PHASE-946【結局いるよね】
「落ち着きなさいよ。ゲートなんて普通でしょう」
ほほう。リンがアビゲイルさんの興奮にたじろいているな。
さっきまで嘲笑を浮かべていたけど、好奇心なんかが真っ直ぐに向けられると弱いよなコイツ。
対する好奇心と興奮が混じるアビゲイルさんはリンの発言に項垂れる。
「普通ではありません。はぁ……これが公爵様であり勇者様たちの標準なんですね……。とてもではないですが私程度ではついていけません」
と、項垂れる原因を述べる。
俺やコクリコはともかく周囲は規格外だからね。そう思っても仕方ない。
「精進することですね」
ここぞとばかりにマウンティング女子となるコクリコは流石だな……。
俺の評価では俺と共に【ともかく】にカテゴライズされたのにな。
「しかし、よくお分かりになりましたね」
アビゲイルさんの疑問。
リン曰く、マナであるネイコスが一点に集まっているから容易く感知できたということだった。
後はそこに刺激を与える。
つまりはリンの魔力で隠れている魔法を強制的に発動させたという感じ。
サラッと言うけども、それは簡単な事ではないとアビゲイルさん。
「なるほどね~確かにここだけマナが濃いもんね」
「目に見えてから言われても説得力がないわよ――――おばあさま」
「うっさい! 後おばあさま言うな! 溜めてから言うな! 間をつくるな!」
悔しそうなエルフは年甲斐もなく地団駄。
それを見て再び嘲笑へと変わるリン。
アンデッドだけど表情は豊かである。
「漫談はもういいとして、この先が何処に繋がっているかが重要だ」
二人のやり取りをスルーし、目の前の黒い穴を注視する。
「そんなものは簡単だ」
「え? あ、おい!」
なにも気にすることはないとばかりに、最強さんであるベルが穴の中に入っていく。
身構えつつとかじゃなく、普通に歩いて行くところが最強さんだよな。
ベルのそういった立ち振る舞いには格好良さと憧れを抱いてしまう。
頷きつつ、俺も後に続こうと足を進める。
もちろん火龍の籠手を前面に出してのピーカブースタイルで対策はする。
前傾姿勢になりつつ穴へと入ろうとすれば――、
「ぶ!?」
突如として穴から出てきたベルと衝突してしまう。
惜しむらくは……、ピーカブースタイル。
両腕を前に出すことのない前傾姿勢の状態だったら、間違いなくロケットおっぱい様に顔を埋めることが出来たのに……。
ラッキーぱふぱふイベントだったのに……。
――ではない。
「どうした?」
「む、無理だ……」
顔面蒼白となるベル。
なんとも珍しい。最強の存在がこんなにも弱々しくなるなんて。
最強さんがこういった弱々しい姿になるとなれば、脅威となるのは限られる。
「この穴の向こう側には――」
想像していれば、それを断つように俺が想像していた系の存在が――、
「シュゥゥゥ」
と、蛇みたいな鳴き声と共に姿を見せてくれる。
以前にも見たやつだった。
馬鹿がコロッセオで投入してきた、確か――、
「ギガースワーム・エクソアーマーですね」
「そうそれ」
コクリコの記憶力に感謝。
で、感謝と一緒に感心もする。
「ファイヤーボール」
姿を見せたと同時にワンドの貴石を赤く輝かせて、有無も言わさずの攻撃。
左手首と右足首につけた装身具である、オスカーとミッターと命名したタリスマンも輝かせてのファイヤーボールは、ギガースワーム・エクソアーマーの頭部に見事に命中。
大きな爆発を生み出す。
「グギュュュュ――!!」
痛みからか筒状の口から声を上げつつ、鎌首を上げるように上体を反らせば――、
「ひゅぅ……」
ベルのとは思えない弱々しい声が、俺の背中に届く。
「まあ、これはグロいよな」
なんちゃらワームと、なんちゃらミリピードだったかの環形動物と節足動物の合成獣。
ミリピリード――つまりはヤスデ。
上体を反らせば無数のウネウネと動く足を見る事になる。
こういった系が苦手なベルにはキツい相手だ。
現状では炎を津波のようには出せなくても、炎による遠距離攻撃は出来るはずなんだけどな。
出会い頭に苦手系モンスターと遭遇したことで、帝国中佐の立場よりも乙女の部分が勝ってしまったようだ。
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