PHASE-765【揃いも揃って美男美女】

 エルフの国家。流石に大々的に動くのは難しいようだ。

 シャルナのような冒険者として自由気ままな活動をするならいいとしても、他種族間同士のいざこざに参加するというのは、今後の禍根に繋がることも考慮すれば、協力は本来はありえない事だという。


 魔王軍が優勢な状況下において、そこに重きも置かず野心をむき出しにした馬鹿息子の愚行と、それを制止できなかった公爵との付き合いは希薄になってもいいと判断したんだろうな。

 だから個人参加という名目を使用して、王様に協力するんだろうね。

  

 心の友が言うには、命の恩人に対する恩でもあるそうだけど。

 王様だけでなくそれを聞く俺も疑問符を浮かべるけど、そんな事を忘れさせるくらいに美しい顔立ちのエルフ達が、俺達の前に現れ挨拶をしてくれる。

 男性だけでなく女性もいる。本当に目を奪われるくらいに皆、美しかった。

 

 三十人という寡兵なんだけど、全てがシャルナと同じハイエルフによる編制だという。

 そのハイエルフ達に鍛えられた子爵の兵達の弓術は間違いなく一流。

 この四百三十の軍勢が渓谷の砦に配置されれば、隘路は途端にキルゾーンへと早変わりだな。

 公爵軍は進撃も出来ずに自陣の砦に籠もるかもね。

 にしてもハイエルフが三十人か。

 弓もだけど、中位や上位魔法もバンバン唱えるんだろうな。それだけでも大戦力なんだけど――、


「おい、お仲間だぞ。挨拶――あれ? シャルナは?」


「先ほどまで私の側にいましたけど。いませんね」

 馬車に乗るコクリコは隣の席に目を向けるも、いつの間にかいなくなったという。

 反対側の窓から外を見てくれるけど馬車の周囲にはやはりいないようだ。


「きっともよおしたのでしょう。近場の茂みにでもいるのでは?」


「もうちょっと女の子らしい想像をしなさい」

 近場の茂みとか言うなよ。変に想像してしまうじゃないか……。

 かなりの変態的想像になったので、頭の中からその想像をかなぐり捨ててやった。


「さあ、こちらは一万五千。相手は四万」


「一人で二人ないし三人倒せばいいだけですな」

 王様の発言に伯爵が続き、合流したばかりのダンブル子爵が特徴的なロマンスグレーなおかっぱ頭で鷹揚に頷く。


「一人で千を倒す気概が欲しいものです。将たるものそのくらいの気骨を有さねば、下の者たちを鼓舞できません」

 と、ベルは辛口。


「しかし美姫殿。流石に我々程度では一騎当千とはいきませんぞ。美姫殿なら問題ないでしょうが」


「私なら一人で四万を倒すのになんら問題はないです。皆様にもその様なお気持ちを持っていただきたい」


「畏まりました」

 マグナートクラスのバリタン伯爵がベルに対して大きく頭を下げる光景。

 強者は凄いね。

 

 表情には出さないけども、やはりゴロ太を差し出せという内容に心底ではかなりお怒りになっているのかもしれない。

 途中参加のランブル子爵だけども、何となく場の雰囲気を察したのか、ベルと目を合わせることをしないでいた。



 

 王都の住民も参加している行軍は戦備行軍。周囲を警戒しつつの移動。

 強行軍による体力消耗は良くないからと、ペーズを乱すことなく、夜はしっかりと野営を行い、歩騎での行軍行程は本来なら四日だそうだけど、あえて一日送らせての五日目にウルガル平野へと到着。

 

 その間に別働隊だったS級さんとガスマスクを装備した王兵の方々もヘリで帰還。

 王城での話通り、各地へのビラまきに、地方の貴族豪族に先生の親書を無事に届けてくれたそうだ。

 読めば皆一様に笑みを湛えて納得してくれたという。

 親書には相手を喜ばせる文章が書かれていたんだろうね~。


 ――――マイヤと、王都帰還の最中に出会った近衛の人が出迎えてくれる。

 側にはゲッコーさん命名の黒鍬が数人。

 バトルスコップは持っていないけど、佩いた鞘には山刀サイズの刀剣と、左官の人が使う金鏝をぶら下げていた。

 中塗鏝より一回り大きく厚みのある金鏝は、壁上の修復時には従来の土を塗る作業に使用するそうだけど、戦闘時には盾としても使用するという。

 グリーンセイフティと名付けた兜同様、これらもゲッコーさんのアイデアが採用されたということだった。


「お待ちしておりました。王」


「どういった状況だ」

 ――問えば、やはりというべきか、麓と要塞から兵達が砦方向へと進軍を開始したそうだ。

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