PHASE-706【王侯貴族に何が起こっているの?】

「フサルクシリーズか」

 と、驚異に対して沈黙の帳が下りようとも、チートさんには関係なしとばかりに、ゲッコーさんが口を開き、命名によって沈黙を破る。

 フサルクシリーズ。いてほしくないシリーズだな……。

 デスベアラークラスがポンポンと出てこられても困るし、もしかしたらそれ以上の奴らが出て来るって可能性もあるからな……。


「ようやく人々の行動範囲が広がりはじめた所までこぎつけたというのにな。まだまだ魔王軍には温存している力があるようだ。それも潤沢な……」


「こちらはギリギリだというのに忌々しいですな」

 王様の嘆息まじりの発言に、悔しそうにナブル将軍が続く。


「だとしても全てを叩きつぶせばよいだけでしょう!」

 突然に開かれた扉から勝ち気な野太い声。

 声の方へと目を向ければ、禿頭がキラリと輝く。


「戻ったかバリタン」


「はっ! 王よ、お待たせいたしました」

 ズカズカと力強く無遠慮な歩みは、武闘派であることを伝えてくる歩みだ。


「おお、おお! 勇者殿!」


「どうも。お久しぶりです」


「さらに精悍な顔つきになられましたな!」

 そうかな? 俺としては日焼けして更に凄みが増した伯爵の方におののいてしまうくらいの圧を感じてしまうよ。


「少数ですが我が領地より千二百の兵を引き連れて戻りました」


「そうか! 感謝する。なにより領地の者達は無事だったようだな」


「ええ。妻が領民を引き連れて、避難所としていた山岳部に逃げ込んでくれてました。戻るのが遅すぎると殴られましたがね」

 殴られたと言うところでバリタン伯爵が皆に見せたのは、平手ではなく――拳……。

 鉄拳制裁だったようだ。

 やはり女性は強いね。


「自分だけではありません。王城庭園にて貴族、豪族の者達も待機させております」

 伯爵が王都に戻る途上で合流したそうだ。

 侯爵が動いたという報が伝わったようで、それに刺激され参加を決めたという。

 ベルの言っていたように、日和見の面々が重い腰を上げて王様の方に寄り添ってきたわけだ。

 随伴する兵の数は多くないようで、貴族達は百ほど。豪族達は二桁規模くらいという。

 最も少ないのは豪族の一人が率いた騎兵二十。

 歩兵と違って騎兵を二十騎も揃えてくれたことに王様は感謝していた。

 後で庭園に移動して感謝を伝えるそうだ。


「おお侯爵殿!」

 王様との再会の挨拶を終え、普段から王城で接していた面々に軽く挨拶をすませた伯爵は、侯爵と両手でしっかりと握手。


「久しいですなバリタン殿」


「相変わらず頭の方が豊かで羨ましい限り」

 自分の頭をペチペチと叩いて冗談。

 侯爵は笑って返している。

 冗談を言えるほどの間柄のようだ。


「自慢のオリハルコン装備ですな!」


「そういう伯爵も――」


「得物は通路の近衛に預けました。二つ名に恥じないとっておきを領地から持参しましたよ」

 伯爵の二つ名は狂乱の双鉄鞭。二つ名の真価を発揮できる得物なんだろうね。

 ――伯爵に随伴した貴族や豪族たちの話題は、侯爵の話だけではない。

 それと同じくらいに、不穏な動きを見せる北の公爵の事も盛んに話されていた。と、バリタン伯爵。

 まあ、貴男が使者の首根っこを掴んで追い出したのが原因の一つになっているのかもよ。とは口には出すまい。


「さて公爵の方はどう動いているのでしょうか? どうせ追い払った時のような虚言を吐いて、兵を山から麓まで動かしていることでしょうな荀彧先生」


「ええ。拠点とは別に即応できるように麓にも待機させているそうです。拠点および、麓とブルホーン山の要塞の総兵力は四万ほど」


「侯爵殿は五千を王都に向かわせていると聞きました」


「ええ」


「侯爵殿の兵が五千。王都の五千。自分の兵に各貴族と豪族を合わせ、勇者殿のギルドの者達が参加してくだされば一万五千までは届くでしょう。驕兵、弱卒の類いなど敵ではありますまい」

 ほうほう、現在、王都の兵数は五千まで増えたか。

 三桁だった以前に比べればかなり増えたな。

 だがそれは相手もだ。

 以前は、二万程の兵がブルホーン山に駐留しているって話だったけど、倍になってんじゃねえか……。

 まじでよ。その兵力があるなら王都に援軍を送って、ちゃんと魔王軍と戦ってほしかったね!


「まだ戦うとは決まってはいないぞ伯爵。話し合いの席をまずは設けないとな」

 俺の侵攻という発言に、まず間違いなくとはを言っていた王様だけど、やる気に漲る伯爵の血気を抑えようとしているのか、冷静に発する。


「お言葉ですが王よ。十中八九、公爵側は仕掛けてくるでしょう。恥を掻かせた私の首を特に欲するでしょうな。そうでしょう荀彧先生」

 と、ここでも先生に問えば、


「そうだと思われます。まあ、欲しければ勝ち取れと言い返せばよいでしょう」

 と、先生は煽っていくスタイル。


「然り、然り! 流石は荀彧先生」

 豪快に笑う伯爵は随分と強気だ。

 元々、伯爵は剛胆な人物だったんだろうけど、王都陥落の危機の時に王城に閉じこもっていた面子の一人だったからね……。


 これはこの王都にいる王侯貴族の全員に言えることだけども――――立ち戻った後の勇敢さはもはや別人だと再会する度に思わされるし、有能に磨きがかかっている。

 本当に、どうしてここまで別人になったんだよ?


 実は偽物でした! って事にはならないよな。

 侯爵みたいに魔族に乗っ取られているって事はないよな? 

 と、思ってしまうくらいに別人なんだよな~。

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