PHASE-982【良いところばかりを俺に回さなくてもいいんだよ】
ガラドスクは視線に気付いたようで、ヨハンを警戒しつつもカイルに睨みを利かせる。
好戦に染まる眼光は互いに共通。
カイルが背負った段平を両手に持てば、
「俺が相手してやるよ」
「中々のやり手のようだな」
「如何に頑丈なハンマーでも俺の大剣の前では無意味。簡単に断ち切れるぜ」
向こうがミスリルコーティングなら、カイルのは火龍の鱗によるコーティングだからな。
「心配無用。魔法も付与されたものだ」
「だから軽々と振り回せるのか」
「否! 付与は強度のみ! 得物はそのものの重さだ。高速の攻撃は我が膂力によるものだ!」
筋肉自慢は自身の力を否定されるのが嫌なご様子。
堂々と歩んでくる強者の登場により、ヨハンから完全にカイルへとターゲットを変更するガラドスク。
ヨハンはその隙を突いて横から仕掛ける――なんてことはせず、負傷者を保護しながら騎士団を指揮し、障壁を展開している傭兵団に攻撃を仕掛けるように指示を出す。
目の前の相手が自分に興味をなくすような素振りを見せても憤慨することなく、矜持を優先せずに柔軟に対応できるからこそ騎士団の長なんだよな。
素晴らしいぞヨハン。
「出来ればトールとやらせたかったんだがな」
「いやいやゲッコーさん。仲間と共に戦い、仲間を信じるのも勇者ですよ」
「戦いたくない言い訳にも聞こえるが、まあいい。お前にはとっておきがいるからな」
ゲッコーさんの発言に合わせたかのように障壁の一部分が開き、そこから金色のエングレーブが目立つフルプレート姿の鉄仮面が現れる。
「魔法での応酬は二対一によりこちらがわずかに劣ったが、ガラドスクが先陣を開き相手の進撃を挫いた。シェザール、お前も続け。本気を出して構わん」
「はっ!」
「各員、相手はたかが六倍程度。一人六殺で終わる簡単な戦いだ。全員、獲物を狩り喰らう獅子となれ」
「「「「おおう!」」」」
気合い入ってんな。
鉄仮面の一言で途端に戦意が高揚している。
絶大な信頼を鉄仮面に持っている証拠だろう。
包囲されているのにまったく恐れを抱いていない。
「一騎当千ってやつか」
チートを除けば個の武には限界がある。
軍勢の士気を常に高い位置で保ちつつ戦える者。
それによって軍勢が二倍、三倍にもいるような錯覚を与えてくる者。
そういった事が出来る者こそが真の一騎当千と呼ばれる者。
間違いなくあの鉄仮面はそれに当てはまる。
現に包囲という有利な立場であり数でも優勢であるのに、こっちの手勢の動きに鈍さが生じている。
それでも馬の脚、自らの足を障壁の砦へと進められるのは、ヨハンの指揮者としての才能の高さと、兵たち自らの練度の高さがあってこそだ。
なのだが――、
「カリオネルとの戦いよりもひりつく戦いだ。トップが有能だと下の連中も有能になるからな」
「その通り、ですがこちらもそういった意味では負けていませんよ」
「嬉しくなることを言ってくれるじゃないか――コクリコ」
俺の事をそういった目で見てくれていたんだな。
――などとは思わない。
次の発言が分かりきっているからな。
「なんといっても、このロードウィザードの庇護下にあるのですからね!」
「オ、ソウダナ」
「片言で言わない!」
俺の小馬鹿発言に抱いた怒りを俺ではなく敵へと向けるのは成長だな。
いや、俺の事じゃないんかい! と、ツッコミを入れなかった俺も成長だな。
怒りをぶつけるために相手へと向かって全力疾走の後衛担当。ここは成長できていない……。
そしてここでも流石はコクリコ。
疾駆により目指すのは、ファイヤーボールの時と同様に鉄仮面。
「まったく――」
「――それは俺が相手をするんだよ――だな」
違いますよゲッコーさん。俺の発言を奪った上に、俺の思考をねじ曲げないでいただきたい。
と、口に出して言い返したいが、どのみち俺が鉄仮面と戦わないといけないのはこの人の中では決定事項。
俺が敵大将と戦う流れも作るんだろうからな。
現にS級さん達は動きもしていない。
包囲には参加しているし、アサルトライフルだって構えている。
中にはLMGであるM249のバイポットを展開し、依託射撃の姿勢で待機している方々もいる。
プロテクションが解除されたら即座に撃てるだけの準備を整えているけど、引き金に食指をかけることは今のところはない。
ただ監視しているだけ。
ここにいる勢力でこのくらいの連中は倒してみせろといったところ。
そんなゲッコーさんの思考が、そのままS級さん達に伝播しているようだった。
流石は絶対的カリスマ指導者のゲーム主人公。
流石は俺が徹夜して集めたアンダー・コーのS級さん達。
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