PHASE-703【機運高まる】

 そして――その侵攻準備が疑いから確信へと変わったのが、拠点が完成したと同時に公爵側から使者がやって来たことだった。

 

 使者が語った内容は、王と臣下の方々の失態で無辜の民に多大な犠牲が出たこと。

 これを理由に上げ、公爵にして前王の弟であるランスレン・パーシー・ゼハート名義で、ラスター・フロイツ・コールブランドは王として不適格であるとし、禅譲をするようにと通告してきたそうだ。

 無論、それは却下。

 特にそれを謁見の間で聞いていたバリタン伯爵が大激怒。使者の首根っこを掴んで追い払ってしまったらしい。

 これを理由に侵攻もありえただろうね。血の気が多すぎるのも問題だ。


 運が良いのは、ウルガル平野からは瘴気は晴れたが、それより南にはまだ瘴気が色濃く残っているということで、向こうも大々的に兵を南へと侵攻させる事が出来ないという。

 それでも拠点が出来たことで、そこを橋頭堡には出来るけど。

 現在、王土と公爵領を行き来できる唯一のルートは、平野西にあるライム渓谷。

 そこからの侵攻となると隘路ということもあり、大部隊を展開することは出来ない。


 王土側の渓谷入り口には砦もあり、攻め落とすには時間を要し、相手側の兵糧が尽きれば撤退させることも出来るだろうが、ウルガル平野に兵糧基地を建設されると防衛戦も難しくなり、数で押し負ける可能性もある。

 そうなると一気に公爵軍が王都へと侵攻してくることになるわけだ。


「ここが再び戦火にさらされる可能性があるから、旅商人達の往来がなくなっているんですね」


「その通り。ここに残って協力すると言ってくれる商人達もいたが、気持ちだけを受け取って、トールのギルドに依頼し、安全な町や村に移動してもらった」

 マール街までの護衛が正にそれだったわけだ。


「で、怒りのままに使者を追い払い、向こうの心証を害した伯爵は何処に?」

 現在、謁見の間に禿頭とくとうがいないんだけど。

 それに心の友であるダンブル子爵もいない。


「何人かは私領に戻り、戦える者たちと共に戻ってきてくれる」

 瘴気が晴れ、私領に戻れるルートが出来たからって事らしい。

 瘴気が領地の人々に害をなしていないかが心配なところだろう。

 でも、王様は笑みを崩さない。

 伯爵達は寡兵であろうとも、必ず参じるという心強い言葉を残してくれたからだそうだ。

 あの伯爵は好戦的みたいだからね。何かあるなら前線で戦うだろう。狂乱の双鉄鞭って異名があったくらいだからな。

 味方が駆けつけてくれると思えるだけ、今の王都は恵まれてんだよな。

 俺が転生したばかりの時は、援軍が駆けつけてくれないから崩壊寸前だったんだし。


「伯爵達が王都を出立した日数からすれば、兵を引き連れ王都へと再び戻ってきてくれるのもそろそろのはず。他にも関係を持っているところにも要請を出している」


「頼りになる者達ですか?」

 問えば、


「ああ、頼りになる。それはトールも理解しているだろう」

 疑問符が浮かぶ中で、王様はシャルナへと目を向けた。

 それで何処に要請を出したかは理解できた。


「でも相手の動きがこちらの想像より早ければ、下手したら王都開戦に――――」


「だからこそ避難できる者達は避難させたのだが、王都に元々住んでいる者達や流民達は残ると言い、一緒に戦うとまで言ってくれた」


「民に恵まれましたね」


「暗君である私には宝だ」

 だからこそ無理はさせられない。

 王都を再び戦火にさらすことは出来ないからと、最悪の結果である戦となれば、野戦にて対抗するということだった。

 もし王都が占拠されるという結果になっても、南にある要塞トールハンマーに全員を避難させる手はずも整っているそうだ。

 収穫した作物の半分も要塞の方に既に運び入れているとのこと。


「凄いですね」

 要塞であるトールハンマーは、元々はコボルト達が強制的に掘らされた洞窟でしかなかったが、先生のプランでは洞窟がある山に山城を建て、湿地を利用した防衛と堀に土塁、王都外周のような木壁を築き上げて立派な拠点とするという案だったが、現状、山城は出来てはいないけども、王都の住人を全て受け入れるだけの空間は整っており、防衛として戦い抜けるだけの武具防具も揃っているそうだ。

 

 要塞内にも腕利きのドワーフを中心とした職人達が数十人派遣されており、要塞内には王都に負けないほどの鍛冶場も出来上がっているという。

 湿地を利用した大穀倉地帯構想も順調。

 来年の同じ時期には多くの収穫も望め、要塞周辺だけでも十分に民達が生活できるという。


「本当に凄い」

 俺の名前とギルド名から名付けられた要塞は、南からの魔王軍の進軍に睨みを利かせ、且つ多くの人数を養えるまでになっているのは感動だ。


「何も凄くありません!」

 俺がドーパミン大量放出の多幸感に浸る中、謁見の間を訪れた列の中の一人が吠える。

 ライラだった。

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