PHASE-466【亜人集落】
「魔王様を救い出すという話だが」
ガルム氏に首肯で返す俺。
ま、ここで俺たちがそれを成功させれば、バランスは一気に崩れるんだよな。
前魔王を救えば、ここにいる猛者達が恭順という足枷から解放されるんだから。
「俺たちの主目標は地龍を救うこと。その為には必須な存在らしいからね」
姫様の呪解にも期待したいし。
「感謝する。しかしあそこには――――」
レッドキャップスがいるって事だろ。
俺たちにとんでもない身体能力を見せてくれたガルム氏たちの表情が曇る辺り、魔王護衛軍の中でも精鋭揃いのレッドキャップスは難敵とみていいだろう。
「今後の事もあるだろう。ひとまず我々の名も無き集落へ招待しよう。ここより直ぐだ」
「ありがたいね」
この大陸に来て早々に拠点が出来るのは助かる。
お礼を述べて、ガルム氏たちと集落を目指す――――。
――…………。
道中はずっと驚かされていた。
流石のゲッコーさんも苦笑いだった。
七十キロ出ていたハンヴィーと併走できる脚力もさることながら、現在ハンヴィーの平均走行速度は四十キロ。
この速度を維持してかれこれ一時間ほど走っている……。
でもって、ヴィルコラクの三人は、息を切らすこともなくハンヴィーと併走。
ガルム氏にいたっては、ハンヴィーの前に立って案内までしてくれる。
集落はここより直ぐという発言は、一体何だったのか……。
距離の感じ取り方に違いがありすぎる。
「彼らとは直接戦闘は避けたいな」
珍しく力ないゲッコーさんの発言。
戦術なんかを駆使して戦えば、ゲッコーさんなら難なく勝つだろう。
とくに関節のある存在なら、接近戦では無類の強さを発揮するといってもいい。
極めて、投げるなどの達人でもあるからな。
そんなゲッコーさんにそこまで言わせる辺り、ヴィルコラクの面々はかなりのやり手だな。
「私は手合わせしたいですが」
まあ、お前なら間違いなく勝てるよ。
強者に対して嬉々とした笑みを湛えるベルの姿は、この魔大陸において、もっとも頼りになる。
小山の麓から白い煙が数本の筋となって、空へとのぼっているのが見える。
更にすすめば川もある。
川幅は数メートルと狭いけど、澄んだ綺麗な水だというのは見るだけで分かる。
ま、がぶ飲みはしないけどね。
お腹ピーピーになった地獄の経験も、随分と昔のように思える。
そんなに月日は経っていないけど。
新緑と深緑が混ざり合う美しい自然の風景のなかに、藁葺きの簡素な集落が見えてくる。
人間の領域と違って、塀もなければ、柵もない。
更に簡単な作りである、杭と杭をロープで結んだものすらない。
害獣除けなんて皆無だ。
野と集落には境や区切りというものが存在しなかった。
不用心だが、ハンヴィーと併走できるような力を持っているのを好きこのんで襲うような野生のモンスターがそもそもいないということだろう。
「ようこそ我らが名も無き集落へ」
むしろ名も無きって響きが格好いいよな。
「ふう~。流石に疲れたぜ」
ベケット氏とポロ氏は肩で息をしている。
肩で息をしている程度で済んでるのが凄いけど。
リーダーであるガルム氏に至っては、息切れすらしていない。
先ほどまで走っていたとは考えられないくらいに、普通に佇んでいる。
どんな
案内されるままに境界線のない集落へとお邪魔する。
ハンヴィーの存在はやはり物珍しいのか、鉄の箱が走ってきたことに、集落の方々は驚いた顔を向けてくる。
「てっきりヴィルコラクだけの集落だと思ったけど、普通にオークやゴブリンがいるぞ」
「彼らの全てが現魔王に従っているわけではないからな」
刺激をしないために降車して、歩きでの移動に変更。
横を歩くガルム氏が、集落の皆に俺たちの紹介をしてくれる。
丁寧に頭を下げてくる挨拶に、俺たちは手を振って返礼する。
「ただのゴブリンやオークじゃないな」
「レッドキャップスの面子もただ者ではないが、ここにいるゴブリン達もかなりのやり手たちだぞ、勇者殿」
「そりゃそうだろうさ。魔大陸で現魔王に平伏することを良しとしない。胆力あるのが集まってんだろ」
「ハッハハハハハ――!」
この場に集った仲間を褒められた事が嬉しかったようだ。
狼のような口を大きく開いて、朗らかに笑っている。
上顎と下顎には、なんでもかみ切りそうな立派な牙が生えそろっていた。
「流石は勇者殿だな。理解しておられる」
継いで褒めてくれるけど、大きく開いた口の方に意識をもっていかれていた。
ここのゴブリンやオーク達はヴィルコラクと共に、前魔王の供回りをしていたそうで、相当に腕が立つそうだ。
現魔王軍や、野生で生きる者達と違い、倫理を持って行動できる強者たち。
中にはホブゴブリンよりも強いゴブリンもいるという。
俺が戦ったホブを指標にすれば、レベル四十超えの連中も普通にいるってことだな。
この集落には、かなりの実力を有した亜人達が集まっているのかもしれない。
味方になってもらえれば、かなりの戦力拡充につながるけども、反面、そんな彼らが慎ましく生活をしているのは、前魔王の事も考えてのことだろうが、加えて現魔王軍の力も警戒しているからだろう。
そんな状況下で俺たちがこれから向かう目的地は、魔王護衛軍が鎮護するラッテンバウル要塞。
今まで以上の困難に対して、覚悟して挑まないといけない事を再認識させられる。
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