PHASE-539【煽りダメ絶対】

「お前……これ出せるの」


「出せますとも。ゲッコーさんの世界では巨大な民間軍事会社が持ってましたよね」


「ああ、羨ましい連中だった」

 最終的にはゲッコーさん達によって壊滅させられるけどね。

 ゲーム内ではオブジェクトでしか出てこないが、この世界なら本物として出てきてくれる。


「JLTV――ジョイント・ライト・タクティカル・ビークル。ハンヴィーの後継車。ハンヴィーと同等以上の機動性。防御力と積載容量の勝った車両だな。オシュコシュ社のL-ATVだな」

 うん。分かりません。

 というかL-ATVなの? これはJLTVって言うんじゃないの? その辺は完全にスルーしていいのかな?

 単純にゲーム内のオブジェクトを見た時、厳ついなという事で記憶してただけの車両だけども。


「なんだ、いつものがいいのではないか?」


「そんなことはないぞベル。コイツはいいものだ。召喚できるなら今後はJLTVにしてもらいたいね」

 ベルは不満のようだけど、ゲッコーさんはノリノリ。


「気に入らないのかベル?」


「ライトが可愛くない。強面ではないか」

 うん、乙女が出ているね。車なんだからいいじゃないかとも思うんだけど。女の子ってこいうのも可愛いで決めるのだろうか?


「可愛かろうが性能面で決めるから」


「仕方ない。では乗ってみようか――――」

 


 ――――初めての車の運転が外車とは、俺も中々どうして背伸びがすぎるね。

 怒られるのが嫌だったから運転講習に集中していたけど、それでもチラチラと見てしまったが、それだけでもしっかりと脳裏に焼き付けられたね。

 本当に――、シートベルトを考えた人は天才ですな!

 もしくはパイスラッシュという言葉を生み出した人物は神だね。


「ちょっと! なにを物思いに耽っているのですか! ちゃんと前を見て運転してください」

 助手席から気が張った声が上がる。


「凄いなコクリコ。俺の世界の人間みたいな台詞だぞ」


「浮つきすぎですよ。本当に大丈夫なんですか」


「大丈夫だ、問題ない」

 全然、大丈夫じゃない返しをしてしまったけども。

 本当に問題はないだろう。

 講習を終えての一人での運転だから、走り出した時は緊張したもんだけど、それ以上に感動だ。

 なんという足回りだろうか。舗装されていない平原を走るとなればもちろん隆起した場所もあれば、地中から大石だって頭を出してたりもするわけだ。

 でも揺れの無さよ。ハンヴィーの時に比べてすこぶるいい。

 もちろんこの世界の馬車なんかと比べればハンヴィーだって最高だけど。それをこえてしまう独立懸架サスペンションがもたらしてくれる安定感。

 独立懸架サスペンションってのがなんのこっちゃ分からないけども。ゲッコーさんが口にしてたのを耳にしただけの言葉だけども。


「ところでトール。トールが手にする舵輪の横にある、映りの悪い鏡は何です?」


「分かりません!」

 俺はベルに最低限の運転技術を教わっただけ。

 前席中央にある大型ディスプレイの存在を何に使うかなんて分からないよ。

 あれか? バックとかする時のアシストなのかな? 軍用車両だからそれ以外の活用法があるんだろうが、そんなもんはゲッコーさんに聞いてくれ。

 それよりも、ハンヴィーよりもしっかりとした内装に目を向けるんだ。

 ハンヴィーはコイツに比べたら外見は愛らしいが、内装は無骨で金属がむき出しになってたりしてたもんだ。

 だがこのJLTVはどうだ。ラグジュアリーな乗用車みたいにしっかりと作り込まれているぞ。

 コクリコ達にそこを説いたところで分かりはしないけども。

 乗用車ってなに? って話だから。

 

 最初はどうなるかと思ったけど、楽しいじゃないかドライブ。

 初めての運転ではあるけど、プレイギア操作とはいえ、ティーガー1に巨大なミズーリだって動かしているって考えると、最初に抱いていた緊張は虚空の彼方へと飛んでいった。


「なかなか上手いね」


「だろ」

 後部座席のシャルナからはお褒めの言葉。というか、助手席にはシャルナに座ってほしかったぞ。

 ベルほどじゃないけど、シートベルトのパイスラッシュが見たかった。

 その為には金属の胸当てを外させないといけないけど。

 ゆとりあるシャルナと違って、助手席のコクリコは不安が強い。

 でも、こんな場所なら事故はまずないから。

 ――っと、思ってはいけないのだ。

 ゲッコーさん曰く、広くて自由に走れるところは事故に繋がりやすいとの話だ。

 知らず知らずに速度を出すから注意しろとの事だった。

 

 ちゃんと車間距離を保って走る事を心がければ大丈夫。

 この部分を俺はしっかりと胸に刻んでいる。

 だってここを語った時のゲッコーさんの目が怖かったからね。

 絶対に調子に乗った走りはするなということだろう。やらかしたらガチで恐ろしい目に遭いそうなので、俺は模範ドライバーを目指そう。


 デカくて厳ついのに乗っているからって、強くなった気になったり、高圧的な心に支配なんてされない。

 ましてや煽りなんて心の貧しい人がするような真似事は絶対にしないぜ。

 もし前のトラックに少しでも当たってしまったら……。と、想像しただけで肌が粟立つ。

 烈火の如く怒り狂って、運転席から飛び出してくるであろうベルとゲッコーさんに殺されるからな……。

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