PHASE-953【斬ることでの解放】
正直、羊皮紙に目を通していた俺達からすると、アンデッドがいるだろうというのは想定できていた。
でも信じたくない気持ちもあった。
だがオムニガルの発言で、羊皮紙の内容が本当だという事になれば、カイメラという組織は絶対に野放しに出来ない連中だ。
討伐対象として最重要にもなるし、勇者として俺自身が討伐をしないといけないだろう。
相手が人間であろうとも、討伐を大義名分に、俺は怒りのままに残火を振るうかもな。
「感情が体から出てるぞ。ちゃんと内側で留めとけ」
指摘してくれるゲッコーさんにお礼を一言。
高ぶった気分を落ち着かせるために深呼吸をしてから、
「とりあえずアンデッドならリンが対話をしてくれれば大人しくなりそうだな」
「見た目しだいね」
醜悪な者なら相手にしないという。
酷薄な言い様だとは思ったけども、むしろしっかりと供養してやった方がここに巣くう者たちにとっては救いとなるでしょう。と、継ぐあたり、ここで実験に使われた者たちに対しての同情の念は抱いているようだ。
――。
「次の扉だぞ」
ここも先ほどと同様の頑丈そうな鉄製の扉。
当然ながら同じような手法なんだろう。
頼む前にリンがフィンガースナップ。軽くなったハンドルを回して俺が扉を開く。
「シッシャァァァァァァア!」
「おう! いきなりかよ」
重厚な扉を開き始めると同時に、小型の存在が叫びながら扉の隙間から手を出してくる。
次にはドンドンドン――ッ。
無慈悲な連射音が轟く。
AA-12 の威力に押し負けて、扉の隙間から手を出してきた存在は反対側に強制的に吹き飛ばされた。
ゲッコーさんは立て続けに銃火を隙間へと撃ち込んでいく。
「さあ一気に攻めようか」
射撃により扉向こうの動きを妨げた事を知らせる発言。
それに合わせるように俺は一気に扉を開ききり、ゲッコーさんに続いて扉向こうへと入り込む。
扉の先は十畳ほどの部屋。
部屋の中では人間の子供くらいの身長からなる存在が一斉にこちらを睨んでくる。
攻めを妨げられた事への怒りなのか、はたまた生者に対する憎しみなのか。睨みからは負の感情がしっかりと伝わってくる。
「シャァァア!」
「せい!」
俺に続いて入ってきたコクリコがミスリルフライパンによる強烈な一撃を飛びかかってくる存在の顔面に叩き込む。
クリティカルな一撃を受けて吹き飛ぶも、着地すれば直ぐさま威嚇するように叫ぶ。
長い鼻は一撃によってひしゃげているがお構いなし。
「ゴブリンもこうなるとやっかいですね」
眼前でひしめくのは、コクリコの言うようにゴブリン。
ダークグリーンの皮膚は本来の皮膚よりもどす黒い。また体のいたるところで皮膚がはがれており、じゅくじゅくと腐っている赤紫の肉が見えている。
「完全に頭を叩きつぶさないと流石に駄目なようですね」
顔面ではなく、頭頂部に目がけて思いっきり振り下ろすべきでした。なんて言いつつ、左手に持ったワンドの貴石が赤色に輝けば、
「ファイヤーボール」
お得意の魔法を発動。
装身具のタリスマンも輝き、バスケットボールサイズとなった火球は、鼻がひしゃげたゴブリンに追撃として放たれる。
「ビュ!?」
小さな体は短い叫びをあげながら吹き飛ばされ、周囲のゴブリン達も爆発に巻き込まれる。
「これは短時間で決めないとな」
普通のゴブリンとは明らかに違うからね。
本来、強者の圧に当てられれば、恐れに支配されて戦いを仕掛けてこないであろうゴブリンだが、アンデッド故に恐怖耐性を獲得。
前衛に立つゲッコーさんに対して恐れることなく攻めてくるのが良い証拠。
無論、強者に襲いかかれば弾丸によって頭を破壊され、直ぐさま行動不能という末路だが。
「これがゴブリンゾンビか」
羊皮紙に記載されていた実験体の一つ。
最初に足を踏み入れた部屋に並んでいたコクリコが入れそうなカプセルには、アンデッドになる前のコイツ等が入っていたのかもな。
「乱痴気ね。こんな状態じゃ対話なんて土台無理」
言いつつリンがフィンガースナップ。
数体のゴブリンゾンビの下方から炎の柱が立ち上がり、一瞬にして黒焦げとなってボロボロと崩れていく。
「これが本来のブレイズね」
「勉強になるよ。ブレイズ」
俺の場合は残火のタリスマン頼りによる発動。刀身に炎を纏わせてから、
「ラピッド」
一気に間合いを詰めて数体を斬獲していく。
斬られれば対象は炎に包まれて倒れる。
リンと比べればまだまだな威力。
もっと威力を上げる努力をしないとな。
「そら!」
今後の事を考えつつ小さな体を斬っていく。
アンデッドだから痛みなんかはないだろうけども、好きでアンデッドになったわけではない。
現状からの解放を目的として俺は斬り続けていく。
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