PHASE-98【抜錨】

「動くのですか?」

 代表してコクリコが俺に語りかけてくる。

 こんなにも巨大な鉄の塊をどう動かすのかと、不安になっている。

 そんなもん、こっちに大石を投げてきている、石の船モンスターのシーゴーレムも動いてるんだから、いちいち気にする事じゃないだろう。

 気にしないといけないのは、グワインって、音と衝撃を艦橋に届ける行為だ。


「早く動かしてください!」

 音と衝撃に恐れるコクリコがせっついてくる。


「うるさいな」

 初めてなんだから時間をくれよ。

 艦橋に備わる椅子に座り、プレイギアにて、ゲーム操作と同様に扱えば、ミズーリから振動が伝わる。

 シーゴーレムの大石を受けているのとは違い、艦自体が振るえているかのような感覚。


「火が入ったか。俺は移動する。外を確認したいからな」

 ゲッコーさんはイヤホンマイクを残して、露天艦橋に移動。

 語調からして興奮しているようだ。


「キタコレ!」

 ディスプレイにはゲーム感覚で実際の外の風景が映し出される。

 FPSのような感じだ。


「汽笛鳴らせ。ヨーソロー」

 ゲッコーさんに負けず劣らず俺もテンションが上がっているようで、一人芝居を始めてしまう。

 大丈夫か? と、俺を可哀想な人を見るような目でベルが見てくる。

 はたと現実に戻されると恥ずかしくなるから、そういうリアクションはやめてもらいたい……。


『ブォォォォォォォォォォォ――――』

 重厚でどこまでも届きそうな汽笛だ。


「な、なんですかこの不気味な音は!? 地獄の扉が開いたんでしょうか!」

 汽笛をしらないコクリコにとっては恐怖であったようだ。

 となれば――、アナログスティックをいじりカメラを動かしズーム。

 ありがたいことに、シーゴーレムの後方に展開している海賊船に乗っている奴らも、汽笛に慌てふためいている。

 ――……ついでに、町の人達も……。


「スピーカなりマイクなり無いのかな」

 試しに、プレイギアのマイクをONにしてみる。


『あ~テステス』

 俺の声がちゃんとミズーリから出ている。

 あるあるだけど、自分の声をマイクとかで聞くと、普段、自分が耳にしている声と違うから、妙な気分になるよね。

 まあそんな妙な気分よりも、今はマイク機能が便利だという感情が上回っている。


『これより海賊を倒してくるので、安全な場所で待機していてください』

 デカい艦から俺の声が聞こえれば、町長は畏怖から柔和な表情に変わった。

 この鋼鉄の塊が完全に味方だと認識したようだ。


「解せぬ」


「何が?」


「なぜ鉄が浮くのです」

 まだ気にしてるのか。

 シーゴーレムが浮いてる事には、魔王軍脅威の魔導なんたらで片付けているくせに。

 石の塊が浮くんだから、そこは流せとだけ、心底でツッコミを入れておこう。

 まずは眼前の敵が重要だからな。

 ここまで散々に投石をくらってるのも、いい加減に癪だ。


「ミズーリ、抜錨!」

 うん――。言ってみたかっただけ。

 左スティックを操作すれば――――、


「コイツ、動くぞ」

 うん――。言ってみたかっただけ。

 やばい! 俺はいま有頂天だ。

 滾るぜ! 漲るぜ! 

 正直、動かなくてもいいんだけどな。

 シーゴーレムの大石が飛んでくるのは、二百メートルほど先からだ。

 対して、ミズーリの主砲である40.6cm砲の最大射程は、38.7㎞だ。

 なんの問題もない。

 シーゴーレムが攻撃をした時は、ファンタジーが牙を剥いてきたと思ったものだが、この悠然にして壮麗。無骨なようで、美しいラインからなるオーバーテクノロジーで、オーバーキルを実行してやろうじゃないか。

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