PHASE-15【無茶なことを言ってきた……】

 ――――現在この王都に攻めてくる魔王軍ってのが、ヘルガー峡谷にあるリド砦から進軍しているそうだ。

 先日、攻めてきたのは百くらいだった。

 あれが代わる代わる攻めてきて、王都を苦しめている。

 砦には、それ相応の兵力が配備されていると思われる。


「こちらの兵力は?」

 弱腰の兵を兵力とは呼べないだろうけども、ベルヴェットが指揮すればましにはなるだろう。


「……すまないが勇者よ。兵は出せない」


「は?」


「君たち二人で何とかしてもらいたい」

 目のクマが凄いことになっている、弱々しいこの国のトップが、変な事を口走ったな。

 聞き間違いだろうか?


「Pardon?」


「二人に託す」

 やはり変な事を口走った。

 分かるよ。初老みたいだし、侵攻によって、体力も精神も擦り切れてるんだろうけども、思考がシャバシャバだな。

 百を優に超えるであろう砦の兵力を二人で? 

 ――――俺は無意識のうちに、諸手で王様の胸ぐらを掴んで、ブンブンと頭を前後運動ヘドバンさせてやる。

 こうすればシャバシャバな脳みそも、少しは固まるだろうと思っての行動だ。

 家臣団が懸命になって、「おやめくだされ勇者殿」とか言ってますけども、


「ふざけんなぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!」

 ってな具合に、大いにブチギレてやった。

 何が悲しくて、砦を攻めるのに兵も率いず、二人で行かねばならないのか……。




「はあ~」


「さっきからうるさいぞ」

 この美人はなんでこうも余裕なのか。

 外へと続く西の城門前で、上から吊られたかのように真っ直ぐと伸びた背筋で、凛と佇んでいらっしゃる。

 ただ立ってるだけなのに、それだけで人々を魅了する。

 長身で足が長く、タイトなパンツと、スリーブレスからなる上着の軍服。

 隆起している部分と、引っ込んでいる部分がはっきりと分かる体のラインには、世界的なモデルもひれ伏すね。

 周囲の兵士と共に、俺も見入ってしまうが、エメラルドグリーンの瞳で睨まれてしまう。

 誤魔化すように、コホンと咳を一つ打って、


「うるさいとか言うけど、どうすんだよ。二人だぞ」


「まあ仕方がない」

 仕方ないってなんだよ。と返せば、嘆息が返ってきた。

 哀れな者を見るような目で見ないでくれる……。

 ――――ベルヴェットが気怠そうに教えてくれる。

 この国の状況からして、現状の兵力では、この王都の城壁を守るだけで手一杯。

 先日もこの城壁の規模からすれば、少数であるはずの、百ほどの敵兵力にいいようにされていた。

 今立つ西門も破壊されたままで、土嚢を堆く積んでの急場しのぎしか出来ていない、修復進捗の遅延。

 疲弊と恐怖で、全てが滞っている状況。

 そんな中で、限界に近い兵達を行軍させるというのは無理である。

 別から兵力を補うとなると、徴兵となる。

 戦える者が少ない状況下では、幼子、老人をかき集めるしかない。

 集めた結果は、戦い方も知らない者たちを死地に立たせるだけになる。

 これは現実的ではない。

 正規軍を少人数あてがわれたところで、寡兵ならば、現状の兵達の精神状態では邪魔なだけ。

 この王都には財貨と呼べる代物があるとは思えない。

 励んでも報奨も得られないなら、兵は尽力しない。なんとか食いつなげている事が出来るから、この王都に兵として残っているだけ。

 ――――と、教えてくれた。


「ふう~」

 ベルヴェットのが移ったのか、俺も嘆息を漏らす。

 説明を受けて、いよいよ二人で攻めるってのが現実味を帯びてきた……。


「不安か?」


「なんで自信に満ちあふれてるの?」

 これから大軍の待つ砦に、二人で行くんだぜ。


「初戦で理解できたが、相手は脅威ではない」


「そりゃチート持ちなら当たり前だろうさ」


騙すチート? 侮辱な発言だな」


「ああ、ごめん。そんな意味合いじゃないんだ」

 ゲームとかで使用されるチートって言葉を知らないと、本来の意味としてストレートに受け取るもんな。

 ゲーム内で使用される意味合いを知らないゲームキャラってのも、なんか変な感じがするな。

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