PHASE-1609【中心都市メメッソ】

 自分が代表者であるという事を示すためにも……一応……、


「自分のマントが……証明となってくれればいいんですがね……」

 六花のマント。全くもって効果が無いから自信なく背中を向けてしまう俺氏……。


「まさか!? そのマントは!」

 真っ先に反応してくれたのは、デッカい梟に乗っていた五人の中の一人。

 上空にて警告を出してきた人物である。

 梟から降りれば即座に跪く。

 この人だけ兜の頭頂部に鶏冠を模したモヒカンがついていることから、部隊長と見ていいだろう。


「それは王から賜ったものでは?」


「そうです」


「これは大変に失礼なことを!」

 慌てる鶏冠さん。


「皆、降りよ。この方は勇者様である」


「おお!」

 驚きの声を上げるのは相手側ではなく――俺。

 まさかマントがここまで通用するなんて思いもよらなかった。


「勇者様――となれば公爵様!?」

 次に騎馬部隊の隊長と思われる人物からの驚きを混じらせての質問に、


「ああ、はい。ミルド領を預からせてもらっています」


「これはとんだご無礼を! 平にご容赦ください」

 黒髪に、赤と黒からなる装備。

 噂話で聞いている人物と一致していると興奮気味。

 数々の活躍を耳にし、奇跡的な勝利をもたらしてきた存在が目の前にいることに武人として感極まっております! と、聞かされるこっちが照れくさくなる。

 

 俺は照れくさいが、これを耳にするミルモンとジージーは自分の事のように誇らしいのか、大層ご満悦。

 ミルモンは分かるが、出会って日も浅いジージーがここまで喜ぶとはね。

 俺って、こういった面子からの好感度が異様に高いよね……。


「公爵様。この地にはどの様なご用件で?」


「ああ、それは――」

 目的をそのまま述べるのはよろしくない。

 初対面だ。誰がどこと繋がっているのかも分からないのだから。

 ――……となると、正体を明かすべきではなかったな……。

 俺の阿呆……。


「伝える事は出来ません。ハダン伯の右腕と言われるターク氏に我々の来訪を直接、伝えさせていただく。あと、勇者一行が訪れたことも他言せぬように。この場にいるそちらの十五人の心にのみ留めていただきたい」

 と、継いでおく。

 これには十五人とも歯切れの良い返事。

 ミルモンを見れば、問題なしとばかりに首肯。

 邪な負の感情ってのはないようだ。


「申し上げにくいのですが、いくら勇者様であり公爵様であられましても、それだけでこの先をお通しするということは……」

 だよね。

 優秀だね。


「貴男のお名前は」


「あ、ああ……」


「別に不遜である――とかって意味じゃないですよ」

 お偉いさん相手であっても、確証を得ないかぎり十全では信じないってのは素晴らしいからね。

 領空を守る守護者が優秀だとハダン伯も鼻が高いでしょう。

 そう言えば、照れくさそうにしながら跪いた姿勢で顔を伏せ。

 

 ややあって、


「ルーフェンス・オルドナルと申します」

 と、鶏冠さんことルーフェンスさん。


「では顔を上げたルーフェンスさん、この二つを見ていただきたい」

 俺が雑嚢から取り出すのは、ハダン伯から貰った認可状の羊皮紙と、ターク氏宛の書状。

 紐で結ばれて巻かれた羊皮紙と、封のされた書状。

 二つに共通するのは封蝋。

 この封蝋に目が行けば、


「ここからも自分が案内役を務めさせていただきます」

 と、理解が早くて助かるというもの。

 騎馬兵の方々にはお帰りいただき、残った空担当の五人が全て同行――するというわけではなく、ルーフェンスさんのみによる誘導。

 残りの四人にはロイル領への脅威に対して目を光らせておくように。と、指示を出し、


「ターク様は中心都市であるメメッソにて政務に励んでおられますので、そこまで誘導いたします」

 メメッソね。


「メメッソへと向けて頼むよツッカーヴァッテ」


「キュゥゥン」

 背へと飛び乗り、ルーフェンスさんが先に空へと上がれば、ツッカーヴァッテもそれに続く。

 

 ――俺達が降りたロイル領初の町であるカルトネサという名の町はスキップし、そんでもってその他の町や村もスキップしてからの――、


「眼下に見えるのがメメッソとなります」


「おお!」

 流石は伯爵が統治するだけあって立派な中央都市だ。

 規模的にはエンドリュー候のところを小さくした感じ。

 目抜き通りから碁盤目のように通路が広がっており、中央から外壁の防御壁まで赤煉瓦造りの建物が続いている。


「美しいね」


「有り難うございます」

 素直な感想にルーフェンスさんも嬉しかったようだ。

 一部を除いて豪雪地帯であるミルドと違い、南側に位置するロイル領は温暖な気候のようだから、農作物の収穫もいいようだ。

 ここまでの道中で眺めて分かったのは、手入れの行き届いた田畑。

 畜産も盛んだったから、この辺りは飢えに苦しんではいないと思われる。

 

 クセは強いし、無駄に自信家ではあるが、悪道に足を踏み入れることはないと王様がハダン伯を評価していたけども、地上の風景を眺めていればそれは理解できる。


「中心都市となれば、大通りは馬車の移動が盛んですね」


「主にクルーグ商会が活動しております」

 幌馬車が次々と大通りを往来。

 メメッソを訪れる一団もあれば、出立する一団もある。

 他の商人さん達からは、余所様のところまで踏み込んでくるルールを守らない商売敵として嫌われているけども、上空まで届く快活な声にて馬車を走らせている姿からは、商魂の逞しさが伝わってくる。


「もうすぐ伯爵様の邸宅です」

 ――ほう。


「以外とこぢんまりとしてるね」


「だな」

 左肩からの耳打ちに、俺も小声で返す。

 プライドの高い人物だから大邸宅、大豪邸ってのをイメージしていたけども、この地の統治者が住むにしては些か迫力に欠ける。

 十分な敷地面積ではあるけども、エンドリュー候なんかと比べれば半分もないような気がする。


「ご自分や一族の為に優先して金銭を使用する事もなければ、無駄な蓄えもしないという御方です」


「へ~」

 これまた以外だな。

 質素な生活を心がけ、領民に還元しているそうな。

 無駄な自信家の姿とは真反対なイメージだな。

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