PHASE-1525【要塞内追跡】

 ――点滅する二つの〇マーク。


「バレていないみたいですね」


「上手くいったよ」

 ユーリさんと二人して口角を上げる。

 バラクラバだから目以外は出ていないが、シワの動きで口角が上がっているのは見て取れる。

 

 ポームスの体を優しくポムポムした時、ユーリさんはポームスのスーツに追跡装置を取り付けていた。

 で、アル氏に対しては、拘束から気絶へと繋げた時に追跡装置を取り付けたという。

 ポームスに取り付けたのは分かっていたけど、アル氏に対してのは気づかなかったな。 

 

 なにはともあれ、有り難きはゲーム内アイテムの追跡装置。

 二人の動きは点滅する〇マークとなってタブレットに表示される。

 後はこの点滅する〇マークの後を追えば良いだけだ。

 ミルモンの能力を使用しなくてもこういったことが出来るのは助かる。


 ――ポームスは翼幻王ジズの世話係ってことだったからな。

 向かっている場所がその主のもとだという可能性が高い。

 進めば進むほど強い連中との戦いが待ち受けている状況。

 二人を追跡すれば余計な部屋に入らずにすむ。

 強敵とのエンカウント確率を下げつつ、スムーズに翼幻王ジズのもとへと行くことも可能ってもんだ。

 当然、油断はしないけど。


「二人仲良く進んでますね」


「そのようだね。これなら本命に報告をすると考えていいね」


「ですよね」

 ここでも二人して口角を上げる。


「なにを二人して楽しんでいるのですか? 私にも状況を教えてほしいですね」


「可能ならば自分にも説明をしてほしいな」

 ディスプレイを眺める俺達の横から覗き込んでくるコクリコとロマンドさん。

 ラズヴァートに聞かれるのも嫌なので、コソコソと説明。


「――なんとも便利な魔道具よな」

 感心して鷹揚に頷くロマンドさん。


「フフフ――。名誉挽回の機会がこうも早くやってくるとは!」

 琥珀の瞳を煌めかせる――ではなく、ぎらつかせて功名のチャンス来たりと喜ぶコクリコ。


「まだ確定したわけじゃないけどな。その可能性があるってことだぞ」

 だから先走るなよ。と、コクリコを諫めていたところで、


「お、上に移動したね」

 と、ユーリさん。

 二つの〇マークの横に、上へと進んだことを示す上向きの矢印マークが出現。


「追跡といきましょう」


「流石に離れすぎはよくないからね。要塞内部を把握していない我々では対象の位置は分かっていても、その道順までは把握できないからね」

 ディスプレイにはマップが表示されているわけじゃなく、二つの〇マークの位置が表示されているだけ。

 これ以上、距離を離されれば、土地勘のない俺達では二人が使用したであろう階段の位置が把握できなくなる。

 もしくは階段ではなく飛行移動ってのも考えられる。


「素早く静かに追いましょう」

 言って俺達もこの室内から出てポームス達を追跡開始――と行動に移ろうとしたところで、


「皆して走り込みか」

 イヤホンからではなく、背後から聞こえてくる渋い声。

 この声にユーリさんは直立姿勢。


「姿を消して背後から語りかけてくるなんて驚くじゃないですか」


「言う割に落ち着いているのは胆力がついてきた証拠だな。トール」

 言いながら俺達の前に姿を現すハリウッディアンなヒゲのダンディズム。


「ようやく合流だな。急いでいるようだし、走りながら報告といこう」


「ですね。報告は受けてましたけど、新たな発見なんかはありましたか?」


「ああ、ばっちりだ」


「それは朗報ですね」

 声音から伝わってくる自信。結果を聞かずとも期待以上の働きをしてくれたのが伝わってくる。

 

「このおっさんは誰なんだよ? なんで女じゃなくて野郎ばっかりが突如として出てくるのやら……」


「この軟派そうなのがこちらの捕虜か?」


「そうです。コードック・ボッチ・ラズヴァートといいます」


「ふざけた名をつけるな勇者! 俺はラズヴァート・エッケレンだ!」

 

「といった感じで直ぐ怒りまして、道案内もしてくれない困ったヤツなんですよ」


「だが性根は真っ直ぐとしているようだな」


「自分もそう思いました」

 と、ゲッコーさんとユーリさんはラズヴァートを高評価。

 高評価を受ける側は、敵に評価されても嬉しくないとばかりに舌打ちで返してくる。

 加えてゲッコーさんを敵意剥き出して睨むが、瞬時に目を反らしていた。

 とんでもなくやばい存在だというのを肌で感じ取ったようだな。

 それ以降は悪態をつくことなく、俺達と一緒に走るだけになった。


 ――ポームス達を追跡。


 タブレットを手にしたユーリさんを先頭にして二十を超える人数での移動。

 ルインとエルダーの前衛スケルトン達はフルプレートで身を包んでいるけど、走る時に生じる音はガシャガシャではなくカシャカシャといった小さなもの。

 魔法付与された鎧が素晴らしいからなのか、それを纏う者達の走法が素晴らしいからなのか、はたまたどちらでもあるのか。

 とにかく静かでありながら素早い移動だった。


「会敵はないようですね」


「そうだな。そういった気配もない」

 先頭ではユーリさんとゲッコーさんが語り合う。

 ディスプレイにも目を向けないといけないユーリさんをフォローするように、ゲッコーさんが全体に目を光らせる。

 俺も負けじと周辺警戒。

 通路を駆け、左折、直進、左折、直進、右折。

 曲がり角においては細心の注意をしながら進んで行く。

 

 ――入り組んだ通路を走り続けるなかで、


「会敵なし」

 俺が一言言えば、


「遭遇しないのはおかしなことだな」

 ゲッコーさんが続いてくれる。

 スカイフィッシュが解き放たれているとはいえ、この辺りには入り込めないようになっているという話だった。

 なので通路には立哨や歩哨がいてもいいと思うがそれがない。


「東側の方が厳重だったな」

 要塞内部を見て回ったゲッコーさんからすれば、西側の警備はあまりにも手ぬるいとのこと。

 実際、会敵することもないからね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る