馬車に乗り、窓から羨ましそうに俺と弟子達のやり取りを見ながら言ってくるのは――もちろんコクリコ。

 

 残りの面々はこの国に来た時のように、ゲッコーさんが運転するJLTVに乗り込んで周囲からの歓声に応えていた。

 ベル、リンのクールな面子は軽く手を振るだけ。

 ゲッコーさんは軽い会釈で応える。

 コクリコに次いで元気担当のシャルナが三人分の――って感じではないな~。

 作り笑顔を顔に貼り付けての対応なのが丸わかり。

 最近は空元気が続いているな。

 別段、この国から再び旅立つという寂しさからでないのは分かっている。

 ――うむ。

 このパーティーの勇者として、メンバーの相談にはのらないといけないな。

 機会を窺ってから話し合おう。

 

 とりあえず、今現在シャルナが元気がないならば――、

 

「コクリコは羨ましがっていないで、誰よりも派手にこの歓声に応えてやれよ。何たってこの国で八面六臂の大活躍だったんだからな。表には出ることはなかった反乱を鎮圧させた立役者。姉御の姿をド派手に衆目に見せなせい!」


「さもあらん! さもあらん!」

 俺のゴーサインが出ると、香港のアクションスターばりに窓から飛び出して馬車の屋根に華麗に飛び乗れば、大きく両腕を振る。

 反応したエルフさん達からの歓声がコクリコに注がれ、それを体で目一杯に受けるため、四肢を広げての大の字。

 悦に入るコクリコに呼応するように、コクリコが乗る馬車で御者をしてくれているギムロンも胴間声で元気に対応。

 よし。歓声への対応はこの二人に任せておこう。


 ――で、


「素晴らしい先発隊を選抜してくれましたね。ルミナングスさん」


「最高の人材達だと思っております」

 エリスの側に立つルミナングスさんに述べれば、笑顔と共に返してくれる。

 ルミナングスさんの笑顔とは真逆の表情であろう人物は、愛馬に跨がることなく、手綱を握ったまま顔を伏せた状態で立っている。

 

 その人物は――、


「ルーシャンナルさん」

 俺が顔を伏せた人物の名を発せばビクリと体を震わせる。


「あれは仕方がなかったことですよ。相手があまりにも悪すぎましたからね」


「しかし!」

 ようやく顔を見せてくるも、何ともまあ……、酷い顔である。

 イケメンが台無しになるほどに、目の下には濃いクマが出来ていた。

 エルフの肌は透き通るような白い肌なので、余計にクマの濃さが際立っている。


「私はとんでもない事をしてしまいました。この国に魔王軍の手の者を招き入れ、あろう事かその者と一緒になって勇者殿を襲うとは……」


「だからこそルーシャンナルさんの強さも理解できましたよ。なので今回の先発隊に選ばれるのも納得です」


「こんな私に処罰もなく大役を与える事はどうかと」


「だってエリスが反乱自体をなかった事にしてますからね。そら処罰なんてないですよ」


「反乱を無かったことにする事と、私の罪を一緒くたにすべきではありません。そもそもが私が招き入れた存在によって乱が生じる事になったのですから」


「だとしても、ルーシャンナルさんに罪はありませんよ。フル・ギルっていう大魔法による支配を受けてしまったんですからね。あれを受ければ、大抵の者は支配から逃れられないんでしょうから」


「いえ、操られるという隙を見せた罪は大きいです。自裁すべきとも考えています」


「無駄死には駄目ですね。それならその命を使って魔王軍と戦っていただかないと」


「ファロンド様にもそう言われております」


「ならばそうしろ」

 と、ここでカトゼンカ氏が一言。

 カトゼンカ氏に続くように、上役であるルミナングスさんも口を開けば、


「自身の今後を考えるのは、この世界の為に成すべき事を為してからだ。身の振り方はその後だ。エルフは他の種族と違い寿命だけは馬鹿みたいに長い。それを利用してしっかりと自分と向き合って答えを出せ。だが今はその命を使って勇者殿を支えよ。迷惑をかけたと思うのならば尚更だ!」


「その通りです」「で、あるな」

 と、現王と前王も続く。

 

 氏族筆頭と上役。

 そしてこの国の最高権力者である二人の発言。

 四人の発言が生み出す圧に、ルーシャンナルさんが見事に気圧されていた。

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