PHASE-764【弓兵ではないけど弓特化型】

「数は四百ほどだな~」


「随分と数える速度が上がったな」


「ありがと」

 ベルを召喚したばかりの時、馬に乗ってリド砦を目指している最中に魔王軍と会敵したけど、あの時は心に余裕がなくて敵兵を多く数えてたな~。

 あの頃と違って、おおよそだけども算出できるようになったのは成長だよな。


「敵にあらず」

 と、侯爵。

 ワイバーンの一騎がバレルロールのような機動を一度見せた後の発言からして、あの機動がサインになっているようだ。


「旗は?」

 王様が馬を止めて侯爵に問う。

 ここは俺のビジョンで。

 目を細めて凝視し、ズームをイメージしつつ――、


「――頭に角の生えた蛇が矢を加えているような――」


「うむ。その旗と方向。ダンブルだな」


「おお、心の友!」

 王都での集合は間に合わなかったけど、ここで合流か。

 砂塵が上がる中で隊列から一騎だけが出て来る。兜を取りつつ走ってくるのは顔を認識してもらうためだろうね。

 うん、見覚えのあるロマンスグレーのおかっぱ頭。

 馬甲を装備した足の太い馬は如何にも軍馬然としたもので、前に敵がいようものなら容易に吹き飛ばすだけの力を持っているというのが走りから伝わってくる。

 見た目に反して駿馬のようでもある。

 装備にこだわりを持つ子爵だけあって、馬にもしっかりとしたこだわりを持っているようだ。


「王よ! 我が友トール殿。馬上での挨拶失礼いたします」


「かまわん。私とて同じだ。よく戻ってくれたダンブル子爵」


「お久しぶりです」


「トール殿もしばらく見ない間に精悍なお顔になられて」

 やはり精悍という単語は、ここの貴族達にとってはテンプレの挨拶として使用されるようだね。


「なんとか自領ナムセスより四百を集めて馳せ参じました」


「領地も落ち着いていない中で四百もの参戦。感謝する。それに子爵の兵四百ならば、敵兵二千に相当する」

 ここで二万とか二十万って言わないところがリアルだね。

 実際にそれだけの実力をもった兵達なのだろう――か?

 首を傾げてしまうのは申し訳ないところ。

 

「いやはや王都の勇猛な兵達に比べればまだまだ兵卒程度です」

 だよね。言うだけあって若い子たちが多い。

 子爵のことだから無理な徴兵はしてないだろう。志願兵ってところかな。

 騎乗にもまだ慣れてなさそうな方々もいるようだし。

 徒の兵達の方が頼りになりそうだ。

 ――よし。


「子爵。よければ騎兵達を高順氏が指揮する征東騎士団の最後尾においてみては」


「なるほど。卓抜した騎兵の手綱捌きを見て覚えさせるのですね。分かりました」

 言って、合流する騎兵達を高順氏の列に加えさせる。

 見て覚えるじゃなく、高順氏のスキルである【騎兵調練】の恩恵を受けさせるためなんだけどね。

 到着する頃には普通に乗り回せるだけの力を得るかもね。

 現状、子爵の騎兵は調練が行き届いていない者達も多いようだけど、気になるのは、歩騎が一様に弓を装備している。

 弓兵って言ってしまえばそれまでだけど、背中に弓の入った革袋と矢筒を背負いつつも、手には槍を握っているからね。おしなべて弓兵とは言えないよな。


「弓には自信のある方々が多いようですね」


「よくぞ気付いてくださいました。流石は我が友トール殿」

 と、子爵は鼻高々。

 子爵の治める領地は山々に囲まれており、狩猟が盛んなのだそうで、老若男女、弓を製作することは出来て当たり前な土地柄らしい。

 また近隣にはエルフの国もあり、エルフによる師事なども他の地に比べれば盛んに行われているという。

 なので弓の技術に関しては高い練度を有しており、接近戦も射撃もこなせる万能タイプの兵が多いそうだ。

 そして子爵の家族や領民が無事だったのは、瘴気が蔓延している間、近隣のエルフの国が避難者として受け入れてくれたからだという。


「エリンダルク王には感謝せねばなるまい。領民全てを受け入れてくださったとは。流石である」


「私もこの戦が済めば挨拶に参りますので、その時に王の言葉をお伝えしようと思います」


「そうしてくれ。本当は私も礼を言いに行きたいが、まだまだ国難は続くからな」


「エリンダルク王もそれは理解しておられます。また寡兵で申し訳ないとのことでしたが、普段より我が領地にて弓製作、弓術の指導を行っている三十人の方々が、個人的協力という名目でエリシュタルト国より参加してくださりました」


「本当に感謝いたします」

 王様、北東へと馬首をめぐらし深々と頭を下げた。

 頭を下げる方向に、エリシュタルトというエルフの国家があるようだ。

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