PHASE-1213【増強は良き】
「よし、じゃあ残りは俺と一緒に南門から外へと行くか」
「いいよ」
と、シャルナは二つ返事。
ならばとゲッコーさんも続く。
「私はいい」
リンは不参加か。
理由は暑苦しいのが嫌だからって事らしい。
実際、暑苦しいのは本当だからな。
太祖時代の英雄であるリンに対して、王侯貴族のテンションは凄いからな。
あのテンションで近寄られると、普段の上から目線が途端に恥ずかしがり屋になるというのは見ていておもしろかったりもするんだけどね。
「ちょっと」
クイクイと食指を曲げて俺を呼ぶリン。
素直に従い、
「なに?」
「コリンズの護衛の結果もちゃんと聞きたいでしょうから後で――」
「だな」
リッチのコリンズさんやスケルトンルイン達が、昼夜を問わずにゴロ太を護衛してくれているからね。
ゴロ太やその周囲で異変が起こっていないかを聞かないとな。
カイメラは明らかにゴロ太に関心を持っているみたいだし。
俺たちが帰ってきて直ぐにそういった報告が入ってこないって事は、問題はなかったと考えてもいいだろうけど。
上位のアンデッド達だけでなく、この王都ではS級さんたちが目を光らせている。
ギルドメンバーもいればリズベッドの側仕えであるサキュバスメイドさん達にランシェルもいる。
でもってガルム氏たちヴィルコラクの面々もいれば、アルスン翁もいるからな。
王都でなにか異変が起これば、直ぐさま鎮圧できるだけの力を有した者たちばかりだ。
王都は安全。つまりはゴロ太の周囲も万全。
あ、そうだ。
アルスン翁で思い出したけど、翁にはエリシュタルトのゴブリン達の鍛錬をお願いしにも行かないとな。
後は――、
「ベルは?」
「私も出来れば別様に――」
「うん。別様が何かはすでに分かってる」
「うぅん……」
あら可愛い。
「王都に到着する前からそわそわしていたからな。さっさとゴロ太のところに行ってあげなよ。コリンズさん達が飛んでこないって事は問題なく過ごしているって事だろうしな。早く会ってあげればいいよ」
「素早くも素晴らしい判断をしてくれるではないか。トール」
なんて嬉しそうな笑顔なんでしょう。
やはりゴロ太を出しにすれば俺に対するベルの好感度がグングンと上がるようだな。
ゴロ太を利用したというのがバレた後のリスキーさを考えれば、実行はしないほうがいいという考えが直ぐさま思い浮かぶ俺はクレバーですよ。
マヨネーズ容器体型に早く会いたいという欲求が爆発しそうなところで俺がゴーサインを出せば、既に抱っこしているミユキだけでも抑える事の出来なくなったモフモフ欲求を解消するために、ベルはJLTVから飛び出すと、とんでもない移動速度でギルドハウスの近くに立てているモフモフ執事のいるお店(仮)へと向かっていった。
「うん……」
好感度が上がるのは嬉しいが、その愛情を少しでも俺に分けてくれてもいいのにな……。って侘しさにも包まれるってもんだ……。
最強超人も愛玩生物の前ではただの乙女よな~。
「コリンズ殿から話は聞いております。こちらは問題ないので安心してください。詳しくはご本人と会ってからで良いでしょう」
「ですね」
リンと同じ意見の先生の顔は若干だけど引きつっていた。
「ゴロ太殿になにも無くて良かったですよ」
「でしょうね……。なにかあろうものなら、この世界にて魔王と対を成すであろう存在として、破壊神が爆誕しますからね……」
「まったく怖いなんてものじゃないわよ」
「まったくだ」
先生だけでなく、俺の発言を耳にするリンとゲッコーさんもその恐怖を想像したのか、二人揃って両腕をさすっていた。
まだコリンズさんからしっかりと報告は受けていないけども――、現状ゴロ太にはなんの脅威も迫っていない。
これだけが知れただけでも良かったというもの。
破壊神爆誕のトリガーになりえる存在だからな。ゴロ太……。
「話題を変えましょう」
と、南側へと移動する中で先生。
継いで――、
「新たにギルドに加入した者達も素晴らしい人材ばかりです。先ほど集まった者たち以外でも今現在、多方面にてクエストをこなしてくれています」
ギルドが大所帯になればそれだけ身元が明らかじゃない者達も出てくるけども、それらをしっかりと選別するのが適材適所の神様である荀文若大先生。
実際、俺たちが王都から離れている間に加入した者達は大きな活躍をしてくれているという。
瘴気で自我を失い凶暴化している人々を救出したり、現状、魔王軍の脅威は少ないものの、王土の中でも兵たちの手が届かない地域では賊が跋扈し治安が悪い。
それに対し派遣されたメンバー達がしっかりと賊討伐をこなしてくれており、大きな活躍にて名を一帯に轟かせる者達も出てきているそうだ。
うん……。活躍の話を耳すれば何とも嬉しくもあるのだが……。
大所帯となると……ね。
今は目の前の事に懸命になっていても、後々、功績から増上慢となって性格が変わるという者も出てくるかもしれない。
如何に先生であっても、有能な人材の未来の歩みまでは流石に見通せないからな……。
その証拠として――、
「たしか司馬懿って先生が推挙したんでしたよね?」
「仲達君ですね。同年の季珪殿が推薦し、私も有能と判断して推しました」
「キケイ――殿?」
「主には
――……分からないですね~。
崔琰って誰? 三国志の人物だというのは分かるけども。
同年って言うって事は、先生とタメ年ってことなんだろう。
ぶっちゃけると名士や文官系はマイナーになると、マイナー武将以上に知らないからね。
崔琰なる人物のことはさておき。
この世界において、先生が推挙した有能さんから司馬懿みたいなクーデターを実行するのが出てこないことを祈りたい。
司馬懿がクーデター起こした時は先生もだけど、曹操や子の曹丕も御隠れになった後だからな。
この世界だと先生も健在だしそんな手合いが出てくるって問題はないよ――ね?
「心配ない」
と、ゲッコーさん。
現状、野心を抱く者がいたとしても、調子に乗ったカリオネルの末路は知れ渡っている。
こういった前例が出来た以上、邪な考えを抱く者は早々は出ないだろうということだった。
これはギルドメンバーだけでなく、封建制度であるこの世界の貴族や豪族などにも言えるという。
日和見を決め込んでいた者達もカリオネル討伐の後、王様と前公爵の繋がりが強くなったことを知った。
そして現在の公爵である俺と王様の関係が非常に良好なことも。
この関係性によって、大陸の大部分が王派閥へと力を貸すという事になる。
日和見たちの取る行動は造反ではなく、忠誠を示すことでの領地安泰が最優先という思考になる。
その証拠とばかりに、カリオネル討伐から現在、各地から貴族や豪族たちの協力が更に増えており、王様を支える旨を伝える書簡を送ると共に、派兵も約束してくれているということだった。
こういった者達は準備が整い次第、王都に馳せ参じるということで、近場のところからは既に王都へと入っている者達もいるそうだ。
兵力の増強は良きかな。
何たって戦う対象である魔王軍は、一幹部である
「……先生。現状、王都の守備兵力を残して南伐に打って出ると想定した時、どのくらいが動員できますか?」
「余裕ある輜重も考えれば――十五万の動員が可能です。今までと比べると素晴らしい兵力です」
「……ですね」
「と、言う割には声が暗いですね」
まあ、暗くもなりますよ。
その辺りもしっかりと王様のところで話さないとね。
――――。
「おおトールよ! よく戻ったな。また一段と精悍な顔立ちとなった!」
「そうでしょうか? 自分ではよく分かりません」
普段ならそんなことはないと謙遜するけども、今回は全面的な否定を自らすることはない。
何たって俺は三人の弟子を持つ師匠だからね。
師匠とういう立場が精悍さと責任感を醸し出していると思いたいからね。
それなら勇者、ギルド会頭や公爵となった時点で醸し出しとけって話なんだけども。
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