PHASE-678【作り手って分かってた】

「リン! もういいぞ。どうせ見てんだろうが。隠れてないでこのミストドラゴンを落ち着かせろ」

 身を潜めて、俺たちがどこまで出来るかを見定めようともしたんだろうが、初手の幻術以外は勝負にならない。

 それとも、俺たちが発言どおり命を奪わないという約束を誓うかの確認をする為でもあるのかな?

 何にせよ――、


「早く出てこないと、そんな事は一切無かったけども、ダンジョン内にて素行の悪さが目立ったという嘘をベルに言うぞ。反骨の相ありって嘘を言うぞ」


「それは違うんじゃないかしら!」

 ほらいた。


「いや、嘘じゃないな。のぞき見という悪趣味をベルに伝えよう。ベルは怒ると怖いぞ」


「はいはい……。もう大丈夫よイルマイユ」


「お姉ちゃん」

 お姉ちゃんはリンの事か。そして、ミストドラゴンの名前はイルマイユってんだな。

 このダンジョン。俺の予想通りなら、


「このミストドラゴンを守るための砦か」


「まあそんなところよ」

 ダンジョンだからアンデッドは当たり前にいるとは思っていたけど、強力なアンデッドの存在は偶発的なものではないだろう。

 ミストドラゴンを守護するように十二階にいたディザスターナイトは、リンが召喚した存在と考えるのが妥当。

 他にもツッコミどころがあったしな。


「なにがこのダンジョンの攻略経験があるだよ。このダンジョンの作り手だろうが」


「お察しの通りよ」


「なんで攻略するような作りなんだよ。このドラゴンを守りたいなら、別に冒険者の心をくすぐるようなダンジョンを作らなくてもいいだろうに」


「このダンジョンに挑んでいいのは、私が認めた存在だけ。それ以外はそもそもここにダンジョンがあること自体、知らないわけだし。教えることもない」

 ログハウスの地下が広大なダンジョンに繋がる。

 確かに冒険者も情報がないと分からないだろうが。


「でも絶対はないぞ。もし冒険者が来てたらどうしたんだ?」


「まずここがばれる事はないでしょうけど、もし踏み入る者がいたなら、コリンズが撃退するわよ」

 コリンズってこのログハウスのリッチか。


「強いのは何となく雰囲気で理解したけど、かなりの使い手なのか?」


「ええ、貴方たちが戦ったディザスターナイトを同時に十体くらい相手にしても勝てるくらいには強いわよ」


「…………メチャクチャ強えじゃねえか……」


「当然よ。リッチなのだから」

 リッチ。作品なんかだとエルダーを冠したりもするけど、リッチという名自体が、アンデッドに置いて最上位の魔道師でもあるからな。

 それを使役するリンは、リッチの頭にアルトラを冠するわけだけど。

 俺たちがリンの地下施設で戦ったリッチよりは断然強いとは思っていたが、それほどとはね。

 レベル64を十体相手に出来る時点で強者だな。

 火龍装備だとしても、俺一人で勝てるかってなると難しいだろう。

 というか無理かな……。

 いや、良い勝負はすると思いたい。

 俺個人の実力でティンダーだけでなく、ウォーターカーテンも習得できたしな。 

 といっても、相手は大魔法をお手軽にポンポンと唱えてくるかもしれないけど……。


「それにしても驚いたわね。まさかスプリームフォールを詠唱破棄スペルキャンセルでポンポンだせるなんて。貴男、本気になればかなりの強さなんじゃないの」

 まあ、俺個人の実力で習得したわけじゃないけど、俺もポンポン大魔法を出せる人だった。


「強者っていう見立てだっただろ」


「私の考えよりもってこと」

 個人の実力では、低位魔法が二つだからな。

 しかもこのダンジョンで習得した、出来たてほやほやな魔法。

 見誤っても仕方がない。


「でもここで習得したのが低位二つって何なのよ?」

 二の句にて継がれる疑問。


「まあアレだから。規格外って言われているから。覚える順序がメチャクチャって事にしといて」

 普通に嘘をつく。規格外って言葉は、普通な俺からしたら対極の言葉だからな。


「本当にメチャクチャね。未知の物を召喚するし」

 一応、信じてもらえたのは、召喚能力のおかげだな。


「お姉ちゃん」


「ああ、ごめんなさい」

 リンと二人で話し込んでしまい、ミストドラゴンの事を放置してしまっていた。

 置き去りにされて不安になっているのか、プルプルと震えてリンの後ろに隠れる。

 馬並みのデカい図体をリンの体で隠すことは出来ないぞ。

 そういう仕草は弱々しくて可憐な女の子じゃないとな。

 ドラゴンがそんな事をしても、俺の庇護欲をかき立てる事は出来ない。

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