PHASE-868【騎乗にて】

 発言は名代だけでなく王様や家臣団。更にはこの戦いに参加した諸侯も凍りつかせる。

 この人物が本気でそれを考えれば実行できるだけの力を有しているというのは、皆が理解しているからだろう。

 先生は脅威となる存在に対して、躊躇なく命を奪う事も厭わない人物。

 忠義という言葉も似合うのだけど、酷薄という言葉も似合う。

 現在、滅亡に瀕している大陸は一つにならないといけない。

 だからこそ、それを阻害する全ての者を淘汰するという意思表示は、味方で参加した諸侯の心にも刻まれたことだろう。

 というか、それを狙っての発言でもあるだろう。


 王の叔父であり、前王の弟であろうとも、組みする者たちも含めて全てを処断するという気概を見せれば、日和見の者達も背筋を正して行動するというもの。

 反面、反感を買うようなことにもなるだろうけど、そこは先生。


「主はどう思われます?」

 と、勇者である俺に振ってくる。

 四大聖龍リゾーマタドラゴンの二柱の力を受けて、魔王軍を退けてきた勇者の従者の発言となれば、反目するのも中々に出来ないというのも考えてのこの振り方だよ。


「この大陸の為に皆が一丸となって粉骨砕身すると約束してくれるなら、良き付き合いをするべきだと思います」


「流石は主です。勇者としてご慈悲を与えるのですね。その大恩に対し、さぞ励んでくれるでしょうね」

 先生が名代へと視線を向ければ、


「もちろんでございます!」

 と、ここで俺という存在が寛容に対応してくれると判断したのか、名代の騎士は俺と交渉するのがいいと判断したようで、体を俺の方へと向けてくる。

 まさに飴と鞭。

 先生がわざと鞭を振るい、俺が甘い飴を与える。

 即興で腹黒いやり取りをする俺と先生の笑みは悪いものだ。


「でもその前に――」


「何でしょうか……」

 俺も先生を真似て声音を重いものにする。


「この戦いに参加してなかったとしても、止める事をしなかった責任の所在は父親にあると思うんですよ。戦いを望まないのならば、しっかりと子が犯した罪を謝罪していただきたいですね」


「無論そのつもりです」


「それとしっかりと戦いに敗れたということも認識していただきたいですね」


「分かっております」

 よしよし。

 これで戦勝国側として、戦争賠償をがっぽりと手に入れられる。

 敗戦国からはがっつりと取らせてもらうよ。

 なんたって戦争ってのは、インテリな野盗たちによる蛮行だからな。


「ん?」

 こちらへと数騎が向かってくる。

 名代同様に旗を掲げた一団。

 中央の一人だけが旗を手にしていない。 


「名代が帰ってこないから、公爵様が自らお出ましのようですな」

 伯爵が発せば、


「下馬を」

 と、王様が続き、皆して下馬。

 階級では王様が上なのにな。普通は向こうが下馬するのを待つんじゃないの?


「あまりいじめないでいただきたいですな。勇者殿。そして殿下」


「叔父上。お久しぶりですね」


「ええ」

 ――――これが公爵か。

 なんか最初の頃に出会った王様みたいだな。

 骨張った弱々しい手が手綱を握っている。

 弱々しくはあるけど、騎乗しているから気骨はあるようだな。

 公都から要塞までの長距離移動と考えると、高貴な方は馬車を利用するのが普通なんだろうけどな。

 高貴な方、しかも高齢の人物が自ら手綱を操っての長距離移動か。

 老いているけども、公爵としての矜持をこちらに伝えるためにあえて騎乗による移動手段をとったのかもな。

 

 風貌は弱々しいが、気丈な人物なようだ。

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