PHASE-933【成功も行き過ぎれば失敗だな】

「さ、流石は我が孫」

 王様に続いて口を開く爺様が俺を称えるが、完全に声は裏返っている。

 威風堂々とした姿はそこにはなく、体が縮こまっている中で何とか声を絞り出したといった感じだった。

 

「ベルも言ってたが、追い込みが過ぎたな」

 と、ゲッコーさんは苦笑い。

 うん。ちょっと調子に乗っちゃったかな……。

 企画立案をする時って、楽しくなって段々とテンションが上がるからな。

 参加したメンバーは全員ノリノリだったしね……。

 計画立てる時にいいブレーキ役がいなかったがために、結果は観覧者をドン引きにさせるという状況……。

 ベルをメンバーに入れていれば良かったかもと今になって思う。


「え~コホン」

 先生が嘘くさい咳を一つ打ち、チラリと荀攸さんを見る。


「あ、ああ。そうですね。こ、これが我らが新公爵であり勇者トールの力でございます。皆様もこの力の元に集結し、魔王軍を倒すためのお力をお貸し頂きたい」

 言い終えて荀攸さんが典雅に一礼。

 続いて諸侯たちが弱々しく一礼にて返してくる。

 で、起こした体から俺に向けてくる視線は――、恐れ一色。


 内心では、これだけのことが出来るのなら、自分たちだけでいいのでは? 我々の力など不要だろう。と、思っていることだろうね。


「皆さん一緒に魔王軍からこの大地を守りましょう!」

 内心でそう思うっているかもしれないけども、俺はあえて皆でと伝える。


「お、おお……」

 弱い声にて応じてくれば、「「「「おお……」」」」と、弱々しい輪唱。

 邪な反骨心を挫くという意味では大成功なんだろうけど、明らかに気概まで挫いてしまったな……。


「皆様。今後のミルド領における公爵の下知には可能な限り協力を」

 柔和な笑みで先生も述べれば、ここでも弱々しく頷くだけ。

 

 ――――ぬう。


「やり過ぎたとは思うが、まさかここまで恐れるなんてな」


「メンタルが弱いですね。この程度の火砲で」


「全くだ」

 ノリノリで実行していた立場であるゲッコーさんとS級さん達は、諸侯たちの気弱さに情けなさを感じている。

 俺もそうは思いたいが、こっちサイドの王様や爺様までドン引きだったからな。

 やはり精神世界アストラルサイドをオーバーキルする勢いでやっては駄目だな。余計な所も呑まれてしまう。


 ――デモンストレーションにより完全に俺に対して恐れだけを抱いてしまった諸侯たちを落ち着かせる為に、再びメイドさん達が活躍。

 接待をして和ませてくれることに励んでくれる。


「はあ……」

 大きく溜息を漏らす。

 失敗した……。


「そこまで深く考えないでください。今は不安に支配されているだけです。もしあの砲火が自分たちに向けられたなら。と、心中穏やかではないのです」

 と、先生。

 カリオネルを討伐。そのカリオネルと懇意にしていた者たちがこの中にはいるだろう。

 男爵のようにカリオネルが御しやすかったからという理由がほとんどだろうけど。


 だが今回はカリオネルのような対応は出来ないのが目の前の存在。つまりは俺。

 あの馬鹿と比べれば、俺は御しがたいうえにおっかないという印象になっているだろう。

 御せないと判断して、素直に協力する道を選択してくれると信じたい。

 

 先生が言うように今はまだ恐怖に支配されているだろうからな。冷静さを取り戻すための時間は必要。

 それが正に今。

 

 なので俺は諸侯に対面する位置でゆったりと椅子に座り、次にどう動くかを待つことに徹する。


 メイドさん達から飲み物をもらい、平静を取り戻すためなのか呷るように飲んでいる。

 そこに貴族としての気品さは皆無だった。

 男性陣だけでなく令嬢たちも冷たい飲み物を勢いよく飲んで落ち着こうとしている。

 恐怖に支配されているだろうが、酔うのは駄目というのはしっかりと判断出来ているようで、ビールを選択することはなく、オレンジジュースやコーラを飲んでいる。

 炭酸の刺激を気付けとしたいようでコーラが人気だ。


「ふぅ……」

 俺の側でも爺様が同様にコーラを飲んでいた。

 齢七十とは思えない、勢いのある一気飲みを見せてくれる。


 しかし――だ。まさかこっちサイドまでここまで恐怖に呑まれるなんてな……。

 ここに来る前の屋敷の中庭では、爺様も俺達と一緒になって悪い笑みを湛えていた仲間だったのに。

 演習内容が自分の想像の埒外も埒外だったようだな。

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