PHASE-1453【挨拶は大事】

「戸惑っているのは有り難いことだ」

 背後からの発言と共に、カチャリという音。

 肩越しに見ればゲッコーさんがハーネスを外し、そのまま――俺達の視界から消える。


「おもしろい能力ね」

 と、マナではない能力に興味を持つリン。

 そんなリンに対して光学迷彩を使用するゲッコーさんは、お宅のお仲間にも消えたり出てきたりするのがいるだろう。と、返していた。


「じゃあ行ってくる」

 見えないけども、その場にいるゲッコーさんから一言。


「ちょっと待ってください。行くってどうやって?」


「もちろんウイングスーツからのパラシュートだ」


「マジですか」


「マジだよ」


「着地に失敗したら外殻ですよ」


「大丈夫だ。失敗はしない。もし失敗したら――お前の不思議な力で喚んでくれ。失敗はしなくても保険は大事だからな」

 要塞に着地できなかった場合、直ぐさま連絡を入れる。プレイギアでこの場に召喚してもらえると分かっていれば、憂いなく飛び降りられるとのこと。

 にしも便利だな。直ぐさまウイングスーツにもなれるんだから。

 宙空から武器も取り出せれば、服装も自由自在に着替えられるのは楽でいいよな。


「気を付けてくださいよ」

 イヤホンマイクを耳に装着し、通信テストをしつつ述べれば、


「『言ってるだろう。失敗はしないと』」

 と、地声と通信が混ざって返ってくる。


「覗きは失敗しましたけどね」


「……それは言わないように……」

 その話題になるとリン以外の女性陣の目が半眼になるからか、困った声になるゲッコーさん。


「とりあえず見えないけど、行動に移る前に――スクワッド――」

 リンが発するのは、少人数に魔法を同時にかける魔法であるスクワッド。

 俺が生み出した技であるスクワッドリーパーとは違うスクワッド。


「からのアダプテーション」

 と、初めて聞く魔法名を継ぐ。


「これでこの地の環境に順応できるようになったわよ」

 

「助かる」

 地形における状態異常を回避できる補助魔法のようだな。

 高所となれば気圧の低下で酸素欠乏から頭痛や吐き気に襲われる。

 それを払拭できるのは有り難いとゲッコーさん。

 これには残りの面子も大助かりだ。


「お気をつけて」


「ああ、ここにいると煙草も吸えないからな。天空要塞に足をつけた人間第一号となって、最高の一服を楽しんでやるさ」

 肩身の狭い愛煙家は辛いもんだと愚痴を言いつつ、ザッという音。

 飛び降りたようだな。

 俺達の一連の動作に合わせたかのように、要塞上空で待機していた中から五人が翼を動かし近づいてくる。

 タンガタ・マヌだった。

 同じ種族でも三つ揃いのクロウスと比べると、威厳というのは伝わってこない。


「何者か! ここへと入ってくるのならば、事前に連絡をよこすように……と……」

 一定の距離を保ちつつ、怒気の混ざった誰何――をしてきたのだが、ツッカーヴァッテに乗っているのが自分たちとは違う風体だというのを目にすれば、わずかな静間が訪れる。

 どうやら思考がNow Loadingといったご様子。

 幹部はともかく、一般的な兵の対応能力はそこいらの魔王軍と変わらないかもしれない。

 レッドキャップスが縮地で一気に距離を詰めて攻撃してきた魔大陸での戦いと比べると、コイツ等の判断力は鈍い。

 俺がここまで推察する事が出来ているからな。


「……はぁ!? に、人間!?」


「まさか! そんな馬鹿な!?」

 と、二人のタンガタ・マヌが素っ頓狂な声をあげ、残りの三人も忙しなく首を可動させる。

 五人の内の一人の頭が梟タイプだったのもあって、その頭がグリングリンと稼働するのがちょっとおもしろかった。


『無事着地』

 と、くすりと笑ってしまう中、耳に装着したイヤホンマイクからゲッコーさんの声が届く。


「では、頼みます」


『ああ。そっちは混乱中の相手と少しでも親密にな』

 こちらの状況を確認しつつ、ゲッコーさんは単独でスニーキングミッションへと移行してくれる。


さて――、


「どうも。自分、遠坂 亨と申します。勇者という自分には過ぎた称号をいただき活動させてもらっております」

 へりくだった言い様で挨拶。

 相手に対して敵対心を持っていませんよ。という思いで伝えれば、


「勇者だと!」

 おう。毎度のリアクションかな。

 見た目が表六ひょうろくの貴様が勇者なわけがない! ってところか。

 毎度の事だからもう慣れてるよ。


「へりくだってはいるが、確かに眼光は歴戦のソレだ。勇者は若い男という話だしな」

 お!? いつもと違うリアクション。評価が初期から高い。


下手したてに出るのも余裕の表れ。まさに強者の佇まい」


「いやいやいや~」

 なんだい。気持ちのいいことを言ってくれるじゃないか。


「コイツ等わかってるね♪ 兄ちゃん」


「だな。仲良く出来そうだ」

 ミルモンも主である俺に対して畏敬の念を抱いている五人のタンガタ・マヌの姿にご満悦。

 あんまり調子に乗るとベルにボコボコにされるけども、相手が俺をそういう風に見ているからね。仕方ないね。


「しかし、まさかルドルクナスを突破してくるとは……」

 ――ルドルクナス?

 言い様と視線の方向からして、雲の外殻の事だと考えていいだろう。


「当然! 勇者とその仲間たちですからね。ルドルクナスを突破するのは可能ですよ」

 と、胸を張りつつ述べれば、相手は距離を取ってくる。

 警戒レベルが更に上がったようだ。

 未だかつて許可なくこの地へと入り込んだ者達はいない。

 今日この日まで。

 自分たちの領域に突如として侵入してきた人間たち。

 警戒だけでなく、恐れの感情も窺えた。

 

 友好的には見えない間合い。初対面の挨拶は失敗したかな……。

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