PHASE-1610【百四騎】

 伯爵に対するイメージの違いが顔に出ていたようで、


「クセはありますが、心根はとても純粋な御方です」


「王様もそう言ってましたよ」


「なんと喜ばしい」

 と、本心から喜んでいるルーフェンスさん。

 主が褒められると喜ぶ。

 高い忠誠心の持ち主のようである。


「邸宅の庭園に着陸地点がございます」

 目印となる大きな伯爵家の旗が棚引いている。

 ツッカーヴァッテだとギリギリってところかな。

 

 ――……バリバキッ! やや広さが足りなかったな……。

 木々に花々の一部を破壊してしまう。


「申し訳ありません……」


「自分が着陸の指示を出したので」

 非は自分にあると、こちらを立ててくれる。


「何事だ!」

 顔を真っ赤にした人物の登場。

 次には、


「おおう!? なんだコイツは!? デカい蛾だ! 警戒態勢!」

 こちらに言葉を投げかけることもなく、出会え出会えムーブをかましてくるけども、


「速いね」

 最近は対応の素早い兵達をよく目にするけど、ここの面々も良い動きをしている。

 全体的にこの領地の兵の練度は高い。


「落ち着いて頂きたい」


「ルーフェンス殿!?」

 先ほどの騎馬兵たちよりワンランク上な装備。

 邸宅でワンランク上ってなると、


「ハダン伯の近衛ってところかな?」


「はい、彼は近衛隊長のイシット殿です。伯爵様が遠出の時は、残されたご家族の守護を任されております。信頼は出来ます」

 そう言うので、信じましょう。

 でかい梟から飛び降り、俺達の素性をイシットさん一人に説明。

 驚きつつも、頭を下げてのご挨拶。

 仰々しさを避けたのは、俺達の立場を馳せ参じた兵達に知らせないためでもあるのかもね。

 ルーフェンスさん同様、気配りが出来るようだ。

 

 代表して俺が挨拶を交わし、ターク氏への面会を求めれば二つ返事。

 

 ――ルーフェンスさんと共にイシットさんが俺達を案内してくれる。


「質素だな」

 廊下には来客の目を楽しませるような調度品や絵画などはなく、淡い朱色の絨毯が敷かれているだけ。

 無駄なことには財は使用しないのがこの邸宅の主です。と、イシットさんもルーフェンスさんと同じことを口にする。


「では先触れを務めさせていただきます」

 イシットさんはそう言うと、廊下を駆ける。

 足音に、鎧の擦れる金属音も最小限。

 即応。動作。

 どれをとっても、


「良い動きだ」

 ベルからも感心されていた。

 ――廊下を真っ直ぐ進み、ややあって右へと曲がったところで、


「この先となります」

 ルーフェンスさんが言うように、廊下の先にある扉の前ではイシットさんが待機。

 俺達の歩む速度を見計らったところで、扉を開いて中へとスムーズに入室させてくれる。


「これは公爵様。出迎えられなかったこと何卒ご容赦を」


「いえいえ。いきなりやって来たこちらに対し、直ぐに面会してくださったことに感謝します」

 返しつつ室内を見渡す。

 間取りからして執務室。

 堆く積まれた羊皮紙の多いこと多いこと。


「お恥ずかしい限りです。我が主が王都へと立たれてから二十日ほど。私一人で主の政務をこなすのは荷が重かったようです」


「そうは言いますが、この地を訪れた時と、この邸宅を訪れた時の兵達の即応と対応力は素晴らしかったですよ。下が優秀だという事は、上が優秀だという事。ハダン伯は能吏に恵まれているようで」


「これは――噂に聞く以上に人の心を喜ばせる術をお持ちのようで」

 数々の戦いだけでなく、人誑しってのも伝わってるんだな。

 そんなつもりはないんだけどね。


「本心を言っただけですよ」


「挨拶が遅れました。ターク・バエです。ロイル領全体の内務の長を任されております」

 内務大臣的な立場って事か。


「内相ってやつですかね?」


「そう思っていただければ」

 ハダン伯に代わってロイルの内部を取り仕切っている訳だから、実質ナンバー2だな。

 

 ――積み上がった書類の厚みが疲労と比例しているとばかりに、目の下のクマは濃い。

 中高の壮年。

 激務で身なりを整える余裕がない中で俺との対面。

 乱れたブラウンヘアを整えるだけで手一杯だったご様子。

 出迎えに来られなかったのも、最低限の身だしなみに時間を割いたからだろう。

 それでも間に合わなかったのか、オールバックの側面と襟足部分の髪がピョンとはねていた。


「恐れながら公爵様。この地へはどの様なご用件で?」


「こちらとこちらに目を通していただければ」

 巻かれた羊皮紙と書簡。

 封蝋はよく目にするものだからと、諸手で恭しく手にすれば、封を剥がして中身を確認。


「……なんと言うことだ……。公爵様のお仲間がこの地にて行方知れずとは……」


「多忙の中、申し訳ないのですが協力をお願いします」


「無論です! ルーフェンス。都市へと留まり、メメッソ担当の騎鳥きちょう隊の指揮を頼む」


「はっ!」

 騎鳥隊――リレントレス・アウルによる部隊。

 総数、驚きの百四騎。

 エンドリュー候の飛竜騎兵隊――略して竜騎兵の三十七騎を余裕で超える数である。

 よもやこんなにも空で活躍できる戦力を有しているとはね。


「ハダン伯は力を隠し持っているようで」


「いえいえそんなことは決して!」

 必死なタークさん。

 野心を抱いている者に対しての言い様と受け取ったようで、自分たちの王に対する忠誠は揺るぐことはなく、この力も王のために獲得した力だと力説。

 長い時間をかけて飼育に励み得られた力。

 

 だが欠点もあるそうな。

 竜騎兵と違って積載量には限界があるという。

 梟の単独飛行なら長距離飛行も問題ないが、二メートルほどのサイズに人一人が騎乗となれば話は変わる。

 騎乗させれば負担となるし、尚且つ武具を装備しているので飛行時間と距離には制限が出てくる。

 それを緩和するため、武具は軽量化。

 乗り手も軽量でなくてはならないので、細身で身長の低い者が選出されるという。

 ――鶏冠に誤魔化されていたけど、横に立てばルーフェンスさんの身長は俺よりも低い。

 160㎝くらいだ。

 

 ワイバーンやヒッポグリフは巨大で筋力もあるから積載量が高いのが強味。

 だから巨躯で重装備の兵士でも問題ない。

 

 戦闘機と大型爆撃機の違いみたいなもんだな。

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