PHASE-467【ロス解消】

「なにも無いだろう」

 順繰りに集落を見ていた俺に、ガルム氏が問うてくる。


「恭順の意を示しているってことだけど、別段、強制的に従わせようとするような奴らはいないようだね」

 いないから俺たちをここに迎えてくれたんだろうけども。


「この辺りは翼幻王ジズが担当していてな。そこの連中が秩序維持として監察に来るが、茶を飲んで直ぐに帰る」


「適当だな」


「ああ、あそこの軍勢は適当だ」

 クロウスもなんか適当に仕掛けて、俺たちに間引きをさせた感じで去っていったからな。

 翼幻王ジズは何を考えて行動しているんだろうな。


「適当に報告もしてくれているのか、スライムが我々に強権を振るうことは今のところないな」

 現魔王をスライム呼ばわり。

 魔王と認めていない証拠だな。忠義をつくすのは囚われの身である魔王ただ一人ってところか。

 狼だけど、忠犬ってイメージだ。


「なにか?」


「いや……なにも。亜人が共同で生活するのはいい事だね」

 犬というイメージを気取られないように、共に生活をする亜人たちの話を振る。


「いい事か」

 語気のトーンが一つ落ちたような……。

 これは地雷を踏んでしまったのだろうか。


「人であるのに、亜人に対して偏見を持っていないのだな」

 ああ、訝しくてトーンが落ちたのか。

 俺がこの世界の住人じゃないからってのもあるかもしれないけどな。

 人が亜人を見下すから、敵対者になる。

 最初の強敵だったホブゴブリンもそんな事を言っていたよな。

 現在人類は追い詰められているから、敵対者を増やすことなんてナンセンス。

 俺は頼れる仲間なら、種族問わずに来る者は拒まずだ。


「今は助力は難しいだろうけど、俺たちが魔王を助け出したら協力してくれるよね?」


「なんとも大仰な事を口にする。が、主を救ってくれるという大恩には、全身全霊で応えよう」

 ヴィルコラクの戦力は大きい。

 協力は是非とも取り付けたい。


「お父さん!」

 お、なんかちっこいのが家から出てきて、手を振ってこっちに来てる。

 元気な声だ。


「お宅のお子さん」


「ああ」

 ほうほう、人の親でしたか。年齢が分かりにくいけど、俺よりも年上のようだな。

 ガルム氏の子供と分かるような、父親譲りの赤銅色の毛並み。

 麻袋に穴をあけたような簡単な服とズボン。

 笑顔がなんとも愛らしい三頭身。

 ゴロ太や子コボルト達より頭身が一つ高いが、それでも小さな体は可愛い。

 まるでぬ――――、


「ぬいぐるみが走ってこっちに向かってくる……」

 俺の思いを代弁してくれるのは――、もちろんベルだ。

 大抵はコクリコだが、この分野はベルだな……。

 これはよろしくないテンションだ。


 長期にわたるモフモフロスで、結構なストレスを蓄えていたのかもしれない。

 近づいてくるガルム氏の子供に向ける目が、変質者のそれと同じような気がする。変質者には会ったことがないけど。


 完全に、初めてゴロ太を見た時の状態になっている。

 乙女モードのベルさんは、両手をわきわきとさせて、こっちに向かってくる二足歩行の可愛いヴィルコラクを捕捉。


「はぁ!」

 素っ頓狂な声をベルが上げる理由は、最初の子供に続いて、家の中から更に三人の子供たちが現れたことだ。

 特に奇声の原因となったのが、最後に出てきた子だ。一番背が小さいことから末っ子だと思われる。ゴロ太サイズの二頭身だ。

 コボルトと違って、顔立ちはシャープだけど、愛らしさは共通。

 まん丸なお目々はずっと見ていられる。


「息子たちだ。しかし、彼女は大丈夫なのか」

 わなわなと震えるベルを心配してくれるガルム氏。出来れば自分の子供を心配した方がいいような気がする。

 ベルが異様なテンションを纏っているが、そこはガルム氏の息子たちというべきか、ベルに対して不安を抱かずに、元気よく挨拶をしてくる。


「元気があって素晴らしいな。皆、名前はなんというのかな」

 柔和な笑みを称えるベルのテンションが更に上がる。

 たがが外れれば、即座に抱きつくだろうな。

 ゴロ太の時といい、こういうところは全くもって成長していないな……。




「ふぃ~美味かった」


「何よりだ」

 まさかこんなにも良い食事にありつけるとはね。

 しっかりとした肉に野菜。でもってパン。

 瘴気が少ないこの大陸だと、肥沃な大地が恵みを与えてくれるのは当然。

 人狼だから、肉は生肉を食すのだろうと偏見を抱いていたが、普通に調理して出てきたし、それをスプーンやフォークを使用して食すところは、人間と変わらなかった。

 小山に放牧している牛を振る舞ってくれた。

 客人が来たということで、普段とは違って豪勢だったらしく、子供たちも喜んでいる。

 しかし集落と野に境がない場所での放牧って凄いよな。

 モンスターに襲われない辺り、集落の方々の監視が行き届いているんだろう。

 

 命に感謝しての夕食。


「もらっていいの?」


「当然だ。たくさん食べて父上殿のように逞しく育つのだ」

 現在、乙女モードのベルさんは、ガルム氏の子供たちにご飯を食べさせている。

 末っ子君を自らの膝の上に乗せてご満悦。

 ちびっ子達も優しいお姉さんと認識してなついている。

 羨ましいキッズ達だ。俺にもその優しさを向けてほしいね。

 なつかれてベルは大満足。

 モフモフロスを完全に取り戻したようだ。

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