PHASE-97【ミズーリ、動け! ミズーリ、なぜ動かん!】】

 ――――何という威圧感。何という存在感。

 ゲーム、ワールドシリーズ。ワールド・バトルシップより参戦。

 トラックや家だって召喚できたんだもの。戦艦も呼べると信じてましたよ。

 ファンタジーが牙を剥いてくるなら、こっちは鋼鉄の塊でその牙を砕いてくれようぞ!


「でも大和じゃないんだな。てっきり日本人ならそっちをチョイスすると思っていたが」

 ゲッコーさんの言やよし。


「俺にとって大和は浪漫よりも悲壮の方が占めてるんです。それにミズーリは未だにご存命。ハワイはパールハーバーで観光のために活躍してますからね」

 一度は行ってみたい。

 まあ、ミズーリを選択した一番の理由は、大和と違って、チートも備わっているからな。


「よしミズーリよ! 海上のゴーレム達を没セシメヨ!」

 猿叫で鍛えた俺の声帯からは大音声だ。


「――さあ! 攻撃だ!」

 ――…………?


「何も起きませんが?」

 パンパンとお尻をはたきながら立ち上がるコクリコからの、疑問符つきの発言。

 言は正しく、うんともすんともだ。

 豪快に発言したのにこの肩すかし、琥珀色の瞳が、俺に冷ややかな視線を向けてくる。

 俺としても、なんで反応がないのかと思ってるわけですよ。

 乗組員のリアクションもミズーリから聞こえてこないし、キャンペーンモードのジーナス・アンダーセン艦長は何処? 正義の塊である艦長は?


「これではただの壁だな」

 ベルや正鵠を射たり。

 反対方向からは、ガインガインと、大石をぶつけられている音がする。

 いくら鋼鉄の戦艦とはいえ、攻撃を受け続ければ、装甲も凹んじゃうよね。

 おのれい! 俺のミズーリに傷をつけるんじゃない!

 ええい! どうしたというのだ!

 仕方ない――――。


{――――セラさんや}


{なんでい、トールさん}

 相変わらず返信が早い。今回はその早さに救われた。

 しかし、文体はなぜにべらんめえなのか。

 そこはいい、ボッチの死神に聞きたいことがある。


{いま起こっていることをありのまま説明するぜ――――}

 てことで、なぜに動かないのかと簡潔に伝えれば、


{そりゃそうでしょうよ。ミズーリしか召喚してないじゃない}


{じゃあ、人も召喚すればいいのか?}

 セットじゃないんだな。

 てっきり乗組員も一緒に召喚されるのかと思った。

 だが、よかったのかもしれない。俺の言う事を聞かないって事もあるからな。

 艦長は正義の人だが、いきなり異世界に召喚されたら、乗組員の間で混乱は必至だろう。

 う~ん。でもどうしよう……。

 俺のミズーリ。このままじゃ、ただの案山子ですな……。


{自分で動かせばいいじゃない}


{あのな、こんなデカい戦艦、俺を含めて四人だぞ。町の住人を含めても、全然足りない}


{ゲームでは一人で動かしてるでしょ}


{え!? これゲーム感覚で動かせるの!}

 ――――セラの説明では、俺が持ってるプレイギアでミズーリを操作出来るという事だ。

 驚きしかない。第二次世界大戦ダブダブツーの時の乗員は二千五百人以上。それ以降でも千五百人以上で運用していたのに、それを一人で出来るとか、なにこの高揚感は。


{助かったよセラ。ボッチプレイばかりだろうけど、フレンドとも楽しめよ}


{問題ないし! フレンドなんて一兆人いるし!!!!}

 返ってきた文面からはキッズ臭が漂っていた……。

 ボッチだということも自明の理。

 一兆人って……。最近の小学生でも使わないであろう見栄だな。

 ゲーム機のフレンドには上限あるぜ。間違いなく一兆人はないよ。

 セラがとっても可哀想になったので、ここでの問題が解決したら、フレンド第一号になってあげよう。

 死んだ時に出会った時は高慢ちきと思っていたが、こいつは存外コミュ障なのかもしれないな。

 決してスタイル抜群の美人死神だから、フレンドになってあげるとか、そんな邪な考えは抱いてはいない――――。と、いえば嘘になる――――。


「さあ、乗り込もうぜ!」

 チャットを終えて、高らかに手を振り、皆を誘導――――したかったが、どうやって乗るのか分からなかったので、こういうのが得意なゲッコーさんに従って行動。

 ――――でもって、艦橋に無事到着。

 移動時にミズーリ内を見回したが、セラの説明どおり、人っ子一人いなかった。

 これだけ巨大な艦に誰もいないとか、ちょっとしたホラーだった……。

 流石に人がいないのに、どうやって動かすのかと、ミズーリに詳しいゲッコーさんも怪訝な表情だ。

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