PHASE-465【人狼・ヴィルコラク】
双方が警戒を続ける中、ふとベルへと目を向ければ、添えていた手をレイピアよりどかす。
同時に安堵する。
ベルが警戒を解くということは、危険が無いと同義だから。
それが証明されるように、狼男たちが手にした槍を背中に背負った大きな革鞘にしまう。
超重武器を軽々と片手で、しかも後ろを見ることなく器用に収めていた。
「油断しないでください。武器が無くてもあの身体能力です。無手でも驚異でしょうから」
「だから、それっぽいことを言って不安にさせるんじゃないよ」
コクリコの発言を聞き流したいが、聞き流せるほど俺は豪放磊落ではない。
ベルの警戒を解いた姿を目にしていても、やはり俺個人は驚異と感じ取ってしまい、鞘を握る左手は自然と力が入っていた。
パーティーの代表として、勇気を出して俺がまず降車。
――……やっぱりでかいな。
「初めまして、遠坂 亨といいます」
目を反らすことなく、しっかりと狼男を見つつ一礼。
「いま簡単にランシェルから話を聞かせてもらった。勇者殿だとな」
威風堂々たる巨躯だ。トロールよりは縦も横も小さいけども、背に収めている槍での一撃で、そのトロールも簡単に倒してしまいそうだ。
「こんなんですが勇者です」
「そんなにへりくだらなくてもいいさ。レティアラ大陸に人間が来ている時点で、勇者としての実力を示しているからな」
笑顔を向けてくれる。
笑顔は良き隣人の証と思いたい。
「トール様、こちらは――」
「自分で名乗ろう。ガルム・ヴァレーという。残り二名はベケットとポロだ。種族はヴィルコラク。人狼とも呼ばれている」
俺とは違って、視線を地面へと向けての一礼。
残りの二人も同様に、丁寧な一礼を俺へと行ってくれる。こちらに対して警戒をしていないととっていいだろう。
俺の警戒心も和らぐ。
やはりと言うべきか、外見通り狼男だった。
「ガルムなのに犬じゃないんだな」
おっと、俺もその事は気になっていたが、降車したゲッコーさんが冗談交じりにガルム氏へと言葉を投げかける。
「犬の方が良かったのかな? 強者よ」
ゲッコーさんにも一礼。
「名前が冥界の番犬だったんでついな?」
「冥界と言われてもな。我々の伝承には出てこない名だ。期待に応えられなくてすまない。何だったらよかったのかな?」
ここで俺はゲッコーさんと顔を合わせて頷いてから――、
「フェンリル」
「マーナガルム」
まったくもって合わなかった……。
「いや、ちょっと待ってゲッコーさん。なんすかマーナガルムって。ガルム氏と名前がかぶってるし。なんに出て来るキャラですか」
「お前も口にした北欧神話だよ。お前もフェンリルって大概だろう。ベタもベダだな。そちらのガルム氏と似た名を持つ狼を出すのが粋だろう」
「いやいや、そんなマイナーな狼の名前を出されても。聞いた大半が首を傾げますよ」
俺より中二病をこじらせているから変化球がすぎる。それじゃあストライクは取れないよ。
「二人ともいい加減にしないか」
涼やかな声によるお叱り。
本人を前にして、名前がどうこうと言うのは失礼すぎると、ベルに睨まれる男二人。
「ランシェル、頼む」
俺たちに睨みを利かせた後に、ベルは手をランシェルへと向ければ、会釈で返礼し、
「トール様。ガルム様たちはこの地において、我々のお味方です」
両方に顔が利くランシェルが進行役となり、獣人系の亜人であるヴィルコラク達の説明をしてくれる。
ヴィルコラクは獣人系の中でも上位にはいる膂力を持ち、マナを行使できる戦いに特化した種族。
前魔王を支持していたことから、現魔王とその配下たちからは心証が悪いそうだ。
しかし、有する力は絶大ということから、敵対を回避したい現魔王サイドは、反抗的な行動をとらなければ、前魔王を支持したという罪には問わないとしたそうだ。
前魔王が囚われている時点で拒否権は無いそうで、素直にそれに従い、現在はここから西に少し進んだところにある小山の麓に集落を築き、同じ志の者達と共に細々と生活を営んでいるそうだ。
ランシェルが言っていた集落ってのは、このヴィルコラクの皆さんが生活の拠点としている所をさしていた。
一応は現魔王に恭順の意を示している。
そうしないと忠義を尽くす前魔王に危害が及ぶ可能性があるからだそうだ。
現在のヴィルコラク達の仕事は、魔大陸内での警邏。
この地に驚異などないと考えられる事から、体の良い厄介払いという意味合いが強いようだ。
従順を演じていれば、前魔王が苦しめられることもないからと、無理に反抗に打って出るということもしないらしい。
現魔王であるスライムのショゴスは、絶妙なバランスでヴィルコラク達を制しているようだ。
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