PHASE-1524【別のタブレット】

「トール! これを見てください!」


「なんだよ、反省しているとは思えないくらいに明るく大きな声だな……。耳キーンなるわ……」

 琥珀の瞳を輝かせて持ってくるのは、掌に乗っかる程度の小箱。

 地味な灰色の革で覆っているだけの簡単な作りのモノだった。

 

 ――で、


「これは良い物だと思いませんか!」

 興奮しながら小箱を開いてみせれば、出てくるのは二つの指輪。

 金色の石がはめ込まれたシルバーリングと、黒色の石がはめ込まれたシルバーリング。

 石のサイズはBB弾サイズくらいしかない。


「戦利品としていただきましょう!」


「おう、そうだな……」


「戦いには発展しているけども、本当に話し合いとか考えてんのかよ……」

 俺の後ろでは拘束されたラズヴァートが嘆息まじりに苦言を呈してくる。

 対して、


「私を柱に縛り付けたという辱めに対する賠償と考えればいいでしょう」

 と、あっけらかんと返しながら、


「これの能力とか分かりますか?」

 と、質問。

 質問をされればラズヴァートは苦笑い。


「まあ、お嬢ちゃんが装備している装身具と同じような効果だよ」

 ブレスレットとアンクレットと同じような力――つまりは魔法の威力を底上げする能力を有しているという。


「素晴らしい! オスカーとミッターとの力を重複させれば、今以上の火力をたたき出せるというわけですね!」

 大興奮で箱に入った指輪を見つつ、


「えいや!」


「あ、馬鹿!」

 取り出して直ぐさま右の食指と中指にはめる。

 呪いの類いとかあったらどうするのか。という考えを持つこともなくはめる蛮勇っぷり……。


「――ふむ。体の中から力が湧き上がってくる――といったものではないですね」


「お嬢ちゃんの装身具だって装備して力が湧き上がるってことじゃないだろ? 効果同様、使用方法も似たようなもんだ」


「それはいいですね」

 コクリコはご機嫌。

 でもって、敵でありながらも女が相手となれば、口が軽くなるのもラズヴァートらしいといえばらしい。


「これは良い物を手に入れました。我が力が更に向上するとは――ククククッ」

 くつくつと悪そうに笑みを湛える美少女さん。


「食指にはめた金色の石の方をビル。中指にはめた黒色の石の方をランスと名付けましょう!」

 ――……。


「お前は本当にこの世界の人間か?」


「なにを訳の分からない事を」

 コクリコのネーミングセンスが毎度毎度、俺の世界に関係した名前になるのはなんでだろう……。

 

 次に一対系のアイテムを手に入れたら、どういった名前をつけることやら。

 ――――ゴンベとタゴに一票。


「我が新たなる力を直ぐにでも振るいたいですね」


「頼らせてもらうよ」


「お任せを!」

 現状でもファイヤーボールを練りに練ってから、アドンとサムソンと共に発動させれば上位魔法クラスの威力まで昇華させることが可能となったコクリコ。

 いずれは装身具の底上げだけで、低位魔法を大魔法クラスの火力にまで到達させることも可能となるかもしれない。


「さてと、宝物庫での用も済ませたことだし、次の場所への案内もお願いしようかな」

 ポームスに目を向けて言い終えたところで、


「あ!」

 ちびっ子ワイバーンの羽を力一杯に羽ばたかせて、


「バーカ、バーカ!」

 俺達を貶しながらポームスが宝物庫から出て行く。


「覚えてろよ! ここでの勝利なんて所詮は戦術的なものでしかないってことを思いしらせてやる!」

 常套句だけど今までの連中からすれば凝った言い様でもある。

 ちらりとユーリさんを見る。

 小さく頷くのを確認。


「ああ、なんてこった。ここで逃げられるなんて~」


「ボクに逃げられることを後悔するんだね!」


「ああ、間に合わない~」


「なんとも嘘くさい……」

 ちびっ子ワイバーンに跨がるポームスの背中を見送る俺の姿は、右手を伸ばして掴むことの出来ないポームスの背中を眺めながら虚空を握るという動作。

 この動作にロマンドさんの代役であるルインが、溜め息を混じらせながら言葉を漏らす。


「逃がしてどうするんですか!」

 と、コクリコは俺の油断に不甲斐ないとご立腹。


「いや~誰かさんが余所様の宝を漁って、それを嬉々とした表情で見せてくるもんだから」


「うぅ……。それは申し訳ありません」

 おう、殊勝じゃないか。


「で、ですがユーリなる人物にも問題はあるでしょう! かなりの手練れだと思いますが、その手練れが隙を見せすぎだと思いますね。とてもゲッコーの有能な部下とは思えませんよ」


「まあ、そう言うなよコクリコ」

 だって、わざとなんだからさ。

 

 ――宝物庫から出てロマンドさん達が待機している部屋へと戻れば、


「おお、アル氏もいない」


「少し前に、小さな飛竜に乗ったグレムリンと共に立ち去った。こちらが何もせずにいたからか、向こうもなにもせずに去っていった」

 と、ロマンドさん。

 目覚めたばかりで上位スケルトンの集団とやり合おうとするなんてのは愚策だからな。

 どのみち逃がすつもりでもあったし。


 なにはともあれ意識が戻って良かった――。


「ユーリさん」

 名を口にすれば、


「そっちも問題なしだよ」

 内容を言わずともサムズアップと共に返してくれる。

 

「マーベラス!」


「どうも」

 

「では、早速」


「そうだね」

 言えばゲッコーさんみたいに宙空からアイテムと出すという芸当を見せてくれるユーリさん。

 

 ――取り出すのはB4サイズのタブレット端末。

 

 以前に俺がエルフの森で使用したモノに似ているが、こっちは別物。

 

 以前のは画面に分度器のような半月状の映像が映し出される心拍センサーだったが、今回のは違う。

 ディスプレイには半月状のものは表示されず、代わりにゆっくりと点滅する二つの緑色の〇マークが映し出されている。

 

 

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