異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』
FOX4
死因は蝉でした……
PHASE-01【死神は美人でしたが、嫌な奴でした】
笑われている……。笑われているよ。
現在、夢の中で笑われている。
見渡す限り真っ暗な場所で、俺の眼界では、淡い光に照らされて、銀髪、銀眼で、暗闇に負けないくらいの漆黒のローブを纏った美人が大笑いしている。
フードは被っているけど、美人だというのは理解できる。
多分だけど、死神だと思う。魔女が箒に腰かけているように、大鎌の柄に腰をかけて宙に浮き、腹を抱えて笑っている。抱腹絶倒とは正にこの事だろう。
「アハハハハハ――――ヒーヒー、フフフフ――プークス」
後半に進むにつれて、笑い方が完全に嘲りなものになってる!
「で、この夢なんなの?」
妙なんだよな。夢にしては鮮明な状況だし、朝起きて記憶に残っている夢もあるけど、大抵は断片的なもの。
だけど、この夢ははっきりとしている。
「いや、クスクス――――夢じゃないから」
話しかけてきたよ。しかも夢じゃないとか否定してくるぞ。
「いつまでも立たせているのも悪いわね」
パチンと死神っぽいのがフィンガースナップ。
一瞬にして周囲に柱が現れた。見上げれば天井もある。
白亜な造りだ。
古代ギリシアのパルテノン神殿みたいな建造物。
違うとすれば、歴史の教科書やテレビで見るような建造物と違って、歴史の重みを感じさせない。
風化している場所もなく、建築されたばかりのようだ。
「どうぞ座って」
言われると、俺の前方に一人用のソファーが現れる。
とりあえず腰かける。
これはいい座り心地だ。俺の部屋のディスプレイ前に置きたい一品のソファーだな。
「単刀直入だけど。残念だけど君――――、死んでるから」
「は?」
座って早々に、人の夢の中で何をニヤニヤしながら、不適切な発言をしてくれちゃってるのか。
「だから夢じゃないわよ。現実。後、君が思っているように私は死神ね。名前はセラといいます~」
この人、俺が心で考えていることを読み取ってる? ――――まあ、夢だからどうとでもなるか。
「いやだから、君さ~思い出してよ。ここに来る前のこと」
ここに来る前? う~ん……。
期末を終えて、早く来い来いと願っていた念願の夏休みを全力で楽しんでいたよ。
一応は部活もやってるけど、うちの剣道部は、七月の終わり頃からお盆休みに入るという、やる気のなさが素敵な部なんだよ。
自由な時間を謳歌して、頭に熱冷ましのシートを貼り付けて、徹夜でゲーム三昧の廃人一歩手前まで行ってたな。
で、木曜日に発売される携帯ゲーム機・プレイギア専用の新作ソフトを手に入れるために徹夜のまま、朝十時の開店に合わせるように店まで行って、誰よりも早くゲット。
これが都会なら、行列も出来てるんだろうけど、田舎だとそれがあまりないから助かる。
でも、朝からすでに三十度を超えた真夏日の中を徹夜の体で店まで移動したのは辛いものだった……。
辛くはあったけど、手に入れたソフトは、俺にとってこの夏一番の物だったから、喜びも
いてもたってもいられない俺は、持参したプレイギアにソフトを入れてインストールしつつ、限定特典のキャラクター設定集に目を通しながら帰路についていた。
その道すがら、俺は蝉の死骸を見つけた。
行きにはなかったから、俺が店に行っている間に、道路の端っこで息絶えたんだろう。
別に田舎だと珍しい光景でもないからスルーしてもよかったんだけど、なにげに覗き込んだ。
するとその蝉は死骸じゃなく、生きていた。
俺の足音に驚いたのか、いきなり飛んで俺の方に向かってきた。
休みになってからの不摂生に徹夜、加えて真夏日の炎天下。
俺の足腰は、俺が思っている以上に弱っていたようで、蝉を躱すように弓なりになりながら倒れた……。
――…………あれ!? そこからの記憶がないぞ。どうなったんだっけ?
「記憶がないのは当然よ。だって……フッ、あ、貴男プス……。その蝉が原因で死んだ……ハハハハ――――! ないわ~。蝉に驚いて、転んで死ぬとか! 後頭部を縁石にぶつけて死んじゃうとか、どんだけ不運なのよ」
あ~なんだろうか。 十六年の人生において、こんなにも怒りを覚えることが未だかつてあっただろうか?
否! 断じて否!! くっそ! 美人で、ローブ越しからでも分かるくらいに隆起した巨乳の持ち主だからって、調子に乗って馬鹿笑いしやがって!
「胸に興味があるのは年相応」
「な!?」
本当に心を読まれているようだな。
「私、神だから。君の場合は心を読まなくても分かっちゃうけどね。その熱視線で」
うぬ……。しかし、これが百歩譲って夢じゃないとしても。死因が蝉となると、笑われてもしかたないのか。
愚直に笑いを追及しているリアクション芸人が目指したい、最後みたいだもんな……。
「信じてもらえるように――――、コレ見て」
死神がフィンガースナップを行えば、俺の前に五十インチサイズのディスプレイが現れる。
そこに映し出された光景は――――、
「ん? んん!? あれは――――、俺ぇ!?」
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