PHASE-1212【普通に戦えば難敵だったんだな~】

「首肯という動作からして、分かってくれたようですね。私も確かに欲深なところがありました。本来は青色級ゴルムを所望――いえ、妥当でしょうが、ここは二階級昇進での赤色級ジェラグで我慢しましょう」

 お、ここで最高位の紫色級コルクラと言わなかったのは成長だな。

 少しは謙虚さを覚えたな。俺は嬉しいぞ。


「うん――コクリコの言や良し」


「おお! では!」


「てことで――黄色級ブィで」


「おいぃぃぃぃぃぃぃい! 聞いてましたか私の台詞! トールの耳には何か詰まってんですかね! それとも頭に何も詰まってないんですかね!」


「発言は素晴らしかった。でも俺はちゃんと真っ当な評価をする男だ。それに俺が間違っていたとしても問題ない」


「なぜです?」


「なぜって――簡単な話だ。位階を決めるのは先生と、その先生の信を得ている面子がちゃんと判断して決めるからな」


「ならば私の評価をトールが推薦を――」


「ハッハッハ――ッ! 馬鹿を言うなよ。コクリコはギルドの会頭であり、ミルド領公爵である勇者な俺のパーティーなんだぞ。常に他のメンバーや人々の手本になるべき存在だ。だからこそ誰よりも厳しい見立てになる。ずっと言っているけど一歩一歩が大事だぞ。それにコクリコがコツコツと力を付けてるのもちゃんと理解しているからな。理解しているって事は信用もしているって事だ。なので俺と一緒にコツコツとやっていくぞ。でないとマジでやばい状況に陥った時、表面だけを着飾っただけの権威じゃ対応が出来なくなる時が必ず来るぞ。しっかりと成長していないと――死ぬぜ。エルフの国での経験者が語るってヤツだ。説得力あるだろう」

 喋々と話してしまう。

 コレは自分自身にもしっかりと戒めとして言い聞かせているってところもある。

 耳打ちだけのやり取りだったが、つい声が大きくなってしまったようで、新人さん達が俺の発言に耳を傾けていた。

 勇者でも地道に鍛えているんだという事が新人さん達にとっては励みになったようで、発言に対して感銘を受けてくれたようだ。

 そんな新人さん達の衆目をダイフクの上で受けるのは当然ながら俺だけではない。


「ぐぬぬぬ……」

 と、コクリコが唸りを上げる。

 納得がいかないようだが、新人さん達の模範ともならなければならないという思いも芽生えたようだ。

 ここでコクリコの視線がリンへと移る。

 その視線を感じ取ったリンは笑みを湛えて首にぶら下がった紫色級コルクラの認識票を見せてくる。


 正規のパーティーメンバーだと新参になる存在が最高位階の認識票だというのに! ――などと言うかと思ったが、そこはコクリコも立派に成長をしているのでリンの実力はしっかりと把握。

 今の自分と比べることで判断し、尚且つ芽生えた模範的な立場という思い――があれば俺としては嬉しいのだが――。


「いいでしょう。今回は黄色級ブィで我慢しますよ」

 はたして正に芽生えたご様子。

 これまた嬉しい限りである。


「ですが――」

 元気よくダイフクから跳躍すれば――再び馬車の上に立つ。

 もう少し、まな板から控えめに成長した柔らかさを堪能したかったな~。


「私は普通は嫌いなのです」

 邪な考えをしている中でコクリコは俺を見下ろしつつ言ってくる。


「分かっていますともさ」

 そこはのんであげましょう。


「ギムロン」

 御者を担当してくれているドワーフの名をコクリコが口にすれば、


「差別化したいんじゃろ」


「その通りです!」

 名前などが刻まれた部分はしっかりと特別仕様にしてもらいたいとの事だ。

 この辺がブレないのはコクリコだ。

 まあ勇者のパーティーだから少しくらいは違いがあってもいいだろう。

 

 御者台と屋根の上からの会話は大きいもの。新人さん達がいようとも関係ないとばかりに憚ることなくやり取りが行われる。

 ――白色級バーンの時のように彫金部分を金色文字で施せば黄色級ブィだと目立たないだろうと考えるコクリコに対し、ギムロンはシンプルに黒でいいだろうと提案。


「では最高の黒色を使用してください。一般的な認識票に使用される黒では駄目ですからね」


「よしきた! ならレッサークラーケンの墨を使おう。あれは最高の黒だ。艶のある光沢は目を引くぞ」


「出来ればレッサーではなく通常のクラーケンがよいのですが」


「無茶を言うな! クラーケン討伐となれば軍隊を派遣するレベルだぞ。ワシらのギルドでとなると、赤色級ジェラグクラスが最低でも三十人は参加せんと難しい相手だ」

 そんなに凄いんだなクラーケンって。

 でもそんなに凄い大型モンスターを以前、瞬殺した人がいたな~。

 JLTVの助手席に座っている美人様だけども。

 二人のクラーケンの話を耳にすればあの時のヌメヌメを思い出したのか、当人の表情が曇る。

 まあ、あのヌメヌメのシーンは俺にとってはクッソエロかったけども。

 プレイギアに録画しているからね。

 時間がある時はしっかりと見ないとね! だって男だからね!


「まあレッサーでもいいでしょう」


「レッサーと馬鹿にするけども高級塗料だからな。当然だが値は張るぞ。特注だからの。ギルドからの支給という扱いは通用せんのは今かけているのと同じだからの」

 あ、今の個人情報のところの金色塗りも別料金がしっかりと発生してたのね……。


「構いません。私はそこそこの貯えを持っていますからね。こだわりに妥協はしませんよ」

 リンが作ったダンジョンでの稼ぎがあるから金の心配は一切無いといったところか。

 ――費用を耳にすれば問題なしとばかりに、無い――控えめな胸を反らしていた。


「よっしゃ! じゃあ作っちゃるわ!」


「では早速! トール、私達は先にギルドハウスに戻らせてもらいますよ」


「おう」

 王様への挨拶は勇者一人いれば問題ないでしょうと言い残せば、逸る気持ちを抑えきれないコクリコは、ギムロンが手綱を引く馬車でギルドハウスへと戻る。

 ギムロンもギムロンでかたっ苦しい挨拶が回避できてラッキーと思ってんだろうな。

 まあいいけど。


「さて――本来なら揃って挨拶をするのが王様に対する礼儀なんでしょうけども」

 申し訳なさそうに先生に発せば、


「お気になさらず。主と王の関係からすれば不遜にすらなりません。そもそもが格式張った挨拶は王も嫌いですからね。本来なら出迎えに行きたかったそうですが、本日は人手が足りないということで稼穡かしょくに励んでおられましてね。出迎えることが出来ずに申し訳ないということでした」


「カショク――ですか?」


「種まきと収穫をしているという事だ」

 ここでゲッコーさん。

 寒い時期だってのに種まきと収穫?

 大体は農閑期っていうんじゃないのこの時期って?


「冬野菜の栽培も大事なのです。王都も住人が増加していますからね。食料の生産は常に行わないといけません」

 スケルトン達だけでは流石にカバー出来ないほどに人口が増加しているそうで、現在の王都では食料生産に注力しているという。

 北門と木壁の間でも春に備えて田畑を耕していたからな。

 先生の言ってる事は非常に分かるんだが、その稼穡ってのは王様がやることなんすかね?

 まあいい。あの人は今に始まったことじゃないからな。


「こちらから赴きましょう。で、どこで稼穡ってのを?」


「南門防御壁の外です」

 南――か。

 もしこの王都に魔王軍が攻めてくると想定するなら南がメインとなる。

 以前も西と南からの侵攻だったし。

 デミタスのこともあるからね。魔王軍による少数での潜入ってのもなくはない。 

 だから狙われるようなリスクのある行動はとってほしくないんだけどな。

 まあ、先生やS級さんがこの王都で目を光らせている限り、潜入の心配はないのだろうけど。


 いくら人手不足だからって、種まきに励まないで王城で政治に励んでほしいってのが本音だけどね……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る