PHASE-62【決着】

「見事に我が主である勇者トールが、敵将を討ち取った!」

 先生がいつの間にか壁上に立っている。

 大仰に乗馬鞭を振り、大音声で俺の勝利を伝えれば、


「開門! これより掃討戦を開始する」

 継いであり得ないことを口にした。いや、開くとは言ってはいたが……。

 少ない兵力なのに、掃討戦とか。

 ――……おう……、本当に門が開かれたよ。


「「「「キェェェェェェェェェ!!!!」」」」

 ああ、それ知ってる。俺と一緒にやってた猿叫だ。

 今まで戦いになると逃げていたであろう兵士達が喊声を上げ、冒険者達よりも前を走って敵へと突き進んでいく。

 振り上げた剣を全力で振り下ろし、倒せば、更なる猿叫を発しながら敵の中へと突っ込んでいく。

 モンスターよりモンスターみたいな叫び声だ。

 敵大将が倒された事で浮き足立っているゴブリン達は、迎撃をする事が出来ずにいる。

 且つ、兵士達の狂った咆哮と、血走った目の迫力に気圧されて及び腰となっている。

 猿叫が恐怖を与えたのか、及び腰の中の数体が手にした武器をかなぐり捨てて、迫る兵達の反対方向に走り出せば、恐怖が連鎖していき、一万はいた敵兵が、蜘蛛の子を散らすように敗走を始める。


「進め」

 先頭には、敵軍に最も恐怖を植え付けたベルが佇む。

 軍神のような威厳だ。

 装飾が美しい護拳から伸びたレイピアの切っ先を逃げていく敵に向ける姿は格好いい。

 ゲーム内では、戦乙女と、兵士達に言われるだけあって、凜々しく、美しい。

 こっちの兵士達も高揚しているからか、美しい存在の短くもしっかりとした声を耳にして、逃げ惑う敵に容赦なく後ろ袈裟を見舞っていく。

 俺がこの世界に来た時には、事切れた兵士の死因が後ろ袈裟だったけど、今では逆になったな。


「天上より使わされた者の力を刮目した者たちよ! 味方は攻めよ。敵は逃散せよ!」

 先生がノリノリだ。

 たったの四百程度なのに、完全に勝ち戦になってる。

 それどころか、後方支援だったはずの住人の方々も、木の先端を尖らせた槍を持って、兵や冒険者の後に続いていた。

 たくましい事だ――――。


「…………はあ……」


「はい、お疲れ」


「どうも」

 水筒をゲッコーさんから貰う。


「――――はあ――」

 先ほどの嘆息とは違う、安堵の息を漏らす。

 水ってこんなにも美味いんだな。


「発言どおり、バロルド・マハーロ・ドゥモネイスを討ち取ったな」

 そんな名前だったな。ホブゴブリン。

 ベルは笑みを湛える。

 軍人として、俺が活躍したのが喜ばしいようだ。上官が部下に見せる優しい笑みなんだろう。

 やはり稀にだが、主従の関係が逆転するな……。いや、そもそも主従の関係とかないか……。


「それに、最後の一太刀を見舞う前の投げ。私の動きをよく記憶していた」

 これまたお褒めの言葉だ。

 忠誠心も上がるってもんだろう。後で見てみよう。期待はしてないけど……。


「主!」


「あ、凄い。もう乗りこなしてますね」


「よき乗り心地にて――、おお!? どうどう」

 ヒッポグリフを捕獲したと思ったら、すでに乗りこなす先生。

 俺達の前に着地するが、まあ、至近で見たらデカいな。

 象くらいの大きさで、顔が猛禽とかスゲー怖いよ。

 でも、先生が頬部分を撫でれば気持ちの良さそうな表情を見せる。こういうのを見てると、無理矢理に戦いに駆り出されてたってのが分かる。

 丁寧に育てれば、多くの活躍をしてくれるだろうな。

 問題は餌代だな。これだけ大きいとなる……と…………。

 ――……そもそも餌って何だろう……。

 戦いの時は、空から落とすために、兵士を咥えて飛行していた光景を見たけどさ。

 それが違う意味合いで脳裏によぎる……。

 猛禽だろうから肉食だろ。で、この大きさ……。人を咥えていた光景…………。

 ――……俺は考えることをやめた。


「しかし、この幻獣は素晴らしいですな。これで長距離の連絡は馬より速く出来ます」


「コイツを活かすためにも、遠方の協力者を探さないといけないですね」


「その通りです」

 ――――俺たちが話しているその頃、戦場では追撃をやめており、命からがらとばかりに逃散する魔王軍に、兵士達が今までの恨みとばかりに、罵り、次には笑って、側にいる者たちとガシリと手を握り合って、勝利を喜んでいた。

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