PHASE-981【冒険者が適任】

「……や、やってくれる……。まさかライトニングサーペントを易々と使用できるような強者がいるとは……な。流石は勇者の仲間という事か」


「凄いぞリン。あいつ普通にこっちの事を称賛したぞ。常に驕っている傭兵団とは本当に違うな。マジで同じ連中なのか疑いたくなる」


「自身の実力も分かっていない下っ端とは別格なのは理解できた。まあ、それでも私の相手にはならないわね~」

 でしょうね。

 ここでリンの止まった心臓を寒からしめる事が出来るのは、ベルとゲッコーさんだけだろうからな。

 ――特に前者。


「ハハハハッ! この魔法勝負は私達の連携による勝利のようですね!」

 まだ息が整っていないシェザールを前にして、ガイナ立ちのコクリコ。

 言動だけは強者そのもの。


「本当に、呆れるくらいに強気よね……」

 リンの止まった心臓を寒からしめる事は出来なくても、脱力感を与える事が出来るコクリコの神経はある意味すごい。


「我が孫の仲間が相手の出鼻を挫いた。皆の者、一気呵成に畳み掛けよ!」

 魔法の応酬がゴングとなり、爺様が声を張り上げれば、包囲している兵達から鬨の声が上がる。

 俺の立つ後方からもラルゴ達がそれに呼応して叫び、


「では皆さんここで終わらせましょう」

 荀攸さんが手を前へと向けると、地鳴りを起こしながら包囲した者達が動き出す。

 突撃の掩護として屋根や壁上から矢が射かけられ、多彩な攻撃魔法も放たれる光景。

 全方位から迫る遠距離攻撃を受ければ、流石に猛者揃いの傭兵団でも――、


「「「「プロテクション!」」」」


「おお! やるぅ!」

 大声が出てしまった。

 息の揃った声はそのまま揃った障壁を全方位に顕現させる。

 半球の形状ではないが、しっかりと前方に魔法の壁を出現させれば、上からの攻撃にもしっかりと備えるように上方にも展開。

 魔法障壁による砦が一瞬にして構築された。


「殆どがマジックカーブを利用したものだけど、あれだけの攻撃魔法を防ぎきるのは修練を積んでる証拠だね」

 リンだけでなくシャルナも感心させる相手。

 そして――、


「ぬぅぅぅぅぅん!」

 遠距離攻撃の第一波が止んだところで、障壁の一箇所が門のように開き一人が飛び出せば、そのまま単身にて迫る征北の騎兵編隊に対し、自慢のウォーハンマーを諸手で握り、下方から斜に打ち上げる。

 農耕馬のように大きく、馬甲を纏った馬もろとも編隊が軽々と吹き飛んだ。

 直撃を受けた中央の征北の一人は、手にしたカイトシールドが大きくひしゃげ、小札からなる馬甲も激しく飛び散る。


「回復を!」

 編隊を救うように団長のヨハンが割り込み、剣を構える。


「うぉぉぉぉぉぉお!」

 構えるヨハンを威圧するようなガラドスクの獣じみた咆哮。

 一振りで五騎の編隊を吹き飛ばす膂力を味方へと見せつてからの咆哮は、唱和へと変わる。


「ありゃ強いですね」


「おうカイル」


「ただのウォーハンマーとも違います」


「おうマイヤ」

 ベルやゲッコーさん達を除いたら、うちのギルドにおける二枚看板。

 青色級ゴルムの認識票を首にぶら下げた強者二人が俺の両脇に立つ。

 伏兵に指示をする為に伏せていたそうだ。

 突撃が始まれば後は編隊からなる兵士の仕事ということで、俺と合流。


 合流したマイヤが言うように、ウォーハンマーはほのかに青白い光を放っていた。    

 ミスリルの粉末でコーティングされた業物だな。


 側にいるコクリコの腰に下がったフライパンよりも弱い輝きだが、コーティングだけでも十分に脅威となるのは目の前の光景で分かる。

 使い手の膂力に十分に応えてくれる得物のようだ。


「ありゃ征北の団長では厳しいかもしれませんね」

 カイルの評価だと、ガラドスクと相対するヨハンは弱くはないが役不足。

 騎士団を指揮する能力に長けつつ人望も有り、個の武も高いというのが団長に求められる才能。

 ヨハンは決して弱くはないが、突出した個の武とタイマンとなると――、


「隊伍を組むことに重きを置く兵士よりも――」


「冒険者ですよね」

 強気の笑みは信頼の証。


「頼めるか」


「会頭に言われて無理ですなんて言ったらギルドの恥さらしですよ。青色級ゴルム返上になってしまいます」

 言いつつ、ガラドスクと良い勝負が出来る体躯が前へと歩む。

 ぎらついた視線は、血の気の多い冒険者特有のものだ。

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