PHASE-1611【そりゃ基本ですわな……】

「来たるべき南での戦い。騎鳥隊には大いに活躍してもらいたいです」


「もちろんでございます。なあ、ルーフェンス」


「はい内相。我々も来たるべき反転攻勢のために日々、実戦に近い訓練を行って参りました。大いに活躍し、ロイルの兵は大陸一と知らしめてご覧に入れます!」

 荒々しくも自信に溢れたルーフェンスさん。

 期待できる。

 ミルモンを見れば、俺達の来訪とその目的に対し、タークのおっちゃんは負の感情を抱かなかったと耳打ち。

 ゴロ太の行方に関しては知らないと考えていいだろう。


「伯爵の指示による派兵。王都へと馳せ参じるにしても、騎鳥隊は半数を向かわせるとして、歩兵と騎兵を動員するとなれば――」

 兵糧から算出しつつ――、


「まずは七千の派兵となりますか」

 良い数字だ。


「有り難うございます」

 深々と頭を下げる。


「おやめください公爵様。頭を下げられれば返ってこちらは肝が冷えます」

 上の者には上の者の所作がある。

 腰が低ければ相手をつけ上がらせる事にもなりまする。と、継ぐ。

 そう言われても腰が低くなってしまうのは、俺がナチュラルボーンな庶民だから。

 

 でも、そう言うので、


「領主共々、王への忠功大義である」


「はっ!」

 快活よく返してくれた。

 言った俺は普段使用しない言葉だったから、恥ずかしくてたまらない。


「お仲間の子グマの情報はこちらの手の者にも――」


「ああ、いえ。可能な限りは広めたくないので」


「――分かりました、口が堅い少数精鋭を選抜しましょう」

 話が早くて助かる。

 子グマが単体でこの地まで来るとは考えられないし、その保護のために勇者で公爵な存在がわざわざ来るというのもおかしなもの。

 となれば特別な存在だし、この領内に不遜を働いた愚者がいる可能性があるというのを瞬時に察してくれる。

 ハダン伯が留守の間、全幅の信頼にて領地を任せられる優秀な人物なだけはある。


「私も内々に調べてみます。兵を動員したい時は、メメッソに留まるこのルーフェンスが指揮をする少数精鋭の部隊をお使いください」


「感謝します」

 ――執務室を後にし、邸宅の広間へと案内される。


「やれやれ、やっと一息か」

 出された紅茶を豪快に呷るガリオン。

 味や余韻を楽しむなどということはなく、喉を潤すためだけの飲み方。


「一息をつくほど疲れてはいないだろう」


「俺も四十手前なんでね。空の旅は快適でも疲れるってもんだ」


「そんなヤワなことを言うには説得力が無いくらいに鍛え抜かれた筋肉だけどな」


「ありがとよ。で、闇雲に動いたところで解決には繋がらないだろう」


「急に真面目だな」

 ミルモンの見通す力を使うにしても、次の日まで待たないとならない。


「俺達に出来る事があるとすれば」


「まずは足を使うしかないだろう」


「おう」

 気合い十分なベル。

 情報を得るためにも、市井へと行ってみようとのこと。


「まだ日も高いし、やれることはやろう」

 ベル同様やる気に漲るワックさん。

 このやる気に背中を押される俺達と、物理的に背中を押すことで動くガリオン。

 

 ――皆して大通りへと到着。


「盛況だな」

 活気がある。

 歩いているだけで店先や街商から呼び止められて商品を勧められる。

 特にベルは目立つので、様々な装飾品を勧められていた。


「うん。大通りはやっぱ駄目だな」


「真っ当な連中が多くを占めているだろうからな。いかがわしい情報は入りにくいだろう」

 大通りから外れた飲み屋なんかに行けば、それらしい情報も手に入るだろうけども、それは夜の方がいいだろう。


 ――一応、店を構えている商人や旅商人から情報を仕入れるも、有力な情報は得られなかった。

 王都方向から珍しいモノが届いたという話が広がっていないか? と、質問するも、普段通りの物しか入荷していないということだった。

 しかも不満げな表情で返される……。

 王都からの商品はほぼクルーグ商会が押さえていることもあって、王都経由の商品と耳にすれば、他の商人さん達が不愉快になるのも仕方ない。


 ――……ぬぅぅぅぅぅん……。


「白色の子グマと、ありのままに質問できないのはネックだな……」

 ゴロ太がこの領内へ来たのは、飛行能力のある生物の協力によるもの。ってのもまだ憶測の域だしな。

 その憶測にて行動しているのだから、芳しくないのは当然。

 やはりミルモンの能力待ちになるか……。

 

「後は、夜まで待って場末の酒場辺りで情報を集めるか」


「待つのもいいが、もう一つ情報が行き交う場所を探してみてもいいんじゃないか?」


「ではその場所に導いてくれ。ガリオン」


「ついてこい」

 なんだよ。初めての土地だってのに颯爽と歩くじゃないの。

 我が身一つで外交担当をしているだけあって、初めての場所であってもズンズンと進んで行く姿は頼りになる。

 

 ――ほう。


「ついたぞ」


「なるほどね」

 ギルドハウスへと案内された。


「酒場以外だとこういう場所は定石だろう」


「だな」


「いやいや、真っ先にここが浮かばない時点でな。大丈夫か? 公爵様で勇者様で――ギルド会頭様」


「くっ……」

 バカにしてくるじゃないか。

 強面の壮年が全力の嘲笑にて煽ってくる……。

 図星で言い返せないでいるからか、余計にしたり顔ですわ……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る