PHASE-1452【駄目出し】
「フォォォォォォォォォォオ!」
黒、灰色が支配する視界。
その中で発生する強い輝き。
そして雷鳴。
子供の頃は雷が鳴れば恐怖したもんだが……。
――……今でもそれは変わらないようだ……。
特に目の前で雷鳴と輝きが襲ってくるんだからな。苦手意識を克服するのは無理ってもんですよ。
全くもってありがたくないアリーナ席だよ……。
「うわっひゃぁあ!?」
情けない声を上げ続ける。
目の前で雷がこちらに向かって迫ってくるからね……。
でもそこは、
「キュュュュン」
と、気持ちよさそうな鳴き声をツッカーヴァッテが上げつつ、ヤシの葉のような金色の触角が稲妻を吸収。
それを原動力とするかのように、乱れに乱れた雲の中を飛翔する。
「こいつは凄い。この中を安定して飛ぶとはな。タービュランスの心配なんて皆無だ」
ツッカーヴァッテへと乗っていれば、稲妻だけでなく乱気流の心配も無いからと、ゲッコーさんは余裕とばかりに煙草を咥える。
実際、騎乗している俺達は、雷と暴風雨に晒されるということはない。
これもツッカーヴァッテが有する力の恩恵ということなんだろう。
「ゲッコー殿。咥えるのは良いですが、火はつけないでいただきたい」
「失敬」
ベルからの指摘にオイルライターを手にしたままで待機。
受動喫煙は皆して嫌がっているからね。
ベルの場合、煙だけでなく、吸うことで生じる灰が、愛らしいツッカーヴァッテに落ちるかもしれないという事も嫌だったりするんだろう。
ゲッコーさんには電子煙草を勧めよう。もっと勧めたいのは禁煙だけど。
「わぉお!?」
二人のやり取りを肩越しに眺めつつも、この雷鳴だけは慣れない。
聞こえる度に動悸が速くなる。
鼓膜が持っていかれそうだ。
――鼓膜が持っていかれそうであって、鼓膜が潰れることはない。
暴風雨に稲妻だけでなく、雷鳴も軽減してくれているツッカーヴァッテのフィールドに感謝だ。
「ひぃやぁ!?」
――……それでも慣れないですけども……。
――。
終始、悲鳴を上げていた俺。
雷鳴よりもトールの声の方がうるさかったと、背後のメンバーに言われつつ、暴風雨と雷の世界を抜け出す。
「おお!」
外殻の中へと無事に進入できれば、眼界に入ってくるのは下半円の浮島。
その下半円の上には建造物群。
建物の見た目で思い出すのは――、
「あれだ――あの~なんだっけ? モンサンなんちゃらのような建築様式だな」
「確かに。モン・サン=ミシェルのように見えるな」
「そう、そのモンサンですよ」
下半円の上にある建築物は、防御壁に囲まれた城下町といったところ。
そして中央には巨大な城壁に守られた白亜の城。
要塞全体が白亜の石材を使用して建造されており、目にすれば神々しいという言葉が脳内に浮かぶ。
「全くもって魔王軍という感じがしませんね。神界と言った方がしっくりときますよ」
と、コクリコ。
「背景が灰色じゃないなら余計にそう思うよな」
雲の外殻の中心に存在する天空要塞。
白亜の建築物の神々しさを禍々しくしてしまっているのが周囲の空の色。
さてと、
「どこからお邪魔すればいいんですかね」
気付かれないようにするには、要塞の土台となっている丼みたいな下半円のところからなんだろうけども――、
「潜入できそうな部分はないようだな」
双眼鏡を手にし、潜入ルートを見つけてくれているゲッコーさんからの一言。
「となればですよ――」
「上方の建造物群へと着陸して、お邪魔する事になるだろうな」
「ですよね。ゲッコーさん好みじゃないド派手な感じになりますね」
「いやいや、ここはお前達が目立って行動すればいい。俺は単独で動いてもいいと思っている」
「――なるほど」
まずは話し合いとも考えているけども、戦闘に突入した場合、保険としてゲッコーさんに要塞内に潜入してもらい、マッピングと破壊工作をお願いするのがいいよな。
もしもの時はS級さん達の増員もプレイギアで行える。
潜入からの破壊工作となれば、こちらは有能な人材が揃っている。
「じゃあ、それでいきましょう」
「では私の出番!」
「じゃないよ!」
直ぐさまワンドの貴石を赫々と輝かせるんじゃない。
しかも装身具を光らせながらアドンとサムソンを展開するんじゃないよ。
明らかに練りに練ったファイヤーボールかそれ以上であるポップフレアを放とうとしていただろう……。
「まずは悠々と上空から要塞の全容を見ていこうじゃないか」
ツッカーヴァッテに指示を出し、そのまま要塞を見下ろす位置を飛んでもらう。
「壮観だな」
中央部分の城の建築美は他よりも力が注がれている。場所と見た目からして本丸だと断定していいだろう。
上空を制している現在、中央部分にこのまま降下すれば、要塞の主である
「そう簡単にはいかないよな。お出ましだ」
流石に要塞直上を飛行していたら即応してくる。
要塞外周の防御壁などから翼を動かし空を舞う者達がこちらへと向かってくる。
ざっと見て数は五十ほど。
「即応のスクランブル――」
「展開が遅い」
「……おう」
俺としては即応だと思っていたけど、ベルからすればこちらが外殻を突破した時点で出てこないと駄目だ! と、相手を駄目出し。
「しかも相手は油断している。ダメダメだ」
と、ここでゲッコーさんからも駄目出し。
一応は手に利器を持っているが、それを構えるかどうするかで迷っている挙動が目立っていた。
あの戸惑った動き。これまでこの要塞に許可無く外部から訪れた者がいない証拠でもあるな。
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