PHASE-420【本当に多芸だ】

 にしても、


「実力がある割には、回りくどい支配を目指しているな」


「まったくだ」

 あら、まさかの肯定だよ。

 となれば、この侵攻方法は別の誰かの案なんだな。

 プライドが高くて筆頭の腹心とか言ってる時点で、自分と同等の存在の声には耳を貸すことはないだろう。

 となれば――――、


「発案者はお前のとこのトップのようだな」

 ――…………。


「沈黙は肯定って事でいいよな」

 翼幻王ジズはなんでこんな回りくどい方法をとるんだろうな?

 侯爵の体を乗っ取った時点で、もっとど派手にいけそうだよな。

 魔王軍も派閥が違えば攻撃スタイルも違うのかな?

 蹂躙王ベヘモトの軍勢は、如何にも力任せの連中って感じだったけど。


「勇者の言は正しい」

 口を開けば、称賛だ。

 極東であるこの地をさっさと奪い去り、この地点より魔王軍の侵攻を企てれば、この大陸は容易に落とせるはずなのにそれをしないと吐露。


「だというのに、このような役立たず共を試験的に使ってみろと言われて、結果、この様だ」

 と、ランシェルちゃん達を侮蔑の目で見れば、連動するようにメイドさん達が肩を震わせる。

 それを見て肩を竦めて、侮蔑から嘲笑へと変わるゼノ。

 

 ――――自分のこれまでの輝かしい経歴を長々と語ってくれる。

 こちらに隙をあたえても勝てるという自負があるからだろう。

 この地においての侵攻を任されるまでになったというのに、メイド達の失態で、自身の栄光に汚点がつきそうだと苛立ちを隠せない。


「甘い時間を過ごさせ、贅を知り、姫の事も忘れさせ、ジワジワと心を浸食したところで、傀儡とするつもりであったが――――」


「喋々と馬鹿みたいに喋ってくれるな」


「朝の目覚めはきつかっただろうが、その分いい思いはしただろう」

 白蝋の肌のイケメンが、いやらしい笑みを見せてくる。

 その笑みを俺は素直に直視できない。

 いい思いってのは、つまりは夢の事をコイツは言っている。

 これだけの魔法を使用出来るんだ。


「お前が俺に干渉したのか?」

 ランシェルちゃんが部屋の前に待機していたとゲッコーさんは言っていたけど、こいつの可能性もある。


「なぜ私がそんな面倒な事を」

 ――ああ、よかった。あの夢が男に見せられていたと思うと、最悪の気分に襲われていただろう。

 ショックで立ち直れなくなるね。

 こいつじゃないとなれば、やっぱり――――。

 ランシェルちゃんを見る。今は回復して、他のメイドさん達と一緒に壁に沿って静かに立っている。

 俺と目が合えば、ランシェルちゃんは力なく顔を伏せた。

 傀儡にすると、執務室の外で盗み聞きはしたが、実際、誰が実行したのか確証は得られていなかった。

 伏せる動作で十中八九ランシェルちゃんだな。


「正解だ。まあ、取り押さえられた時点で分かって当然か」

 俺の視線がメイドさん達に向けられた事で、ゼノは俺に夢を見せていた正体がランシェルちゃんだと述べる。

 良くはないが、本当に良かった。夢を見せてくれたのが可愛い女の子で。

 まあ、それはいいとして――――、


「話の経緯からすると、メイドさん達はお前の直接の部下じゃないみたいだな」

 反故にするとか言ってたし。戦いを強要させてたし。試験的とも言っていたな。


「当然だ。こんな弱者共。部下など私の力だけで容易に準備できるが、翼幻王ジズ様からの直々の命であるからな。甚だ不本意だが使用してやっている」

 てことは、やっぱりメイドさん達は無理矢理に利用されているわけだな。

 安堵する。これ以上、戦わなくていい可能性が高くなったからな。

 ま、絶対とは言えないけど。


「そうだな――折角だから試験結果も見てもらおう」

 フィンガースナップをまたも行う。


「ま、時間がかかるだろうが」

 なんのこっちゃと思いたいが、思わせてはくれない。


「待っている間、相手をしてやろう」

 言えば、ゼノは腰を落として構える。

 体幹をよく鍛えているのは見るだけで分かる。感心してしまうほどだ。

 

 どっしりとした姿勢は、押しても絶対に動かない、巨石のようなイメージを与えてくる。

 体には黒いオーラを纏い始める。

 手にする真紅の剣を自らの拳で握り折り、拳は握ったままの状態を維持。

 構えからして、コクリコのような徒手空拳。


「多芸だな」


「闇の念拳という」


「おお!」

 横ではコクリコが琴線に触れたようだ。

 闇とかってつくと、それだけで中二臭くなるもんな。ダークサイドが好きだものな。

 ――――念拳。ピリアにより闘気を我が身に纏わせ、気功的なものによる攻撃方法だろう。


「て、それってモンクじゃねえか!」


「ああ、モンクの技も使える」


「ヴァンパイアだろうが!」

 アンデッドがモンクとか! 天敵の技を使用するんじゃないよ!


「天敵だからこそ、それを理解する為のものだ」


「高慢ちきなくせに勤勉なヤツだ」

 自信家で努力家とか、主人公のライバルポジじゃねえか!

 まあこの場で倒して、絶対にライバルの位置に立たせる事はしないけどな!

 そもそも、女の子を苦しめるようなヤツをライバルポジには居座らせない。

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