PHASE-133【黒い人みたいなのが、あらわれた】

 ――――封じられているというのが見て分かる。

 

 ドラゴンを八方から取り囲むように、黒い六面体のクリスタルが宙に浮いている。

 

 そこから黒くうねうねした大蛇のような線が、ドラゴンの体に絡みついている。

 肝心のドラゴンは、死んでいるのか? と思うほどに、ピクリとも動かない。

 

 目をこらせば、かすかに腹部が動いているから呼吸はしている。

 眠っているのかな?


「セオリーとしては、あの黒いクリスタルを壊せばいいよね」


「だろうが――――」

 ゲッコーさんが付け足したいようだ。


「壊したら罠が作動する――でしょ?」

 と、返せば、


「ああ」

 と、首肯だ。


 ゲームなんかだとよく有る展開だからな。


「クリスタルもだが、あれもだろう」

 今度は最後まで発言してもらう。

 

 ゲッコーさんが指をさすのはドラゴンの額部分。

 

 周囲を取り囲むクリスタルよりもどす黒い、楕円のクリスタルが埋め込まれていた。

 なんとも分かりやすいウィークポイントである。


「では、破壊しよう」

 ここぞとばかりにベルは炎を纏う。

 先ほどまではあまり使用しなかったが、ここでは全開のようだ。

 

 炎が、八方のクリスタルの一つを呑み込む。

 一瞬にして塵芥だ。

 

 マレンティに使用したものとは段違いの威力。

 やはりベルの炎は無敵だね。


「ん?」

 破壊と同時にベルの柳眉が上がる。

 

 継いで――、


「備えろ」

 と、言う。

 予想どおりのトラップが発動したようだ。

 

 蒸発したクリスタル以外の、七つのクリスタルに変化が見られる。


 六面体のそれは、人型へと姿を変えていく。

 

 ――――眼鏡と蝶ネクタイがトレードマークの、少年探偵に出て来る犯人みたいな風体だ。


「たぶん強いぞ。下手したら、さっきのマレンティよりな」


「ならば大したことない」

 ――……ベルにとってはそうだろうさ。

 でも、俺は命がけでマレンティと戦ったんだけどな……。

 

 基本トラップモンスターは強いのが相場である。


「小手調べだ」

 マズルフラッシュが小気味よく煌めく。

 

 指で切っていく二点バーストのMASADA。


「ギュイ!」

 着弾すればあきらかに痛みを覚える声を上げた。


「効果はあるが、決定打にはならないか」

 冷静に分析。

 

 当たれば動きは止まるが、その後すぐにこちらに向かって動き出す。

 

 こいつらを倒すには、オーバーキルの火力が必要だな。


「はっ」

 続いてベルが、レイピアを下段から斬り上げる。

 炎の波が地を這い、一直線に向かっていく。

 

 一体に直撃すれば、瞬時に塵となるかと思ったが、


「なるほど、この程度だと倒すのに時間を要するか」

 ゲッコーさんみたいに小手調べだったようで、弱めの炎で攻撃したようだ。

 

 黒いのは、炎に包まれながらもこちらに歩いてくる。

 

 ――歩むが、炎のスリップダメージによって、体から黒い霧を上げていく。

 

 霧が上がれば、質量を失うかのように、体が徐々に小さくなり消滅。


「なるほど」

 無敵というわけじゃないんだな。

 ダメージを与えた分だけ、人型から削り取られるわけだ。


「おう!?」

 油断は出来ない。

 出現した時はゆったりとした動きだったが、時間が経過すると、動きが俊敏になりはじめた。

 

 霧の体は自在に変化するようで、腕が剣を象り、鋭利になる。

 

 それを気にしつつも斬っていくが、こいつらは、「ギュイ!」って感じで痛がる声は上げるが、斬られた程度では怯まず、攻撃を仕掛けてくる。

 

 こっちは一度斬られるだけで致命傷なのに、相対する方を倒すには、塵になるまで斬り続けないといけない。

 正直、面倒くさい。

 

 ベルの炎がやはり頼みか。

 

 だが、ベルの様子がおかしい。

 明らかに炎を出し渋っている。

 

 ゴブリンやオークを相手にしていた時は、凄い勢いで出してたのに。

 これ以上の罠があるとみて、温存しているのだろうか?


 自分で思ってなんだが、温存ってのは例えとして合っているのかな?

 ベルにそんな弱点があるとは思えないんだが。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る