PHASE-540【堕ちる事なんてありえない】
――――――。
「はあ……、全ての神々と聖龍に感謝します」
「はぁ?」
なんなのコクリコさんよ。俺のセイフティードライブに対してのその感想。
降車した途端に両膝ついて祈ってんじゃねえよ。
車間距離だって十分に保ったし、ぶつかりそうになる事すら無かっただろうが。
ネット界隈の一部で人気の【おいゴルァ!】だって見事に回避してやったのに。
「シャルナさん。どう思いますかこの態度」
後部座席で俺同様にコクリコの所作を眺めるシャルナに問えば、
「私はトールの運転は上手だと思ったよ」
「だよね。そもそもこれから俺たちは、俺が操艦するミズーリに乗艦するんだよね。お前、今まで平気で乗ってたじゃねえか」
祈りを終えて立ち上がり俺を見れば、
「アレは大きいからいいのです。沈まないといった気概が伝わってきますから。大地に立っている感覚と同じなのです。安心感しかありません」
「アイオワ級の造船に携わった人達が耳にしたらさぞ喜んでもらえる発言だな」
まったく、無事に目的地まで連れてきたんだから神や聖龍にではなく、俺に感謝してほしいね。
初めての運転でいきなりの長距離移動。
目的地到着までに、トラックとJLTVの再召喚も実行した。
燃料の概念がないティーガー1やミズーリと違って、オブジェクトあつかいの乗り物は、実際に運転する必要もあれば燃料の概念もしっかりとあるので、途中で燃料が尽きることは分かっていた。
というよりゲッコーさんがその辺は気づかってくれていた。
M939 5tトラックは行動距離が300㎞ほど。
俺が運転したJLTVが480㎞ほどらしい。
実際にトラックの方が先に燃料が切れかかっていたし、JLTVにはまだ余裕があったからゲッコーさんの知識は信頼出来た。
JLTVも燃料補給という名の新たな車体を召喚。何事もなく海岸到着に至る。
コクリコに続いて降車。背中を伸ばせば、パキパキと背中から小気味の良い音が聞こえてくる。
「初めてでいきなりの長距離だったが、しっかりと運転できていたな」
と、ゲッコーさん。
「これからもっと長距離ですけどね」
「そうだな。ミズーリを召喚したらコーラでも飲んだらどうだ」
スカッと爽やかな気分になりつつ航海に励みますよ。
俺たちがこの地に足を踏み入れた時は暗礁と岩礁。浜辺は石だらけ、トドメに崖上りだったけど、北の海岸は見事なオーシャンビュー。リゾートにもってこいの砂浜だった。
白い砂浜には不似合いだろうけども、堅牢な鋼鉄の巨艦を直ぐさま召喚。
敵のいるこの地より素早く脱出したいからね。
ミズーリに乗り込みさえすれば、コクリコも言っていたけど安心感が絶対的だからな。
「これ……は……」
大きな口をあんぐりと開いて驚いてくれるのはガルム氏。
狼フェイスの顎門が大きく開けば、スイカを丸ごと噛み砕けそうだな。
他の集落の皆さんも
突如として沿岸に現れた270メートルを超える鋼鉄の戦艦が原因で、強者であるはずの面々の表情が恐怖に支配される。
「トール様の力をマナを通して見てはいましたが、直に見るとトール様の力がどれだけ強大なのかが分かります」
若干だけど、リズベッドの声は上擦っていた。
魔王である彼女も、これほど大きな船は見たことがないそうだ。
一番、大きいとされている
「これが火龍ヘラクレイトス様を救い出す時、要塞周辺のシーゴーレムの大艦隊を容易く壊滅させた神船」
継ぐリズベッドに対して、地龍は長い首で大きく首肯。
「これほどの物を召喚するとはな。勇者は未知なる存在を多数召喚できるのだな」
「まあ、これだけじゃないけどね。以前、俺のギルドメンバーにも言ったことがあるけど、あのミズーリを一撃で消滅させることも出来る力も保有しているよ」
「なんと……」
地龍は真実として受け止めてくれたのか、驚きを隠せないでいた。
リオスにて活躍している、ギルドメンバーのリュミットに同じことを言った時は、空笑いが返ってきたっけ。
「頼むから闇にだけは呑まれないでくれ、勇者よ。君が呑まれれば、誰も君を止める事は出来ないだろう。ショゴスに代わって、君が世界を闇に変えない事を願っている。今のまま真っ直ぐに正義を貫いてほしい」
「もちろんだとも。だからそんなに真剣なトーンで喋らなくてもいいよ」
「本当に、今のままのトール様でいてください」
そもそも俺が闇堕ちとかありえないから。
「今のままでいるから問題ない」
「ああ、そうだ」
ね……。そんな話になるとスクランブルでもかかるのか、ベルとゲッコーさんが直ぐに俺の背後に立つんだぜ……。
どうやって闇に呑まれるっていうの。
呑まれる前に昇天させられるよね。
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